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死んだ勇者と死にかけ魔王

 ついに勇者が死んだ。


 魔界、魔王城最深部。魔王様の玉座にて、この長い長い戦いが決着した。勇者の胸に突き刺さった魔王様の剣。それを握る魔王様も決して無事ではなく、勇者からの猛攻にどうにか耐え抜き満身創痍といったご様子だった。


「魔王様!」

 すぐに駆け寄ろうとしたが、俺も脚をやられ、出血が多くて思うようには動けない。それでも身体を引きずりながら、なんとか魔王様の側まで辿りついた。


「……ロディ、無事か?」

 明らかに俺よりダメージを受けているはずなのに、まず部下を気遣ってくれる優しさ。これぞまさに魔王様の器だ。


「な、なんとか。魔王様こそ酷い傷です。今すぐシルファをここに呼びますので、どうかそれまで耐えてください!」

「ああ。だがこの傷は……」

 魔王軍に入り10年もの間直接仕えてきたが、魔王様が片膝をつく所なんて初めて見た。無理もない。それだけ勇者の攻撃は凄まじかったのだ。


「無理をなさらず、楽な姿勢になってください。ついにあの憎き勇者を倒したのですよ! 相打ちでは完全な勝利とは言えません」

「ふっ、手厳しいなロディ」

 その時、玉座の間の扉が開き、3人の影が飛び込んできた。敵か!? と一瞬身構えたが、その逆、俺以外の魔界四天王だった。


「魔王様! たった今勇者の仲間共の息の根を1人残らず止めて参りました! ……魔王様? ……魔王様!」

 異変に気付いた四天王の1人グレンが駆け寄ってきた。その後を追うようにシルファとズーミアもこちらに来る。


「魔王様! 魔王様!」

「今、すぐに治療を致します!」

 そう言うシルファを魔王様が手で制した。


「……いや、無駄だ。この傷は、勇者の持っていた聖剣によってつけられている」

 勇者が握りしめたままの剣から指を1本ずつ外し、俺はそれを拾いあげた。


 敵の物ながら美しい剣だ。持ち手の所には、赤、青、緑、茶、4色の宝石があしらわれている。


「その宝石は……『原初のエレメント』だ。この世を司る4つの要素を操ると聞いている。その要素が私の身体を蝕み、今も攻撃を繰り返している。勇者の奴、どうやら刺し違えてでも私を倒す覚悟だったらしい……。ぐっ」


 シルファが治癒魔法を唱えているというのに、魔王様の傷は先ほどよりも悪化しているように見えた。


「なんとかならないのか!」とグレンがシルファを揺さぶる。

「必死にやってるよ! 治癒魔法の1つも使えない奴は黙って!」

「なんだと!?」

「2人ともやめなさい。いいから魔王様の言葉を聞くのよ」

 ズーミアが宥めると、2人は苦悶の表情を浮かべながら魔王様を見た。


「……我はこれから眠りにつく。自分自身に封印をかけ、傷の進行を止める。その間に、お前達は『原初のエレメント』を支配しろ」


「へっ。お言葉ですが魔王様。そんなちんけな石ころ、オレがぶっ壊してやりますよ」

 グレンは俺の手から勇者の剣を奪うと、『原初のエレメント』を力任せにむしり取り、4つともいっぺんに床へ叩きつけた。俺は咄嗟に耳を塞ごうとしたが、不思議と音はしない。見れば、『原初のエレメント』の周りを白い光が包み、宙に浮いていた。傷一つついていない。


 ありったけの力を込めて叩きつけたのだろう。グレンは目を見開いて驚いていた。

「無駄だ。『原初のエレメント』は死んだ勇者がまだ支配している。何故なら人間共がまだ、勇者の事を信じているからだ。はぁ……はぁ……その崇拝を完全に奪わない限り壊す事は出来ない。だから『支配しろ』と……言っているのだ……」

 魔王様の息が上がっている。グレンのバカに付き合っている暇は無い。俺は1歩前に出て、単刀直入に尋ねた。


「魔王様。命令してください。我々4人に何をしろと仰るのですか?」

「『原初のエレメント』はお前ら4人にそれぞれ託す。それを利用してまずは人間界を征服しろ。そうすれば勇者の存在は人々の中から消え、我が傷も癒えるだろう……ぐはっ」

「魔王様!」

「……いいか、よく聞け。火はグレン。水はズーミア。風はシルファ。そして土はロディ。それぞれ自身のエレメントを利用して人間の世界を掌握するのだ」


 魔王様の采配にケチをつける気は無いが、俺は「土」か……。文字通りなんとも地味な担当になってしまった。


「……そろそろ限界のようだ。これから我は眠りに入る。お前達の働きに期待しているぞ。さらばだ」

 そう言うと、魔王様は立ち上がる。紫色の光が全身を包み、それが晴れると、腕を組んだまま石化してしまっていた。


 勇者を倒した事は魔王軍にとって大変に喜ばしい事だが、魔王様も共倒れとあっては手放しで勝利を祝う事は出来ない。


「……くそっ。なんとかならねえのかシルファ! ズーミア!」

 グレンが石像になった魔王様の前で怒り叫ぶ。

「あんた魔王様の話を聞いてなかったの?」突然の事に狼狽える4人の中でもズーミアは比較的冷静だった。「魔王様の傷を癒すには、人々の心の中から勇者を消さなきゃいけない。その為にこのエレメントの力を利用する。私達のすべき事はこれ以上ないほど明確よ」


「くっ……」

「『原初のエレメント』か……具体的にどんな事が出来るのか気になるね」

 シルファは自身に渡された風のエレメントを手の中で転がしながらそう言った。


「……こうなったら魔王様の為にもやるしかねえな」

 グレンが火のエレメントを握りしめると、拳の中から赤い光が漏れ出した。グレン自身も最初は戸惑っていたようだが、呼びかけに答えるように光が強くなると、段々とその表情が変わっていった。


「力が……力が溢れてきやがるぜ。うおおおおお!」

 そう叫び、手の平を上に向けるグレン。そこから燃え盛る火炎が放出され、天井まで届いた。そこから炎は横に広がり、飾り布に火がついてしまった。


「ちょっとあんた何やってんのよ!」

 ズーミアも同じく自分のエレメントを片方の手で握りしめ、もう片方の手の平を広げる。するとそこから大量の水が放出され、グレンの炎を一瞬で消してしまった。


「……っと、わりいな。だがこいつはすげえぞ。持っているだけで力が溢れてきやがる。勇者の力の秘密はこれだったのか」

 魔王様に致命傷を負わせる程の力だ。仮令(たとえ)4分の1になっても凄まじい。


「なるほど、ボクの風のエレメントは、風の操作が出来るみたいだね」

 そう言いながら、シルファはくるくると指を回して、小さなつむじ風を作っていた。いくつも発生させながら、床で踊らせている。かなり自由に操作出来るらしい。


「この力さえあれば、魔王様がいなくても人間共を支配出来るかもしれねえな。おいロディ、お前のはどんな事が出来るんだ?」

 グレンから話を振られ、俺も土のエレメントとやらの力を試したくなった。同じように拳で握りしめると、確かにそこから自分の物ではない異質な魔力を感じた。


「どりゃあああああ!」

 俺もグレンの真似をして手の平を上に向け、力を解き放った。


 手の平から放出された土が、どさどさと俺の頭に降りかかる。勇者との最終決戦用に誂えた一張羅が、土まみれになって汚された。足元に降り積もった土の中で、俺は呆然と立ち尽くす。


「ぷっ」

「……ええ?」

「ぎゃははははははは!」


 俺以外の3人が、そんな俺の様子を見て爆笑していた。


 土のエレメント。

 ひょっとして魔王様は、とんでもないハズレを俺に渡していったのでは無いだろうか。

前作が無事に完結したので、新連載を始めました。

最初の章では旅立ちから農業が軌道に乗るまでをやっていきたいと思います。

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[気になる点] >>魔王様の采配にケチをつける気は無いが、俺は「土」か……。 主人公自ら「土」を否定してる時点で読むに値せず
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