新たな作物、新たな事業
現在、ノード村における4つの畑のステータスを整理するとこうなる。
畑A
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黒土
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・栄養度B
・通気性B
・水持ちB
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能力付与
なし
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村人達の食を支える為、カブを植えている。面積が広く、植えてあるタネの数が多いので、成長促進を使うと魔力の消費が激しい。なので基本は土だけ調整して水やりも井戸から汲んだ水で行っている。
村人が反対するのでスケルトンの骨粉は使わず、堆肥だけ与えている為栄養分が若干不足している。まあその分村人達がある程度自分で管理しているので、あまり手はかからない。
畑B
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黒土
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・栄養度A
・通気性B
・水持ちB
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能力付与
なし
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ほうれん草を育てている。本当は全てポロドへの販売用にしたかったのだが、畑Aだけだと魔力を使わない限り村人達の腹を満たす事が出来ない為、ここでも骨粉は使わずにじっくり育てている。ただ、余った物は出来るだけ金に変えたいので、クオリティはある程度維持したいという事もあり、栄養度に関しては俺が補強している。
そこそこの広さなので、『成長促進』はLv1を使うのが限界。それでも村人達は俺の作ったほうれん草を美味い美味いと言って食べている。おかげで俺を尊敬する人間は増えているようだ。
畑C
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黒土
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・栄養度A
・通気性A
・水持ちA
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能力付与
成長促進Lv2
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1番小さい畑だが、俺が今1番力を注いでいる畑でもある。育てているのは畑Bと同じほうれん草で、スケルトン骨粉もフルに使い、畑のステータスも完璧にした状態で、『成長促進Lv2』を使っている。完全に金儲けする為の畑であり、ほとんどの魔力はここに注ぎ込んでいる。
とにかくクオリティを高め、1個あたりの単価を高めていきたい。ポロド曰く、市場である程度売れるようになれば、貴族の家で働く料理人や有名なレストランに優先して卸せるようになり、結果、儲かる。まず金だ。
畑D
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黒土
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・栄養度C
・通気性C
・水持ちC
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能力付与
なし
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現在準備中の4つ目の畑だ。まだ何も植えていない。土壌も改善していない。魔力が足りていないからだ。
一応、この畑では新しい作物を栽培したいと思っている。『成長促進Lv2』を使って美味しい野菜を作れば俺の魔力上限が上がるので、作業効率化のためにも新たな作物の開拓は必須だと言える。
それとLv2のカブも1個だけ作って食べた。そのおかげで俺の魔力は現在120になった。これが200くらいまで行ければ、畑Aをひたすら成長促進させる事も可能になるはずなので、それを目指したい。
目下の問題は、この畑Dに何を植えるか、だ。
実は前回ポロドがノード村を訪れた時に、新しくきゅうりとトマトのタネを仕入れておいた。どちらを植えるかについて、これから村長と話し合う。
「現状の畑では、きゅうりの栽培は難しいと思われます」
「理由は?」
「きゅうりは水が大量に必要な作物でして、以前この村でも挑戦した事があるんですが、水が足らずに枯れてしまいました。もちろん、ロディ様のお力があれば可能かもしれませんが……」
やはり水問題がネックになってくるか。もちろん、水の供給を『成長促進』で補う事は出来るだろうが、その分魔力も必要になる。また、カブやほうれん草よりも時間がかかるようなので、そちらにも魔力が取られる。村長の難しいという見立ては間違ってなさそうだ。
「じゃあトマトか?」
「うーむ……」難しい顔をする村長。「トマトの場合、上手く育てるには育成中に『芽かき』という作業が必要なのです。枝から分かれた芽を減らして、他の芽に栄養を集中させる作業の事です。ロディ様の力だと、何せ一瞬で野菜が育ってしまうので、その作業が出来ません」
「その『芽かき』とやらが出来ないとどうなる?」
「普通は、小さくて味のない中途半端なトマトがたくさん出来ます。食べようと思えば食べれなくはないですが、売り物には出来ません」
俺は小声でチェルに話かける。
「……おい、『成長促進』でトマトを育てた場合、全ての芽に栄養を行き渡らせる事は可能か?」
「ん、出来るとは思うけど、大量の魔力が必要になるね。あいてる畑で目一杯育てるとしたら……うーん……水分と日照がちゃんとあったとしても……魔力200くらいが必要になるかな」
とてもじゃないが今は無理か。
きゅうりにはきちんと育てきる為に必要な水分量の問題。
トマトには芽かきが出来ない栄養分の問題があるという訳だ。
さて、どうしたものか……。腕を組んで考えてると、タリアがずっと黙っている事に気付いた。俺は半分気まぐれから、彼女の意見を聞いてみたくなった。
「タリア、お前はきゅうりとトマトどっちが良いと思う?」
「え? 私の意見なんて、きっと役に立ちませんよ」
「ほう。ということは意見があるって事だな。言ってみてくれ」
チェルの言い方がちょっと移ったか、と一瞬不快になったが、人を問い詰めるにはこのやり方は確かに便利だ。
「えっと……ロディ様はご自身の魔力を上げたいんですよね?」
『土のエレメント』に関しての詳細はまだ話していないが、魔力を使って野菜を育てている事と、消費しすぎると俺が気絶する事はタリアもすでに知っている。Lv2ほうれん草を食べてパワーアップした事も。
「それなら、ひとまずきゅうりとトマトの両方を少数だけ育てて、ロディ様だけがお召し上がりになるというのはいかがですか? それなら魔力の消費も抑えつつ、最大魔力を上げる事が出来ます」
……なるほど。確かにタリアの意見は合理的だ。というかこの娘、言っちゃなんだがこんな村にいる割には頭の回転が早いし器量が良い気がする。
だが、タリアの意見には1つだけ欠点があった。俺はあくまで魔人。仲良しこよしをする気はない。気になった所は容赦なく指摘させてもらう。
「しかしそれだと、村人達が食べる事が出来なくてかわいそうだろう」
「え?」
村長もタリアもきょとんとした顔で俺の事を見ている。
……ん?
しまった。自分の言った台詞のあまりの軟弱さに遅ればせながら気づく。何が「かわいそう」だ。俺は魔人の中でも誇りある魔人貴族。それも上位の出身なのだぞ。
「ち、違う! タネは共有財産から買った物なのだから、俺が1人占めするのはなんというかその……まずいだろうが……! 色々と!」
言い訳を必死にすればするほど、傷が広がっている気がする。
そんな哀れな様子を見かねたように、タリアが言う。
「ロディ様って意外と……優し」
「それ以上言うな。俺は魔人だ。人間の事情なぞどうでも良い」
タリアは「申し訳ありません。出すぎた事を口走りました」と言いながらにっこり笑う。台詞と表情が一致していない。
「……では、きゅうりを育てる為に『灌漑』をするというのはどうでしょう?」
村長が出した助け舟に俺はすかさず乗り込む。
「『灌漑』とは何だ?」
「簡単に言えば水路などを作って畑に水を引っ張ってくる事です。それとロディ様のお力があれば、水分不足は解決されるかと」
「なるほど、『灌漑』か……早速それを行おう。どれくらいかかる?」
「知り合いの村で『灌漑』が行われた時は20人がかりで1年かかったそうです」
「よし、やめよう」