生産拡大
綺麗に四角く敷き詰められた畑が縦横4列ずつ、合計16枚並んでいる。畑と畑の間には人が1人通れるだけの道と溝があり、その地下には水の流れるパイプが埋め込まれている。畑の北側、なるべく太陽の光を妨げない方向に『地形変化』で作った高い見張り台を用意し、曇りの日などはそこからナイラの開発した魔導機械で畑に光を当てる。
土には畑ごとに『土加速』の20倍から70倍を付与しており、育てている作物の種類とその需要によって成長速度を調整している。
現在植えている作物の一覧。
・カブ
・ほうれん草
・きゅうり
・トマト
・じゃがいも(3枚)
・かぼちゃ
・キャベツ
・ニラ
・大根
・マルセラ
・甜菜
合計11種、13枚の畑が埋まっている。1つあけてあるのは『成長促進』用であり、ここでは特別な依頼があった場合に高クオリティーの野菜を育てる事になっている。だから今の所まだ何も育てていない。
ただ、この畑の扱いに関しては、タリアと少し口論になった。
「全ての野菜が3日で育つように調整してありますから、依頼があった場合は収穫を待たせれば良いのではないですか。それより、せっかくのスペースを効率的に使った方が得策だと思います」
「その3日で大魚を逃す可能性もある。バッファが必要なのだ」
「それは具体的にどんな可能性ですか?」
「……」
知らないとはいえ、魔界四天王の1人に堂々と食ってかかるとは、本当に生意気な女だ。だが、部下が上に対して遠慮なく意見出来るのは組織として健全な状態でもある。
じゃがいもの面積を多く取っているのは、その需要による所が大きい。現在、ゼンヨークでは空前のポテトブームが巻き起こっている。焼く、茹でる、揚げる、蒸す。どんな方法で料理しても食べれる上、何せ腹持ちが良い。主食である小麦のお株を奪うような勢いで消費熱が高まっており、もちろん増産も計画している。
ラインナップの中に小麦が無い事にはもちろん俺もタリアも気づいている。この国の主食であり、農業の主力商品である小麦。タネ自体も手に入りやすいが、まだ手を出していない。それは何故か。もちろん理由がある。
この国の法律だ。小麦を育てる農家は国内の各地にいるが、それらは全て国王の叙任を受けた領主が許可を与えた農家のみが育てる事を許されている。これは、領主からの税の徴収を滞りなく行う為の制度であり、領主に不要な力を持たせない為に制定された法律でもある。
つまり、農家→領主→国王という金の流れを出来る限り明確にする為に、きちんと形式を整えた書類が必要なのだ。なので、この国で許可なく小麦を育てると、徴税官がやってきて全部持って行ってしまうらしい。難儀な事だが、幸い野菜はその法律の管轄外なので、奴らがこの農場の生み出す儲けに気付くまでは好きにやらせてもらおう。
くだらないルールの話は置いておいて、畑の話に戻ろう。
現在、ここにある畑の中には、1つの畑につき1匹の『菌類統率者』を配置している。姿の見えない彼らは全員が俺の支配下にあり、絶えず畑の中に栄養を供給している。これは俺にとっても、というより魔王様にとってすら新発見だったのだが、『操魔の指輪』によって支配された魔物というのは、一定の知性を獲得するようなのだ。つまり、ステータス画面を通して初めて会話する事によって『菌類統率者』は人間程度の意識レベルに自動的に引き上がる。
考えてみれば当たり前の話だ。何かを「支配する」には当然頭が良くてはならないが、「支配される」というのにも一定の知性は必要になる。話も通じない、字も読めない、殴っても怯えるか死ぬだけで何にもならない。それでは支配する対象として何の価値もない。支配される事によって『菌類統率者』は自我を芽生えさせ、その上で俺に忠誠を誓う。知性を得る事が生物として得かどうかはさておいて、少なくとも俺は彼らを労働者として扱おうと思う。役に立つ奴らだから。
ナイラの開発した魔導機械は、地下を通ったパイプと曇りの日の光源以外にもこの農場を支える屋台骨となっている。
育った野菜を収穫するのには、作物の種類によってアタッチメントを変える事で機能する『アーマードゴーレム』を利用する。
いきなり仰々しい名前が出てきたが、これは人間が肩に背負って使う補助装置だ。残念ながら意思を持って動いたりはしないし、効率化はするが全自動という訳ではない。例えば、装着者が手できゅうりを掴んだ時にそれを検知し、上部の蔦を自動でハサミで切り、腕から伸びた収穫口にきゅうりを収納し、背後の収穫カゴに送るという具合で動作を助ける。まあ地味ではあるが、働き手が老人と女ばかりのノード農場においては大変役に立っている。
あとは収穫後の畑を耕運する為にはナイラが乗っていた魔導機械を改造した物が使われている。回転する鍬で地面を巻き起こし、そこに空気を入れて柔らかくする。ちなみに、その作業を行う際は『菌類統率者』に命じて一旦菌を地下に避難させるという事をしなければならない。無駄死にさせると再度菌が繁殖するのに時間がかかるからだ。
最後に種蒔き機。これはナイラの自信作らしく、確かにすごく便利だ。車輪のついたポッドが土の上を走り、等間隔にタネを植えて行く。タネを植える深さも自由に調整出来て、ウリ科以外の全ての畑で共通して使える物になっている。俺の要求以上の物を作ってくるあたり、流石はナイラといった所だろうか。
さて、その肝心のナイラなのだが、ちょっと困った事になった。
「ロディ、私、いつ姉に会える?」
見張り台で畑の様子を見ていると、後ろにジスカが立っていた。
「……努力はしている」
「昨日もそう言った。一昨日もそう言った。1週間前もそう言った」
ナイラは逮捕された。
ノード農場に機械を納品する前日の事だ。
容疑は「危険魔導機械製造禁止法違反」。簡単に言えば作ってはいけない物を作ったという罪だが、具体的にナイラの作った何が法律に触れたのかは聞いていない。
少なくとも、この農場で使われている魔導機械は無事だった。ナイラが逮捕された翌日、これらの機械をこの農場に届けたのは、他ならぬギントルだった。俺を嫌い、農場への協力に否定的だったギントルが、何故急に味方になったのか。それにはナイラの逮捕が関係している。
「おかしい。ナイラの逮捕はおかしな事だらけだ。容疑が曖昧過ぎるし、魔導機械に関する罪だった割には兵士達はナイラの作った物に興味がないようだった。それに魔術師協会が国に対して協力的過ぎる。普段なら、少しやんちゃをする魔術師がいても庇う側に立つ。事前に情報を渡したりな。なのにナイラに対してはそれが無かった。むしろどうぞ逮捕してくださいくらいの物だ。不可解過ぎる」
「……それで、俺に何をしろと?」
「そんな事は知らん。だが何とかしなければならないのは間違いなくお前だ。ナイラがいなければ魔導機械のメンテナンスは誰がやる? 新しい物を手に入らないぞ。新バージョンの開発も無理だ。俺は通信に関しては協力してやるが、それ以外は何も出来ん」
「ナイラの逮捕、お前はどう見る?」
「国家的な陰謀。それ以外に考えられん」
ギントルは堂々とそう言って、俺にバトンを渡した。
「妹、無事かどうか、知りたい。ロディ、何とか出来ないのか?」
当然、事情を知ったジスカも俺を突き上げる。再会する前にお別れとなったのは気の毒だが、俺にとってもこれは予想外だった。これならゼンヨークに立ち寄った時に挨拶だけでも済ませておくべきだったなと思ったがもう遅い。
「何とかする。何とかするから黙って働け」
ジスカは握りこぶしを作ったが、それを納めて畑に戻った。農場で動く魔導機械は、全てジスカとタリアの2人でコントロールしている。配置に穴が出来るのはまずいのだ。
見張り台に誰もいなくなったのを確認した後、俺は通信宝珠を取り出した。この1週間コールし続けてきた相手。そいつがナイラ奪還の鍵を握っているのは間違いない。
魔界四天王の1人、ズーミア。王宮に潜入している奴ならば、事の真相を知っている。




