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量産と販路の邂逅

 村長の傷の手当てをタリアがし終えて、室内には俺、ナイラ、ギントル、村長、タリア、そしてロープでぐるぐる巻きに縛られたサルムの6人が揃っていた。いかんせん部屋が狭くて息苦しいが、あのまま屋外で話す事も出来なかったので仕方ない。


「ロディ様、またも命を助けて頂きありがとうございます。一体何とお礼を言ったら良いか……」

 手当て中も何度も聞いた村長からの感謝の言葉に、俺はちょっと辟易しつつも「気にするな」と適当に流す。


「うーん、なんとなく状況が読めてきたよ。この村の実質的な支配者は、ロディ。君だろう?」

 ナイラの質問を俺は肯定する。あの状況を見られたらもう誤魔化すのは無理だろう。とりあえず土のエレメントの件と俺が魔界四天王である事だけはまだ秘密にしておく必要があるが、少なくとも野菜を育てたのが俺である事は認めるしかなさそうだ。


「この野菜も魔人が持つ力で育てられたって訳だ。魔術に関して、魔人は人間とは全く違った体系を持っているようだしね。是非ともご教示いただけると助かるんだけど……まあ、無理にとは言わない。どっちみち僕達に農業は無理だしね」

 ナイラはそう言いながらきゅうりを見ていた。


「……塩をちょっと振ればそのままでもいけるぞ」

 教えてやる。タリアが気を利かして塩を持ってきた。


「いやあ助かるなあ。それじゃ、お言葉に甘えて……」

「おい待てナイラ。お前、この魔人の言っている事を信用するのか?」

 ギントルがナイラの手を止める。


「するよ。さっきのを見ただろ? 彼は人質に取られた老人の事を見事に救ったじゃないか」

「魔人同士のいざこざなど私は知らん! 今重要なのは、その得体のしれない野菜を育てたのが、この素性もしれない魔人だという……ちょっと待て!」

 制止もむなしく、ナイラがきゅうりをパリポリと食べ始めた。


 目を見開いて、再度まじまじと手に持ったきゅうりをみつめる。

「美味しい……! こんなに瑞々しいきゅうり始めて食べた。全然このままでいけるよ。あ、それにまた、力が湧いてきた! ほうれん草も感動したけど、魔力が上がる事を置いておいてもこれは凄い!」


 手を握ったり開いたりして魔力の上昇を確かめる。そしてもう片方の手で、きゅうりをむしゃむしゃ食べるナイラ。

「ああ……全くお前という奴は……。毒でくたばっても俺は知らんぞ」


「ナイラ、1つ聴いておきたい事がある」

「ああ、遠慮なく聞いていいよ。何だい?」

「魔術師協会の力を使って、この『魔力が上がる野菜』どれくらい売れる?」

 もうタリアを通す必要もなさそうだ。


「もちろん効果が実証されれば全魔術師が買うと言っても過言ではないね。ギントルみたいに頭の固い奴でも、魔力はあればあるだけ欲しいし。ギントルも今こう言ってるけどその内折れるよ。王国にいる組合員が2000人くらいだから、その分は確実に売れるだろうね」

 2000か。それが全種類の野菜を買えば、なかなかの売り上げになるだろうな。……ただ、魔王様が無事に復活した後、魔術師協会の連中が全員敵になる事を考えるとちょっとまずくないか? 

 あ、閃いた。その場合は魔物全員に俺の野菜を食わせれば問題ない。


 そんな事を1人で考えていると、ナイラは俺の顔をじっと見ていた。


「君の目標はもっと高いんじゃないかい?」


 こいつ、やはり抜け目ない女のようだ。

「見た所、この村の人達はみんな非力そうだし、今は君1人で畑を回しているんだろ? 君はすごい力を持っているようだけど、無制限という訳じゃない。必ず限界はある。だけど私が協力すれば、その限界を更に遠くまで伸ばせると約束するよ?」

「ほう。具体的には?」

「私はこう見えて魔導機械の第一人者でね。ギントルは魔術通信を専門にしている。上手く組み合わせれば、自動で農作業をこなせるゴーレムが出来ると思うんだけど、どうかな?」


 魔術で動く人形、ゴーレム! これぞまさに土属性の特色だ。チェルは土のエレメントには無理だと言ったが、有力な協力者がいれば可能になるだろう。


「……面白い。だが、野菜の量産に関してはそれでもいいが、今俺が欲しいのは販路なのだ。行商人のポロドだけでは限界がある。大々的に売る場が揃ってこそ、大量に作った野菜を捌く事が出来る。違うか?」

「うーん、まあそれもそうだね。でも、こればっかりは魔術師協会では限界があるかな。各支部に宣伝するくらいは出来るだろうけどね」


 まあそれもそうか。人間の社会は魔人の社会よりも分業が進んでいて、何でも屋のようなギルド以外は出来る事が限られていると聞いた事がある。全国に俺の野菜を売るにはそもそも適していない。


 コンコン。

 ドアをノックする音。タリアが開けるとそこに村人が立っていた。手には通信宝珠を持っている。仄かに光っており、着信しているようだ。


「あの、すいません。死んだ魔人の死体がこれを持っていました。何やら光っているので、どうしたものかと……」

 ジョリスの持ち物か。俺はサルムを見たが、サルムにもあまり分かっていないようだったので、タリアを経由して俺が受け取る。


「……」

 宝珠を起動し、相手の第一声を待つ。

「ちょっとジョリス、あんた今どこにいるの? 仕事が山積みなんだけど、さっさと帰ってきてもらえるかな? ……ジョリス?」

 この声、聞き覚えがある。


「……ジョリスは死んだ」

「え!? ……ていうかその声……まさかロディ?」

「ああ、そうだ」

「何でロディがジョリスの通信宝珠を……あ」

 声の主人、間違いなく俺と同じ魔界四天王の1人、シルファのようだ。


「ジョリスの弟が言ってた裏切り者の魔人がロディだったって訳? これは驚いた。あはは!」

 爆笑している。流れ的にちょっとまずそうだ。


 俺は早々と通信を切り上げる為にこう告げる。

「お前の部下、ジョリスは殺した。その弟サルムは人質として預かっている。返して欲しければ金を用意しろ。……後でまた連絡する」

「え? 何言って……」

 そして通信を切る。


「……知り合い? ジョリスの上司と?」

 ナイラが若干の疑いの目で俺を見ている。

「……ああ、以前俺が魔王軍に属していた頃、上司だった人物だ。確か……魔界四天王だったか」


「魔界四天王だと!?」ギントルが反応した。「そ、それじゃああの恐ろしい魔界四天王の部下を、その元部下が殺したってのか!? 一大事じゃないか!」

 こいつら視点だとそういう事になるか。まずジョリスがシルファの部下だったのも俺にとっては予想外だったので内心かなり動揺しているが、それをなるべく表に出さずに言う。


「何にせよ、もう敵に回してしまったのは仕方がない。向かってくればまた倒すだけだ」

 俺以外の4人が互いに顔を見合わせていた。、まあどう反応していいか分からなかったのだろう。サルムだけは俺も四天王の1人だというのを知っているので、なんとも複雑な表情をしていた。


「……まあ、とにかく野菜の量産計画は進めよう。販路についてはその内考えるとして、今日は疲れた。もう寝るぞ」

 そうして無理やりにでも話を打ち切る。詳しい話は明日だ。ひとまず俺にはやる事がある。


 村から少し離れ、周囲に人がいない事を確認し、俺は元々持っていた通信宝珠を起動してシルファを呼び出す。


「さっきはすまなかったな。こちらにも事情があって」

「ああ、気にしないでいいよ。それにしても驚いた。ズーミアから聞いてたけど、人間の村で野菜を育てているってのは本当なのかい?」

「……ああ、本当だ」

「ぷっ。あはははは! あのロディが農業! びっくりだなあ。魔王様が知ったらきっと腹を抱えて笑うと思うよ」


 実際にそうなるかは分からないが、俺に土のエレメントを渡した魔王様にだけは笑われたくないものだ。

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― 新着の感想 ―
糧食から人間の支配者になるって話だったけど、どっちかと言うとやはり庇護者になりつつあるな ゆくゆく他の四天王と利害相反しそうだけど、どうまとめるのか楽しみ
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