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攻略完了

 俺とジスカの2人で1層に戻り、ビンスに事の顛末を告げた時のリアクションは、実に意外な物だった。


「あ、全員死にましたか」


 わざわざ俺が「亡くなった」とか「仕方ない犠牲だった」とか言葉を選んだというのに、ビンスはあっさり言い放ったのだ。


「……もちろん、あの状況では助からなかったとはいえ、直接手を下したのは俺だ。それについて何らかの罰はあるか?」

「罰? 無いです無いです。そんな物」

 自分の部下が死んだというのに、この軽い態度は一体何だ。俺は少し考え、1つの答えに辿り着く。


「……お前、シルファから何か命令されているな?」

 ビンスはにやりと笑って、俺をテントの中へと案内した。


「本土の人間が使ってくる手は実に姑息でしてね。大して金は出さない癖に、成果だけは得たがる物だから、こちらも油断していられないのですよ」

「御託は良い。死んだ兵士が何者だったのかを確認したい」

「ええ、お察しの通り、彼らは王国貴族が派遣したスパイ達です」


 俺は初日に受けたこのダンジョンについての説明を思い出す。最初は王国からの調査隊がやって来て、ダンジョンを解放した。だが割に合わないと判断して戻ったという物だ。


「諦めていなかったという事か」

「ええ、シルファ様がこの村に来た情報を耳聡くキャッチして、魔石を横取りすべく送り込んで来たようです。スパイと言っても金で雇われた傭兵もどきなので魔物に対する知識も浅く、ロディ様を侮っている様子だったので、一緒に送り込めば何かヘマをやらかすのは妥当な判断です」

「シルファがそう言っていたのか?」

「いえいえ、シルファ様からはただ、私にスパイの素性を教えてくれただけです。扱いは任せると言われたので、私がそうしました」

 ビンスがにこりと笑う。こいつ、意外と食えない奴だ。


「1人か2人は生き残るかと思いましたが、見事に全滅したのはちょっと予想外でしたね。まあそういう訳で、彼らの事は謝らなくて結構です。ダンジョンについて分かった事を教えてください」


 そう言われ、俺は魔土の件、地底湖の件、『寄生血虫』の件、そしてミノタウルスの件を正直に話した。ここで嘘をついても仕方がないし、知らぬ間に馬鹿共の処理という余計な仕事を押し付けられていたのには少し腹が立ったが、任務は任務として遂行しなければならない。


「……ふむ。なるほど。それはちと厄介ですな。ダンジョン内で農業を行うには水は必須。ですが、その地底湖が使えないとなると水源の確保が難しい、と」

 『寄生血虫』は魔物の血液内のみならず地底湖自体に生存している。という事は、仮に魔物を全部倒しても、あの水全てを浄化しなけれ畑は作れないという訳だ。

 だが、この問題に関しては、帰る途中で俺はちょっとしたアイデアを思いついていた。


「ちょっと失礼」

「ああ、トイレですか。どうぞ」

 俺は離席し、小声で胡散臭い妖精を呼び出す。


「おい、チェル」

「やあ、何か用?」

 こいつはずっと俺のしている事を見ているが、最近はあまり口を出さなくなっている。もう俺が農業をやる事に対して抵抗がないからだろうか。

「『土加速』についていくつか聞きたい事がある」

「いいよ。分かる事なら」

「土の時間を早めるって事は、その土に『埋まっている物』も同じ時間が経過するという事だよな?」

「うん、そうだね。じゃないと植物が育たない」

「この場合、『埋まっている物』の定義は土の下にあれば良いんだな?」

「『土の下に物がある事』を『埋まっている』って言うからね」

「例えば俺が死体を埋めたとして、そこに『土加速』を付与した場合、あっという間に白骨化するって事でいいか?」

「腐敗には別の要素も必要だけど、概ねそう考えてもらえばいいかな」

「よし、分かった」


 俺はビンスのテントに戻り、こう切り出した。

「地底湖の件、俺の力があれば何とか出来るかもしれん」

「え!? 本当ですか?」

「ああ。だがそれをする前に、ダンジョン内にいる魔物を全部倒す必要がある。そして俺は急いでいる。言いたい事が分かるか?」

「もちろんです。ミノタウルスが倒れ、ダンジョンの詳細も明らかになりました。明日からは部隊総出で魔物狩りを始めましょう」


 一夜明け、ビンス指示の下で魔物狩りが始まった。その間に俺とジスカは5層まで降りて魔石を確保する。今回は監視役はいない。いや、ジスカがそれに当たるのだろうか。ビンスが俺とジスカのどちらを信頼しているのかはいまいち分からないが、俺はきちんと魔石を取って来てビンスに渡した。


 そして3日に分けて『地形変化』を使い、地底湖の表面を土で覆った。指先を動かしながら土を自在に操る俺を見て、ビンスもジスカも驚いていたが、シルファの例があったので「魔界四天王とはこういう物だ」という事で納得して詳しくは尋ねてこなかった。


 それから魔力回復の為に1日休み、ここに来てからちょうど1週間目の朝、俺は初めての『土加速』を実行する。野菜を育てる為の能力がまさか極小な魔物の討伐に役立つとは考えてもみなかった展開だが、利用できる物はしておこう。


 地底湖を覆った土の上に手をかざし、能力を付与する。


 ちょっとつまらないと思えるくらい、見た目には何の変化もない。ただ、土のステータスを確認してみる。


 ―――――――――――

  魔土

 ―――――――――――

 ・栄養度S

 ・通気性B

 ・水持ち×

 ―――――――――――

  能力付与

  土加速(100倍)

 ―――――――――――


 きちんと能力が発動している事が分かった。水持ちの表示がおかしいのはおそらく少し下が水そのものだからだろう。ここに直接種を植えると、根が張るだけの厚みがないという特殊な状態を示している。


 それからまた1日待ち、今度は覆った土をどかす。するとそこには、澄みきった水が広がっていた。安全性を確認する為、2層で捕まえた未感染のネズミに飲ませて、また1日様子を見る。


 ここまでの合計10日間で、ダンジョン内の魔物はほとんど倒した。4層から下は大体俺がやったが、3層から上もちゃんとビンスの指示の下で真面目な兵士達が働いてくれたようだ。ネズミの安全を確認し、これにて無事、遺跡ダンジョンは攻略完了だ。


「いやはやお疲れ様でした。これだけ厄介なダンジョンをたったの10日間で制圧してしまうとは、やはり魔界四天王様のお力は違いますな」

 ビンスの賞賛を軽くかわしつつ俺は尋ねる。

「あとは畑を作るだけだが、そろそろ教えてもらえないか? わざわざダンジョンの中で、一体何を育てるつもりなんだ?」


 これはダンジョン攻略前から気になってた事だ。キャンプには食料の供給がきちんとあるし、問題が発生しているようには思えない。販売用の作物を作るにしても、地上でやった方が遥かに効率が良い。わざわざダンジョンの中を耕作する理由が、何か必ずあるはずなのだ。


「……ふむ。実はその事について、昨日シルファ様からそろそろ教えても良いという許可を頂きました。ただ、その前に会って欲しい人物がいます。それを踏まえた上で、あなたの考えをお聞かせ願いたい」

「会って欲しい人物だと? 誰だ?」

 俺がそう尋ねると、ビンスの後ろからジスカが出てきて答えた。


「私の、母」

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