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未遂

 攻撃を斧で受けながら、俺はドラッドの隙を探した。1発1発の衝撃からして全力で振っているように思えるが、反撃のタイミングが掴めない。というより、相手はこちらに返させない為に大技を控えいる節さえある。6発目を受けた時点で手に痺れを感じ、7発目で斧が刃こぼれしているのに気付いたので、8発目は大きく横に跳んでかわした。地面を転がったので服が汚れた。


「戦うんじゃなかったのか!? オイ!」

 血走った目で俺を睨むドラッド。

 長期戦になれば、兵士の数で勝るこちらに有利がある。が、この猛攻を凌ぐのはせいぜいあと1分が限界だろう。多少の怪我を覚悟で反撃に転じても良いが、相手がまだ何か奥の手を隠している可能性もあり、それが致命傷にならないとも限らない。

 さて、どうした物か。


「何をしているの!? 早くロディ様を助けて!」

 俺の背後から声がした。振り返るような愚行はしないが、声の主はすぐ分かった。タリアだ。


 馬車を警護していた兵士達は、突然の襲撃で自分の担当する馬車を守るように動いた。しかし馬車に乗っている要人が2人とも出てしまっては、空の馬車を守る意味などない。タリアがこちらまで来たのなら必然、対象は後方になる。


「早く囲んで! これは命令です!」

 タリアが声を張ると、様子を見ていた兵士達は横に広がってじりじりと距離を詰め出した。不利な状況を理解したのか、ドラッドが俺を剣で指す。

「これは敵討ちだ。男らしく1対1で決着をつけろ!」

「断る」

 当然だ。こんな筋肉馬鹿の相手を1人でしなくちゃならないなんて、一体何の罰なのか。

「この卑怯者が!」

 ドラッドはそう言って再度飛びかかろうとしたようだが、俺が兵士の所まで下がる事を直感したのだろう。突撃をやめて、歯軋りした。


 そうこうしている内に、更に後方のナイラの部隊からも応援が来た。数だけで言えば、これで20対70という所か。挟み撃ちという事もあり、いくら相手が魔人といえど不利ではある。

「……ちっ。退くぞ!」

 ドラッドが部下に命じたので、一応挑発しておく。馬鹿だから乗ってくれるかもしれない。

「弟の敵討ちじゃなかったのか? その程度の覚悟で来るのはやめておいた方が良いぞ」

「黙れ。いつか殺してやる」

 流石にそれはないか。


 そのままドラッドは茂みに消えていった。

「追いますか?」

 味方の兵士に尋ねられ、俺はそれを否定する。

「安全確認の方が先だ。チュートンを助けてやれ」

 可能性は低いが、誘いの可能性もある。少数部隊での襲撃はやはり利に適っていないし、グレンについても気になる。追撃は悪手だ。


 こうして、ドラッドによる襲撃は中途半端な結果に終わった。死者はこちらが5名であちらが2名。それとこちらからは怪我人が7人出た。幸いにもチュートンは無傷だった。


 負傷者の手当てを待っている間、俺は馬車の外でタリアに迫った。


「馬車の中で待っていろと言ったのに、出てきたな?」

「そのおかげで撃退出来たではないですか」

「結果論に過ぎん。お前が殺されていた可能性もある」

「ロディ様が守ってくれます」

 呆れた奴だ。だがまあ確かに、ドラッドはまともに相手したくない奴である事は分かった。タリアの顔を見られたというのは少し気がかりだが、今後直接関わる事はあるまい。

「いいから、俺の命令に従え」

「……分かりました」


「……あ、忙しそうな所すまん」

 そこにチュートンがやってきた。商人組合本部での大柄な態度とは違い、若干だが顔色が悪い。

「ここからノード農場への道中なんだが……その……そっちの馬車に乗せてくれないか?」

 もごもごと話すチュートンに、商談の際のやり手感は一切ない。

「……魔人の襲撃にビビったか?」

「い、いや、そんな訳あるかよ! ただ、再度やってこないとも限らん。あんたと一緒にいた方が安全だと判断しただけだぜ」

 魔人の血が流れているという俺の読みは間違っていたかもしれない。間違ってなかったとしてもやはり商人は商人か。

「良いだろう」

 貸しを作る意味でもここは快く受け入れる。


「タリア、代わりにチュートンの馬車に乗れ」

「ななななんでですか!?」

「いくら高級馬車とはいえ3人は狭い。チュートンの方は多少の傷はあるが動くようだし、1人がそっちに乗った方が広く使える」

 わざわざ説明しなくても分かるような理屈だが、タリアはむすっとしながらチュートンの方を睨んでいた。

「……また命令に逆らうのか?」

 そう尋ねると、タリアは次に俺を見てきた。俺も黙って視線を返す。しばらく沈黙が流れたが、折れたのはタリアだった。

「……私が怪我したら責任取ってもらいますからね」

 そんな捨て台詞を吐いた後、タリアはチュートンの馬車に乗りこんだ。


 俺も馬車に戻ろうとした時、ヘカリル家の次男フレンクが話かけてきた。タリアとチュートンとの話が済むのを待っていたのだろう。

「……兄が迷惑かけた。申し訳ない」

「気にするな。奴の方が魔人としては正しい」

 肉親を殺されたのだから、復讐の動機としては十分だ。仮に俺が怒っているとすれば、その矛先は大きな目的の為に部下を御する事が出来なかったグレンに対してだ。

「この詫びは、必ず」

 フレンクは短くそう言うと、ナイラの馬車へと戻って行った。


 ズーミアについただけあって、感情よりも理性を重視する性格のようだ。内心では当然俺を恨んでいるのだろうが、それを決して表には出さない。ある意味では直情型のドラッドよりも恐ろしくすらある。


 それからの道中、チュートンからは王都の市場について聞く事が出来た。魔王様による侵攻が始まってからは物価が不安定になったが、勇者の登場でそれが安定。だが勇者の死亡によって、今再び経済は不安定な状態にあるらしい。

 特に交易路が攻撃されると、物質の供給が滞り、真っ先に食料品が高騰する。そういった意味でも、高い生産力と元魔界四天王のお墨付きである俺の農場には期待度が高まっているらしい。祝祭での一件で民衆からの信頼を勝ち得たのもやはり大きい。

 チュートンの方からは、やたらと土のエレメントに関する質問が多かった。もちろんまともに答えはしない。ただ土を改善して良い畑が出来るという事だけを伝え、『成長促進』『土加速』『操魔の指輪』とのコンボあたりについては伏せておいた。当たり前だが、魔王様復活の為のキーアイテムになる事もだ。


 これから長い付き合いになるであろうビジネスパートナーとの仲が多少深まったあたりで、俺はノード農場に帰ってきた。


 再開の挨拶もそこそこに俺は集団を離れ、1人で畑の見張り台にやってきた。周囲を確認した後、通信宝珠を起動する。


「……グレン、俺だ」

「その声、ロディか。どうした?」

「お前の部下について話がしたい」

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