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牛とじゃがいも

 地底湖ほとりでの休憩を終え、俺達は4層へ降りた。

 坂を降りた瞬間、急に空気が変わったのを感じる。兵士達もそれは同じようで、無駄口を叩くのをやめて周囲を警戒し始めた。


 変わったのは空気だけではない。今までの洞窟ような土の壁ではなく、四方は完全に岩と化し、まるで人工物のように真っ直ぐな地面が続いている。3層よりも暗くなっているのは、土のように中から光が漏れる事なく、岩の表面が風化してしまっているからだ。その証拠に、手斧を使って少し削ると、そこから僅かな光が漏れた。


 3層からの明かりで少しは進んだが、このまま行けば2、3m先も見えなくなるのは確実なので、仕方なく俺が灯火の魔法を唱えようとした。それを見たジスカが兵士達をすり抜けて俺の前に出てきた。

「私、明かり、つけられる」

 そう言って、杖を持って詠唱を始める。瞬間、僅かだが魔物の気配がした。


 この感じ……。


 主か?


 ジスカの詠唱が終わり、ぼうっと杖に光が灯った瞬間、兵士達の背後に輪郭が浮かび上がった。

「後ろだ!」

 俺は咄嗟にジスカを下がらせ、手斧をぶん投げる。


 ダンジョンの主、ミノタウルス。体長は約3mと聞いていたが、天井が低いせいかそれよりデカい気がする。虚ろな目をしているが、狙いはきっちり最後尾にいた兵士に定めていた。俺が投げた斧はミノタウルスの左肩に命中したが、同時に兵士1人がミノタウルスの右拳に吹き飛ばされ、固い壁に叩きつけられた。


 兵士達が叫び、剣を抜く。果敢に斬りかかるが、ゴミのように跳ね飛ばされる。まさに暴れ牛の有様で、あっという間に精鋭3人がのされた。片腕しか使えずにこれなので、流石はダンジョンの主といった所か。


 だが俺もそれを黙って見ていた訳ではない。その僅かな時間で、最初に飛ばされた兵士から剣を回収している。一瞬、土のエレメントの『地形変化』で壁を作ったり封じ込められないかという考えも頭を過ぎったがここは生憎と岩だらけだし、仮に動かせたとしてもこのパワーなら突破してくるだろう。


 仕方ない。魔物を手にかけるのは罪悪感があるし、出来ればミノタウルスとコミュニケーションが出来るかどうか確かめたかったが、ここは覚悟を決めるしかないようだ。


「ジスカ、目くらましか何か出来るか?」

 目の前の光景に圧倒され、へたり込んだジスカに尋ねると、杖をぎゅっと握りしめて答える。

「で、出来る。倒せる、のか?」

「ああ、一瞬だけ隙を作ってくれ。それで済む」


 俺は目を細め、ジスカの詠唱が終わるのを待った。


 残った兵士1人が、へっぴり腰になりながらミノタウルスと対峙している。精一杯声を張って威嚇しているが、効いている様子はない。


 呼吸を整える。ミノタウルスが拳を振りかぶった。


「今だ!」

 ジスカの杖から光の弾が放たれ、左右の壁を照らしながらミノタウルスへと進んだ。命中はしなかったが、攻撃に入った所というのもありそこには確実に隙が出来た。


 どすん。

 ミノタウルスの頭部が地面に落ち、俺の手には首の骨を無理やり叩き折ったせいで僅かな痺れが残った。血まみれの刃を見ると、1発で刃こぼれしている。まあ、折れなかっただけましか。


 振り返ると、ちょうどミノタウルスの身体が仰向けになって倒れた。首からはとくとくと血が流れ、岩の隙間に入り込んでいく。ジスカも兵士も力が抜けたようにその場に座りこみ、俺とミノタウルスの死体を交互に見ていた。


 得物が扱いなれない剣だったので不安はあったが、出会い頭の一撃で左肩をやっておいたのが幸いした。ミノタウルスの防御に穴が出来、右腕で攻撃しようとする瞬間は首ががら空きになった。駄目押しにジスカの目眩しが決まったので、この勝利は当然の事だ。


「これで主は処理したが、まだ先はある。立て。出発するぞ」

「ちょ、ちょっと待ってください! まずは仲間を……」

「叩きつけられたくらいで何を抜かす。骨の1本か2本は折れてるだろうが、それくらいでへこたれるな」

「魔人と一緒にしないでください!」


 兵士の涙ながらの訴えは流石に無視する事が出来ず、傷の手当てに1度3層に戻る事になった。俺は兵士2人に肩を貸し、残りの3人は何とか自力で歩けるようだ。ジスカは治癒も多少使えるようなので、安全な場所を確保して回復を試みよう。


 しかし不意打ちだったとはいえ、こいつら本当に精鋭なのだろうか。ミノタウルスごときに全く歯が立ってなかった。時間稼ぎとしてもいまいち。ジスカの方が使えるというのは一体どういう事なのか。戻ったらビンスを問い詰めてみよう。


 ジスカが兵士の治療を行なっている間、俺は3層で周囲を警戒しつつ、畑を作る算段をしていた。4層は石だらけだし、耕すのは無理に近い。2層は3層よりも狭いし、水場がない。5層は深すぎる。となると、やはり3層の地底湖付近を耕作するのが最善となるか。


 ダンジョン内であっても『地形変化』は使えるようなので、ちょっと試しにやってみよう。

 兵士達に見られると面倒なので、「周りを見てくる」と言い残し、俺は角を曲がって身を隠した。


 ―――――――――――

  魔土

 ―――――――――――

 ・栄養度S

 ・通気性D

 ・水持ちC

 ―――――――――――

  能力付与

  魔力

 ―――――――――――


 ここなら良いだろう。『地形変化』で空間を広げて場所を確保。3点指定で『耕作』を選ぶと、土が盛り上がた。水持ちも上げて、合計20の魔力を使ってあっという間にミニ畑を作り上げる。


 そこに、昨日もらっておいた生のじゃがいもを植えて、『成長促進Lv2』を発動させた。

 小さな葉がぴょこっと出て、ぼこぼこと土が蠢く。まるで地面の下に何かいるかのようだ。魔力の消費は30。畑のサイズの割に消費が大きいのは、多分日光がないせいだ。本格的に畑を作る際は、何らかの方法で光を確保する必要がある。シルファが所持しているマジックアイテムの中にちょっと心当たりはあるが、奴がそれを提供するかどうかは分からない。


 やがてじゃがいもが育ちきったようなので、土を軽く掘って引っ張ってみると、伸びた蔓から大量の芋が生えていた。昨日はビンスの言葉を一蹴してしまったが、こうやって実際に出来上がる所を見るとちょっと楽しい。


 『成長促進Lv2』を使っただけあって、大きさも昨日食べた物より2倍はある。これは味の方も期待出来そうだ。


 そんな事を思いながら、俺はじゃがいもを抱えて兵士達とジスカの元に戻った。


 するとそこでは、焼肉パーティーが開かれていた。一瞬何が起きたのか俺にも分からなかったが、言葉通りの状況だ。焚き火の上に鉄板が乗り、そこで肉が焼かれている。周囲には肉の匂いが充満している。


「あ、何やってたんですかロディさん。もう始めちゃってますよ」

 鉄板を囲む兵士達の隣にはミノタウルスの首がぽんと置いてある。


 ……こいつら、ただの馬鹿じゃない。大馬鹿だ。少なくともまともに訓練を受けた兵士には思えない。俺はここで確信する。このダンジョン攻略作戦の裏には、隠された何かがある。

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