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間章「今日は観艦式の日」

 幕僚本部に詰める高級軍人もとい自衛官達の大半が惨憺たる報告を前にして厳しい顔付きで提供された資料に見入っていた。


 数日前、北米に到達した艦隊から2隻の護衛艦と1隻の潜水艦が善導騎士団と呼ばれる“別世界勢力”の日本への大使護送の任務に就いた。


 しかし、その後、ハワイで護衛艦2隻からの連絡が途絶え、監視衛星からの映像が届いた時にはもう全てが遅いと誰にも分かってしまった。


 護衛艦2隻の破壊と熱量による溶解。


 更にハワイ全島において火災が発生し、その勢いは留まる事を知らず燃え盛る炎に全てが没していたのである。


 米国側はハワイの衛星軌道上に監視用の衛星を持っていたが、静止衛星軌道ではなかった為、連続しての情報収集は不可能であった。


 情報提供された日本側からすれば、現地の米軍基地内に置いていた連絡将校と護衛艦2隻を失う大損害。


 潜水艦も戻ってくる気配が無く。


 全てがZ化した敵もしくは黙示録の四騎士によって崩壊させられたのだと断定。


 更に日本近海で近年稀に見るZ化した海獣類の大発生を確認。


 海自は即座に戦闘態勢へと入り。

 本土から40km圏内を大艦隊で掃討する大作戦を敢行。


 艦に被害を出しながらも多数の海獣類と未知の巨大海獣類【リヴァイアサン】を数匹撃滅する事となっていた。


 ただし、被害は艦隊全ての船に及び、400名以上が重軽傷で90名以上が死傷。


 未曽有の海戦は米海軍と合同で行われたにも関わらず、敵物量と巨大海獣類によって類を見ない被害を出しており、気が抜けぬ攻防が続いていた。


『米海軍からの一報!! 五島列島沖の【リヴァイアサン】1体を倒したとの事です!!』


『……一昼夜掛けてか。これで5匹目……虎の子のレールガンでもこれとは先が思いやられるな』


『護衛艦5隻が中破。空母3隻も少破……潮時では?』


『艦隊司令部より入電!! 津軽海峡沖の【リヴァイアサン】をASM全弾と引き換えに撃滅!! 大湊の艦隊も全ての火力を使い果たし、帰投するとの事です』


『後詰の米空母艦隊は?』


『周辺海域の海獣類の掃討は順調であり、少なくとも04:00までには掃討が完了すると連絡がありました』


 艦隊の殆どが弾薬を撃ち尽くす程の激戦後、根拠地である湊に戻ってはいたが、その消耗は激しいものであり、再出撃までは時間が掛かる。


 だが、日本海、太平洋側の4つの海域で起った海戦の結果は芳しいものでは無かった。


 何故ならば、まだ未確認ながらも数体の【リヴァイアサン】が日本近海を回遊しているとの報告が各地の潜水艦から報告されていたからだ。


 隠密性に優れた世界最高の通常動力潜水艦。


 そうりゅう型による索敵範囲は日本近海のみに限れば、かなりの精度で敵海洋海中戦力を捕捉出来るが、その索敵網は対潜哨戒機の情報も統合した結果として未だ敵戦力が枯渇していない事を幕僚本部に対して提示していた。


『総理と政府はこの状況でも観艦式は強行するつもりなのか……』


『東京湾内での事ですから、米艦隊が封鎖している限りは大丈夫でしょうが……』


 参謀達の一部は事態が一旦膠着したのを機に休憩へと入っている。


 トイレの中。

 隣にいる同僚に愚痴る者は多い。


 今現在、東京では日米の同盟を強固にする為、というお題目から戦闘には出られない旧式艦などを集めた観艦式が開かれようとしている。


 現場の自衛官ではなく。


 殆ど定年した予備自衛官などの人間が動かしている、なんて笑い話にならない笑い話が事実なのが本当にもう笑えない自衛隊の実情を示していた。


『……何故、観艦式があそこまで強引に開かれたか知ってるか?』


『米国との関係悪化に歯止めを掛けたいから、ですか?』


『その通りだ。善導騎士団……その日本への協力条件の1つが米国をシャットアウトしての日本との二国間協力だったらしい。魔法使い派の肝いりで進んだ今回の一件……政府が米国から離れる方へ大きく舵を切ったのは間違いない』


『その裏返しなわけか。ですが、それを決断出来る程度のパワーがあの映像にはありました』


 連れションする自衛官達の脳裏に浮かぶのは巨大な要塞化された都市や広がる奈落の穴の数々のみならず早送りにしても1日で無限のように収穫される野菜類やあっという間に出来た陣地という光景であった。


 現地で集められていた情報の数々だ。

 自衛官達の大半がCGを疑ったのも無理は無い“現実”であった。


『だが、我々に可能でなければ、意味が無い』

『その可能性を探る為に大使の派遣を要請したと聞きました』


『村升事務次官の強い要望でな。陰陽自衛隊、善導騎士団、山のモノとも海のモノとも付かない連中に国土が護れるのか?』


『さて、どうでしょうか。ただ、騎士にすら届く力ならば、確かに我々には必要でしょう。ソレが……』


『此処で防衛の一翼を担う米国と距離を取るのが正しいと?』


『米国が何か色々と隠しているとは昔からの噂ですし、日本側にも実際機密があるようです。背広組に同期がいるんですが、中々にして闇が深そうだとボヤいてましたよ』


 彼らが手を洗って、幕僚達の中に再び戻った頃。


 太平洋や日本海で戦っていた艦隊の多くが次々に異変を報告し始めた。


 曰く。


―――海獣類と【リヴァイアサン】らしき影が戦闘を放棄して、何処かへと逃げて行った。


 幕僚達が広げた地図で動きを推測するにソレは少なくとも日本から遠ざかっている事だけは確かだっただろう。


 方向から推測するに太平洋側。


 一体、何が起っているのかと無人偵察機が艦隊から数機上げられていたが、太平洋側からの報告で分かったのはどうやら海獣達が東京近海から東へ向かっているらしいとの事だった。


『一体、何が……奴らの目的は東? まさかロスの艦隊を狙っているのか』


『分かりません。ですが、米国もこの動きには困惑している様子です。何らかの作戦行動に類する戦域の移動なのではないかとの事ですが、分析が間に合っていないと』


『だが、行幸だった。万が一にも観艦式の行われる東京湾に攻め込まれていたら、あの数では1艦隊では厳しいものがあっただろう』


『殆どの艦隊が再出撃まで半日……武器弾薬の積み込みと燃料の補給……大半電池に置き換えたとはいえ、それでも厳しいですね……』


『電池駆動で省力化が進んだ最新型は20艦程度だからな……まだ油を食う船は多い。急速充電の技術も米国ありきだったからな……』


 幕僚達が知る限り、今現在この世界に大量の燃料を供給してくれる国家などまったく存在しない。


 ゾンビに中東が占拠されて以降、急速に普及した燃料電池はリチウムイオン電池と水素電池を主軸とした技術開発が急がれて、近年ようやく国内に普及したばかりだ。


 電力事情は更に原子力発電のみならず、前倒しで進んだ核融合炉による核融合発電所が今は各地に断層が奔っていない陸地側に立てられている。


 安定した作動を求められる兵器類は信頼出来る“枯れた技術”で造るのが当たり前であり、スタンダードだ。


 だが、そんな事も言っていられないエネルギー事情は大容量で急速充電、急速放電出来て、尚且つ大電力を生み出せる新型電池を欲した。


 多くは米国由来の技術と日本の技術者達の合作。


 それでも旧式化した艦に積み込むとなれば、未だ半数が限度というのが日米の現状であった。


 この十年で乾ドックが全国各地40箇所にも渡って整備され、今も大量の船を造り続けているが、その大半は旧式艦を電池駆動にする為の改修工事だったりする。


 幕僚本部が集約されている情報の精査に当たっている時。


 その情報には潜水艦隊の根拠地である地下基地から最後に出払った潜水艦の情報も当然のように引っ掛かっていた。


 しかし、彼らが不運だったのは潜水艦の通信を使っても異常が無い様に艦からは応答があり、更に日本政府の意向で1隻ながらも東京湾へ予定通りの入港が許可された事だ。


 その上、基地への提示連絡が滞った時、最後に出た潜水艦から、何らかの理由で海底ケーブルの異常があると報告されれば、それ以上何を疑う事も無かったのである。


 低深度で連絡を入れたそうりゅう型は通常通りの定型文染みた応答をしてから、そのまま東京湾へと向かい。


 それをまるで素通りするかのように海獣類達は次々に東の海。


 見付かった目標らしき船へと誘き寄せられていた。


 そうして、事態が変遷する最中、日米合同の観艦式が始まる。


『今、海でヤバい事になってんでしょ? こんな事してる場合なのかな?』


『いや、だが、数年前から準備してたらしいし、今更止められないんだろ』


『今日、防衛大臣が欠席してるってさ』


『とにかく、この数年は資源不足で何処も祭りだのは7割以上の縮小傾向だったし、Z化した鳥獣類の注意を引きかねないって殆ど打ち上げ花火も自粛だったからな。楽しもうぜ』


『そういや、缶詰じゃなくて生の食材を食うなんて久しぶりだな』


『そういうのが喰いたかったら地方行け。今なら農業奨励で種と肥料は格安だ』


『よく知らん国の外国人だらけだがな』


『日本人への帰化推奨人材だろ? 政府が招いた連中以外はちゃんとした実績が無いと亡命政権のある山奥からはパスポート無しには出て来られないし、大丈夫だって』


 午前10時1分。


 各地の大型港湾都市に次々と傷付いた艦隊が入港し、突貫での補修作業、武器弾薬と燃料の積み込みが行われる中。


『わ~パパー。おフネ、いっぱいだよ~♪』

『そうだな。このお船が日本を護ってるんだよ』

『あ、あなた。そろそろ始まるみたいよ』


 久方ぶりの祭りに家族連れなどが集まる中。


 出席する日米の政府高官達が艦上での式典を行っている間にもその時間が……そうりゅう型の到着と浮上が刻一刻と迫って来ていた。

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