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始まりの地、ノード村

 敬愛する魔王様を復活させる為、俺達魔界四天王は4手に分かれ、人間界の征服を目指す事になった。1番のハズレである土のエレメントを割り振られた俺には、金も兵も何も無い。この絶望的な状況を何とか打破する為、足掻き始める。


 魔界から人間界に行くにはいくつかのルートがある。大きなルートは魔王軍と人間軍が睨み合っていて、そこを抜けるのは難しい。なので、魔王様が緊急避難用にあらかじめ用意しておいた非常用ルートを使って俺は人間界に出た。出口は小さな洞窟になっており、人間にも魔族にもバレていない。完全な手ぶら状態の今、頼りになるのは魔王軍を率いてきた時の知識くらいの物だ。それくらい頼らせてもらう事にしよう。


「な……何故俺がこのような事をせねばならんのだ」

「仕方がないじゃないか。まずは場所と人を確保しないと、『土のエレメント』は効果を発揮しないよ」


 チェルに言われるがまま、俺がやって来たのは寂れた村だった。人間達の数もまばらで、大抵が年寄りか女と子供。おそらく若い男達は魔王軍との戦争に駆り出されているのだろう。端から端まで歩いて5分もかからない狭い村。ロクな店も無く、娯楽施設など全くない質素な村。

 本来なら取るに足らないそんな村だが、今は用事がある。


 小さな畑の中、鍬を振るう老婆を見かけ、ひっそりと近づいて声をかける。

「おい、そこの婆」

「え? ……ぎゃ、ぎゃあああああああ! 魔人じゃ! 魔人がこの村を襲いに来たぞ!」

 年齢の割に健脚で、鍬を放り出した老婆はあっという間に俺の前からいなくなってしまった。


「……くっ」

 無理からぬ話だ。俺達魔人の見た目は、明らかに人間とは違う。肌は紫だし頭には角があり、牙は尖っている。もちろんこれは魔人としては誇り高い容姿なのであるが、人間からすれば憎き敵の象徴でもある。


「だから言ったのだ。土台無理な話だと。俺のような魔人貴族が、人間を率いて農業を始めるなんて出来る訳がない!」


 土のエレメントを守護する妖精、チェルの提案。それは、土を操れる能力を使って農業を極め、食料から人間を支配するという物だった。


 はっきり言ってめちゃくちゃな話だ。敵の腹を満たす為の食事を提供する事が、どうして征服に繋がるのか、策略家である俺でも理解が出来ない。相手の食料を断って兵を疲弊させる兵糧攻めなら分かる。だが、チェルは全くその逆の事を俺にさせようとしている。


「……もういい。こうなったらお前の力には頼らん。俺だけの力で人間など屈服させてやる」

 俺は魔人貴族だ。多少の魔法は使えるし、武力もある。斧の扱いにも長けているし、この村1つくらいなら何なく蹂躙出来るだろう。


「それでもいいけど、その前にこの土見てよ」

 チェルは俺が口にした決意など意に介さず、マイペースにそんな事を言った。


 わざわざそれに従う気はなかったが、土というのはわざわざ見ようとせずとも視界に入ってくる物であり、言われれば気になってくる物でもある。


「見た感じ、水分がなくてからっからだし栄養もほとんどないね。こんな状態じゃ野菜も麦もロクに育たない。この村の人、何食べて生きてんだろ」


 そんな事知った事か。そう思う一方で、先ほどの老婆の姿が頭に浮かぶ。鍬を土に入れていたが、土には雑草くらいしか生えていない。


「ちょっと土を手に持ってみてよロディ」

 妖精ごときに指図されるのは癪だが、実際こんな村1つ落とした所でどうにもならないというのは頭で分かっていた。くそっ。俺は言われるがまま、土を手で掬う。


 ―――――――――――

  黒土

 ―――――――――――

 ・栄養度B

 ・通気性B

 ・水持ちC

 ―――――――――――

  能力付与

  なし

 ―――――――――――


 魔界との出入り口周辺にあった平原の土に比べれば、「栄養度」と「通気性」が若干マシだが、「水持ち」に関しては劣っている。もちろん魔人貴族である俺は農業など行った事もないし興味もないが、それでも水が無くては植物が育たない事くらいは知っている。「水持ち」というのが具体的に何なのかは分からないが、おそらくこれが高くなくては農業は成り立たないのだろう。


「……これを、お前が改善出来るのか?」

「んーん、土のエレメントを扱うのはあくまでも君だよロディ」


 荒れた畑と土のステータスを交互に見つめ、俺は思う。


 確かに、土のエレメントは農業の為にある物なのかもしれない。だが、仮に土を改善した所で村人達がそれを活用するだろうか。いやそもそも、村人に飯を与えて一体何になるというのだ。


 何故、魔王様は土のエレメントを俺に託した……?


 土を片手に俺が1人で葛藤していると、若い人間の女が老人を連れて近づいてきた。女の方は顔立ち自体は整っているが、服はボロボロだしやつれて若干頬もこけている。俺を警戒しているようで、俺も同じく警戒する。老人の方も貧相な身なりをしている。


 2人が無言のまま近くまで来た時、老人が重々しく口を開いた。


「その格好、魔王軍の方とお見受けいたします。現在、我がノード村には備蓄が全くありません。差し出せる物はせいぜいこの若い娘くらいの物です。どうか、この娘をお納め頂き、我々の命だけはご勘弁願えないでしょうか……?」


 それは俺にとって思いもよらぬ提案だった。確かに、俺が魔王軍である事は間違いなく、先ほどまで村を襲う算段をしていたのも正しい。だが、向こうからわざわざこうして生贄を差し出してくるというのは予想外だった。


「ち、違う。俺はそんな事をしにきたのではない」

 思わず、老人からの申し出に否定を返してしまった。若い娘と老人は意外そうな顔で俺を見ている、実際、俺自身も自分の言った言葉が意外だった。


「それでは、一体何の用があってこのような寂れた村にお越しになったのでしょう?」

 そう尋ねられ、答えに窮する。一方内心では、とにかく相手が差し出すと言っている手前娘でも何でも受け取っておけば良いではないかという声もする。見た所娘はそこそこの美人だし、奴隷商人にでも売れば路銀くらいになるだろう。


「土だ!」


 気づくと俺は自分の手の平に乗せた畑の土を2人に向けて突き出していた。


「この村の土は乾ききっている、作物を育てるのに適していないのだ。俺がこの村を救ってやる。話はそれからだ」

 自分自身、何を言っているのか分からなかったが、言ってしまった手前、もうやるしかなかった。


「俺の名前はロディ。見ての通りの魔人だが、お前らに協力してやる」

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