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商談成立

 交渉開始から3時間が過ぎた。窓から外を見るとすっかり日は暮れている。横で見ていただけのタリアですらすっかり疲れており、俺もぼちぼち疲労を感じてきた。チュートンも似たような物だろうが、もちろんそれを表に出すような愚行はしない。


 書面にはいくつもの項目と数字が並び、そこにバツが書かれたり、赤い丸で囲われたりしている。相手が商人組合の過去の実績を示せば、こちらは収穫高とそれにかかる経費を並べたて、相手が値段設定とその理由を書き連ねれば、こちらはノード農場で獲れる野菜の希少性を説く。


 ここまでで概ね同意が出来たのは以下の通り。

 契約は独占。販売にかかる経費は商人組合持ち。値段設定も商人組合が決める。ただしノード農場内での販売については完全に自由であり、野菜の最低価格は市場にある他の同種の野菜に合わせる。

 新しい種類の作物を取り扱う場合、チュートンからの承認は不要。だが収穫した物は必ず報告してサンプルを納品する義務がある。

 売り上げや需要に応じて商人組合から出荷して欲しい野菜のリクエストが出来るが、それに応じるかどうかはこちらの自由。都度交渉。

 他の農家への出張とフランチャイズに関しては、商人組合が他農家側との間を取り持ち、正式に俺へと依頼する。俺はその条件を見て受け入れるかどうかを決める。他農家から出荷された野菜の売り上げの内、20%を俺が頂く。もちろんこれも専属契約の一部に含まれる。


 さて、あとの問題はノード農場から直接出荷する野菜の取り分に関してだ。俺が要求した数字60%に対して、チュートンが示したのは40%。最初よりは上がったものの、そこにはまだ20%の開きがある。


 交渉が煮詰まってきたタイミングを見計らってか、チュートンが口火を切る。

「これは噂で聞いたんだが、サガラウア島のシルファが作っている大麻に、あんたも関わっているらしいな」

 これがおそらくチュートン側の切り札だ。事前に調べた情報の中でも、俺の弱味になる可能性のある部分を押さえていたのだろう。


「そいつはかなりまずいよな? 大麻の栽培は当然法に触れるし、商人組合でも取り扱いを禁止している。あんたと契約をかわすにあたって、ここははっきりさせておく必要がある」

 狸が。と俺は心の中で毒づく。商人組合が裏で黙認していなければ、シルファの作った大麻を王都内で流通させるのは難しい。さっき俺を脅したように、特定の商品を排除するのなんてこの男にとってみれば簡単な事だ。旨味があるから放置している。頭に闇とついてもそれが取引であるのならそこに儲けは生まれる。

 だがもちろんそれは口に出さない。もう1枚の切り札をこいつに切らせてからだ。


「島に出張して畑を作ってやった。そこで何を育てるかは奴の自由だ」

「おいおい。元魔界四天王の2人が同じ島にいて、1番の儲け話はしなかったってのを俺に信じろって? それは都合が良すぎるんじゃねえか」

「別に信じてもらわなくて結構だ」

「まあそう言うな。あんたが今関わってないってんなら、問題にするつもりはねえ。ただ、こちらがそれを知っているという事を知っておいて欲しかっただけだ」

 にやにやと笑うチュートン。もう少し誘ってみるか。


「別にそれを民衆に向かって宣伝したって良いぞ? 俺は人気が欲しくて農家をやってるんじゃない。スキャンダル、話題になれば大いに結構だ」

 チュートンは少し間を置いて、こう告げる。

「民なんかあてにしちゃいないさ」

「ほう」

「商人組合はこの国からそれなりの権限を与えられている。健全な商売と国の発展の為にな。昨日までそれは王家への繋がりだったが今この国の実権を握っているのは、堅物で有名なクラリス様だぜ? スネの傷が致命傷にならないとは限らないと思うがな」

「聞いてみるか?」

「……何だって?」

「今、直接クラリスに聞いてみたらいい。俺がシルファの大麻栽培に関わっていたとして、どのような処罰が考えられるのか、ってな」


 こいつの切り札。それはクラリスだ。清廉潔白である事を求め、俺の口を塞ぎたいなら、その存在は紛れもなく有利に働く。だが残念。俺の味方はズーミアだ。


 俺は通信宝珠を机の上に置き、コールするように促したが、チュートンは俺の様子を伺っている。相手からすれば、泥棒が自ら手錠を自分の手にかけ始めたような物だ。不気味過ぎて慎重になるのは当然と言える。


 仕方なく、俺は魔力を込めて通信宝珠を起動しズーミアを呼び出した。幸いにも今回は1発で出てくれた。

「ロディか。どうした?」

「やあ、『クラリス』。今商人組合にいてな、そこの組合長のチュートンと交渉中なんだ。数字に関してちょっと折り合いがつかない。間を取り持ってくれないか。忙しい所申し訳ない」

 少し沈黙が返ってきた。当然ズーミアはここまでの流れを知らない訳だが、いつもと違ってフレンドリー過ぎる俺の態度から、奴なら状況を察する事など容易いはずだ。

「他ならぬ友人の頼みだ。いいだろう」

 俺はチュートンに通信宝珠を向ける。


「……もしもし。商人組合のチュートンです。本来なら先にご挨拶に行くべきでしたが、お忙しそうでしたので、すいません」

 比較的丁寧な口調になるチュートン。距離を測っているようでもある。

「気にするな。それで、揉めている事とは?」

「取り分の比率だ」と、俺が横から口を出す。「例の野菜を売る際に、6:4か4:6かで揉めている」

「いや、あの……」

「当然、農家の意見を聞くべきだ。農業は国を支える礎。最大限に譲歩すべきだ。違うか? チュートン」

「あ、そ、それは仰る通りなんですが……」

「ロディ6の組合4。これで話は終わりだ。切るぞ」

「ああ、すまなかったなクラリス。ありがとう」

「すみません。また改めてご挨拶に……」

 既に通信は切れていた。相手の切り札を奪って勝つ程気持ち良い事はこの世にない。


「……ちょっとズルすぎますぜ。ロディさん」

「くっくっく……」

 意気消沈するチュートンの肩を叩いて、今日の交渉は終了した。


 とにかくこれで、俺は王都で野菜を販売する権利を得た訳だ、具体的な輸送手段や、野菜の管理などは明日また煮詰めるとして、今日は宿に帰ろう。契約金の1億ゼニーは、商人組合にそっくりそのまま預けておいて、とりあえず今後動く為に200万ばかり引き出しておいた。


「……やれやれ。なかなかの強敵だったな」

 宿屋に帰ってきた俺が呟くと、意気消沈したタリアが答えた。

「ロディ様、お役に立てなくて申し訳ありません」

 秘書としての仕事が出来なかった事を気にしているようだ。

「気にするな。奴は『別格』だ」

 俺の言葉選びが珍しかったのだろう。タリアが確かめにきた。

「別格、ですか?」

「多分だが奴には魔人の血が少し流れているようだ」

「魔人の……血?」

「魔王様による侵攻が始まる前から極稀にだが人間と魔人の交流はあったからな。まあ、そういう事もあるだろう」


「そういう事!?」

 ここで1番食いついてきたのは意外だった。

「な、何だ?」

「そういう事っていうのはつまり、そういう事ですか?」

「……何が言いたい」

「魔人と人間でも男女で交われば子供が生まれるんですか?」

 ぼかした表現から一転、単刀直入な質問に俺は知っている事を答える。

「出来にくいとは聞いた事はあるがな。全く生まれないという訳ではない」

 タリアは俺をじっと見て固まっている。


「何か言いたい事があるのか?」

「ありますけど、今は言いません」

「……何故だ?」

「もう少し駆け引きを学んでからにします」

 正直な奴だ。

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― 新着の感想 ―
サガラウア島の街中で「魔人とのハーフ」て記述があったのが、とうとうタリアの耳に。 この先どうなるかな。
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