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島の支配者

 サガラウア島に到着後も、シルファからの招待状は恐ろしいほどの効力を発揮した。既に群島全体を支配したというのは過言ではなかったらしく、誰もが客人として最大の礼儀を持って接してくれる。


 サガラウア島は群島の中でも1番大きな島で、土の性質も大陸と似ていた。だが人種は様々で、見ていて飽きない。肌の色が黒い奴白い奴、魔人とのハーフ。大陸では絶滅寸前のドワーフや小人もいる。妙にデカい包帯のような帽子を被った者もいれば、腕がトライバルタトゥーだらけの奴もいる。


 聞こえてくる言語も様々で、主に3種類の言葉が使われているようだが、方言もあって聞き取りづらい。まともな共通語を使える奴がいたのでシルファのいる宮殿への移動がてら、島について色々と聞いてみた。


 元々、サガラウア島を中心とする群島地帯は大きく分けて2つに分かれていたらしい。多様な種族と複雑な部族の絡み合いはあまりにもややこしいので省略するが、ざっくり言えば、「親王国派」と「反王国派」だ。


 「親王国派」の主張は、王国と仲良くしてお金を稼ぎ、日々の安寧を得ると共に武力での侵略を交渉で防ごうという物。聴き心地が良くて至極真っ当ではあるが、そう上手く行ったら武力はいらないという話でもある。


 一方で「反王国派」の主張は、「親王国派」の全く持って逆。金と力で島を征服しようと企む王国とは一切の関わりを断ち、島ごとの文化を守り、我々だけで経済を回していこうじゃないか、といった所だ。


 この島にやってきたシルファがどちらについたか。当然、「反王国派」である。


 船が主な移動手段である群島において、風のエレメントは最大の効力を発揮し、通常の操舵では不可能な進路で物を運ぶ事が出来る。特に海産物は速さが命なので、物流の加速は政治を操るに足る技術だった訳だ。


 実際、ここまで俺が乗ってきた船も、常に突風レベルの追い風が吹いていて、以前であれば3日程度はかかる移動時間が半日に短縮されていた。ゼンヨークを朝に発って、こうして夜にはシルファの前にいられるとは思いもしなかった。


「久しぶりだね、ロディ」

 赤と緑の鮮やかなドレスに身を包んだシルファが、宮殿の最奥で俺を迎えた。


 シルファは、男でも女でもない。人間ではどうなのか分からないが、魔人の中にたまにいるのだ。なので中性的な見た目をしているし、声も言葉遣いもどちらとも取れない。性別もはっきりしない魔人をあっさり支配者として受け入れるあたり、やはりこの群島の多様性は王国の比では無いらしい。


「……ああ。土産だ」

 俺はそう言って、鞄の中から野菜を取り出して机に並べる。シルファはその様子をにやにやしながら見ていたが、馬鹿にしているという感じではなく、俺が農業をやっているのが純粋に面白いらしい。


「良い野菜だね。料理してもらおう。おーい」

 シルファがそう声をかけると、部屋の隅にいた使用人がやってきた。「これを使ってなんか適当に作って」というシルファの曖昧な指示にも、その男は「かしこまりました」と頭を下げ、野菜を持って部屋から出て行った。


「さて、野菜を届けに来たってだけじゃないんだろ? 早速本題に入ろうか」

「そうだな。これから協力して事業を展開するにあたって、その契約の証として『操魔の指輪』をもらいたい」


 シルファに驚いた様子はない。俺がそれを欲しがる事は予想済みだったのだろう。


 『操魔の指輪』は魔王様が所持する中で最も重要なアイテムと言っても過言ではない。出処は不明だが、これがあるからこそ魔王様は不可能だと思われていた魔界統一を成し遂げ、「魔王」と呼ばれる事になったのだ。


 機能を簡単に説明すれば、その名の通り、魔物を操る為の指輪である。これを装着した者は、スライム、ゴブリン、オーク、トロルといった「自立型」の魔物を強制的に「使役型」に変更し、自分の意思でコントロールする事が出来る。『服従の首輪』と違って心を折る必要もなく、複数相手にも使える。言うまでもなく、とてつもなく強力なアイテムだ。


 もちろん、「使役型」の魔物を操る技量は装備した者次第であるし、際限はある。魔王様ほどの方ならありとあらゆる種類の魔物10万を超える軍勢を操っていたが、俺ならせいぜいゴブリンを100体が良い所だろう。


「ロディが不遇な土属性で頑張っているのは知ってるし、気前よくあげたいのは山々なんだけど、いくつか問題があるね」

 すんなり貰えるとは俺も思っていない。シルファは続ける。

「まず第1に、ロディ、僕は残念ながら君をそこまで信用していない。人柄という意味じゃなくて、実力的にね」


 『操魔の指輪』は魔物を強制的に従わせるので、もしこれを人間に奪われるとかなりまずい事になる。今、グレンによって巻き返している対王国軍との戦況も、これが人間の手に渡れば再び魔王軍側が不利な形勢になるだろう。そう断言出来る。


 要するに、俺がこれを所有している事がバレたり、これを持ったままうっかり死んだりすると、人間達に奪われるのではないか、という心配がシルファにはある訳だ。自分から言うのもなんだが、純粋な戦闘力で言えば俺は魔界四天王の中でも最弱。『操魔の指輪』を譲れない理由としては当然ではある。


「第2に、君ではこの『操魔の指輪』の効果を十分に活用する事が出来ない」

 「使役型」の魔物を操る技量は、魔力の量とコントロールに依存する。元同僚であるシルファには、俺がどの程度の実力を持っているかというのがもろバレな訳だ。


「そして最後の理由。君がこの『操魔の指輪』を使ってしようとしている事は、魔王様の意思に反しているという事だ」


 ……なるほど。やはりシルファもキレ者らしい。俺がどうして『操魔の指輪』を欲しがっているかがあらかじめ分かっていた訳だ。俺は一呼吸置いて、シルファのあげた理由に答えを出す。


「お前が想像している通り、俺は魔物を家畜化しようとしている」


 畑を拡大するには肥料がいる。そして肥料を作るには、堆肥の元になる糞、あるいはスケルトンでも有効性を示せた骨などが必要となる。その為には必要なのは家畜だ。


 もちろん普通の動物、牛や豚や鶏を飼育するというのも考えはした。だが、畜産には専門的な知識が必要であるし、人手も足りない。機械化するのは農業よりも遥かに難しい。『操魔の指輪』によって魔物を家畜にすれば、その手の問題は一気に解決する。


「ロディ、君ほどの忠誠心がある者が、魔王様の信条を忘れる訳が無いだろう? 魔王様はあらゆる魔人や魔物の自由の為に人間と戦っていた。魔物を家畜にして人間の飯にするなんて、最も許されざる行為だと思うよ」


「……ああ、その通りだ」

 俺は肯定しつつも語気は緩めない。

「だがそれでも俺は、魔王様を復活させる為に最善を尽くす。復活した後、魔王様が俺を処刑するというのなら、それで構わない」


 少し間があいて、シルファは答えた。

「すごい覚悟だけど、僕は処刑されるのは嫌だなぁ。ここで君に『操魔の指輪』を渡すって事は、僕も魔物の家畜化に協力したと見なされる。うん、まずいよね」

 やはりそうなるか。

 だが、俺の狙いを予想しつつ、わざわざ招待状を送ったという事は、シルファには何らかの思惑があるという事。俺がそれに気づいている事を、シルファも既に気づいている。あとは言葉を待つだけだ。


「……ただ、どうしてもと言うなら譲らない訳じゃない。条件がある」

 そら来た。

「この島のとあるダンジョン内に、農園を作って欲しいんだ」

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