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第73話「少年の戦い」

 少女達が全力の治癒術式で強制的に再生を促して2時間後。


 全ての四肢は元に戻っていた。

 少年はその合間に現状を聞き、食事を摂り。


 早くも何かをしている様子で艦内には今までよりも更に大量のゴーレムが溢れ返り、次々あちこちの導線から湧き上がるパーツを溶接していた。


「リスティアさんがしてくれた事、忘れません。だから、絶対にその潜水艦を止めましょう。此処にいる敵も地表にいる何かも倒します」


「ベルさん……」


 少年の瞳にある決意の色。


「ベル様……もう動いても?」


 二人の少女の心配げな顔に微笑んで少年はそっと横を見る。


 すると、なぁに?とでも聞いているのか。


 黒猫と白猫が互いに並んで寝ていた寝台の上で首を傾げる。


「お二人が生んでくれたこの子達のおかげで前より調子がいいんです。僕、励起魔力を殆ど貯め込めなかったんですけど、この子達が次々に吸って貯め込んでくれてるみたいで、それに魔術の処理工程も今までの効率より十倍近くまで上がってます。ありがとう」


 少年が両手で撫でると黒白猫ズが為されるままになる。


「さっそくですが、ベルさん。この艦で日本近海の待ち伏せを突破して、1日で東京湾まで行けますか? 私達にはもう信じる事しか出来なくて……」


 ヒューリが現実的な話を前にして覚悟を決めた顔で訊ねる。


「はい。出来ます。10時間下さい。その間に艦内の最低限の装備を全て備えます。対黙示録の騎士用の装備も前々から造っていたものが脳裏にあります。今の僕の性能なら製造に半日。採掘も数時間もあれば済むはずです。その間にこの島の化け物と区画内の敵を倒しちゃいましょう」


「ベル様。頼もしいです!!」


 ハルティーナが心底にそんな事が出来るのかという疑問すらなく頷く。


 少年は断言したのだ。

 ならば、彼女にもう疑うという気持ちは無かった。


「分かりました。私達はどうすればいいですか?」


 ヒューリとハルティーナに少年が一言を告げる。


「休んで……そして、戦いまで寝て下さい。此処からは僕の戦場です。お二人が戦える万全の態勢を築いてみせます。ですから……」


「分かりました。従います。ベルさんがこの艦のトップですから」


「え?」

「八木さんも認めるところですよ?」

「だ、代理という事で……」


 そういうところだけは謙遜する少年の変わらないところに目を細めてから、二人がお願いしますと言い置いて己の部屋へと戻っていく。


 そして、それと入れ替わりで艦内へと戻って来ていた八木が入って来る。


「どうやら完治したようだな。騎士ベルディクト」


「八木さん。途中で倒れてしまって、申し訳ありませんでした。艦内の皆さんにも多大な迷惑を……」


「迷惑等と誰が思うものか。君がいなければ、我々は死んでいたのだ。命を救われた恩、返さずに死ねないと思っていたさ」


 生還した少年に力強く八木が笑う。


「八木さん……」

「何が必要だ?」


 仕事の話を前にしてベルがターミナル内の保守管理要員以外の戦闘可能人員を可能な限り集めて欲しいと語る。


「話を聞いた限り、大規模な人員が必要だと思うので。島の外の敵を誘き寄せ、新種ゾンビ用に造っていた兵器で撃滅します。本来は落ち付いた場所で製造に数日以上の時間が掛かる代物ですが、今の僕なら数時間以内には何とか揃えられるはずです」


「分かった」


「整備区画の敵は僕達で対処を。艦内の作業量を倍増させたので今日の夕方までには移動用の基本的な動力装置が完成出来るかと。それさえあれば、目標地点までの移動は問題なくなるはず……本当の問題は騎士に見付かった場合の対処。そして、潜水艦の正確な現在地です」


「それはほぼ予測し終えている。他の士官達と意見集約していたが、観艦式の開会する午前10時前後に辿り着くとすれば……」


 海図を持ち出した八木と少年が話を詰めていく。


「では、昼になったら行動を開始し、外部の敵を。艦の動力機関が完成する6時までに区画内の敵を。それが終了後直ちにこの艦を発進させます」


「分かった。それでなのだが、いつまでもこの艦と呼ぶわけにもいかんだろう。艦名を付けよう。米国に返すにしろ、他の方法を取るにしろ、艦名は必要だ。僅かな間だけだとしてもな」


 少年が僅かに考え込んでからポツリと呟く。


「……ファウストゥス」

「ファウストゥス?」


「この世界に来てから、シスコで色々な神話や伝承を学びました。僕達の住む大陸の人物の名前に訳せる話もあった。彼は僕らの大陸では魔術師の祖と呼ばれた人で……この世界では古い言語で“祝福された”を意味すると……」


「オペラのファウストか? なら、この艦は祝福された鯨と言ったところだな。語感を考えるとシエラ・ファウスト号と言ったところか?」


「シエラ・ファウスト号……それがいいです」


「ならば、決まりだ。本艦はこれよりシエラ・ファウスト号と呼称する」


 二人が頷き合う。


 その合間にも少年は艦のタンクに充填していた多くの資材ペレット、更には今までこの島までネットワーク化していたディミスリル鉱脈を用い、新たなステップを踏み出す。


 一見して彼が何をしているのか分からなくても暗かったはずの艦内には次々に光が射し、何処か熱量を持って雰囲気が変わった事を多くの自衛官と米兵達は気付いていた。


 理知足らぬ世界に光明を。


 誰が言ったか。

 大陸中央諸国においてソレは標語の1つであった。


 一面で傲慢なソレは……しかし、文明の火が消えた島でならば、人を照らす篝火だろう。


 巨大な化け物の住まう霧の島にはソレを吹き飛ばす烈火の陽光の如き何かが顕現しつつあった。


 *


 島全体を巻き込んだ大規模な作戦が開始されるまでの数時間。


 艦からようやく解放された殆どの兵達のやる事は4つ。


 食糧となる作物を畑から収穫し、茹蛸になった大量の化け物を掃除し、ターミナル機能を人力でやらねばならぬ処に限り、復旧させる事であった。


 基地機能は蛸達の襲撃で見るも無残に破壊されており、埋葬だけでも数十人分だ。


 汚染されていない冷凍庫に運び込み、肉体と共に保存するのも一苦労である。


 更に休める住環境を整えるのも少年がいない間、色々と進んでいた。


 食糧も環境もギリギリではあったが、何とか休める程度にはなったのも束の間。


 一夜明けてみれば、今日の昼には出撃。


 その後に小休止を挟んでから夜までには出発というスケジュール。


 誰だって『またかよ!!』と思わずにはいられなかったが、八木が発表した事実を前にして誰もがやはりまた覚悟を決めざるを得なかった。


 日本の壊滅は実際、先進国の片方が落ちるという事であり、人類に必須の先進医療、先進科学の牽引役が消滅する事を意味し、軍事力の面でも完全に人類の消滅が決定的となる一大事に違いなかった。


 見えざる敵が相手となれば、苦戦は必死。

 更に人間を操ると言われてはもはや彼らに否もない。


『うっぷ……残念だが、一夜干しは全廃棄が決定しました』


『いや、そりゃそうだろうよ……人間の脳髄に針ブッ刺して操るヤバい蛸とか』


『美味しかったよ!! 美味しかったけどさ!! でも、それでもさすがにあの死体見ちゃうと』


『取り敢えず、吐いとけ』

『(*´ω`*)……』×???人。


 トイレに駆け込み七色の川が量産されている合間にもターミナル内の機能の一部は回復し、少年は破壊されていると思しきケーブルが修復出来るかどうかを確認する為、魔導延伸用ビーコンを船型ゴーレムに積んで破損位置を辿らせていた。


 CIC内には前面にゴーレムからの映像が大きく映し出されており、ケーブルの切断箇所が何処なのかが海面下に吊り下げられたビーコンとディミスリル・ネットワークを通じて探査されている。


 それがすぐに見つかったのは行幸だっただろう。


 しかし、それは同時に連絡不能の現状を再確認させられる出来事でもあった。


「ケーブルが食い千切られてます。それも寸断箇所がかなり広範囲に渡っていて……恐らく本土までの間に大量の切断があるんじゃないかと」


 八木が深海のビーコンが発する魔導の解析で発見された傷痕をCGで見て溜息を吐かざるを得なくなる。


「つまり、時間を掛けねば再度のケーブル修復は不可能なわけだ」


「はい。それと整備区画と汚染区画内部の解析に成功しました。内部の構造と物体を仮に映像で復元します」


 少年が二つの区画の映像を出す。

 それにさすがの八木も息を呑む。


 見えないが、片方の区画には輪郭だけをトレースされた大量の蛸型物体が地表や壁や天井に張り付いており、もう片方にはただただ巨大な何かが区画中央にまるでキノコのように《《生えている》》と言った方が良いような形で鎮座している。


「こいつがこの透明蛸共の親玉か」


「……どうやらかなり暴れたみたいですけど、区画が頑丈過ぎて出入り出来なかったんだと思います。でも、解析したら、大きな蛸の方は床の厚みが薄くなってて……」


 少年の言葉に偽りは無かった。


 破壊の爪痕はまるで抉り取るように区画内の壁をやたらめったら彫刻刀のように削っていたが、それでも区画の隔壁は殆ど削れていなかったのだ。


 抉れたのはあくまで表層。


 それを見れば、如何に区画が強固であるかが分かるだろう。


 しかし、キノコ的に生えている床の中央の床の厚みが内部からゆっくりと丸みを帯びて薄くなっていっているのが八木にも分かった。


「溶解液でも出してるのか? もし穴が空けば、終わりだな……」


「はい。、駆除するなら早い方が良いと思います。幸いにして汚染された区画内の蛸は簡単に倒せそうなので。問題は大きい方だけです」


 ベルが区画とターミナルを固定している部分をズームして表示する。


「区画の固定用の部分を僕の魔導でそのまま捩じ切れるかどうか計算してみたんですけど、何か術式の通りが悪い構造材が沢山あって……他の施設に被害を及ぼさずに行うのは不可能です」


「頼むばかりで悪い……」


「いえ、今回は僕達が倒す必要も無いので楽だと思いますから。厄介なのは外の超小型の蟲型と大きなタイプの敵ですが、ゴーレムで偵察中に見つけました。こちらです」


 鳥型ゴーレムから送られてきた映像が映し出される。


「―――この縮尺だと30mはあるか?」


「はい。巨大なムカデ、でしょうか? それに周囲から黒い霧、蟲の大群が湧いてるみたいで。どうやら状況に応じて周辺に蟲を生み出すか。もしくはZ化させているんじゃないかと」


「……奴ら人間のみならず、この世界の全ての生物をゾンビや自分達の駒にする気か」


「分かりません。でも、コイツをこのままにしてはおいたら、蟲が他の国に飛散したりするかもしれません。そして、病原菌を媒介したりする場合、その病気で死んだ人間がゾンビになる可能性も否定し切れません」


「戦うしかないなら、戦おう。前よりも志願してくれた者は多くなっているが、今は艦内待機中だ。その新兵器とやらの製造状況は?」


「今、構造材を製造して、艦内のタンクに充填中です。材料が整い次第、成型してお渡し出来るタイプなので後二時間程下さい」


 少年がキャプテンシートの前で静かに魔導で自身の手前に展開した映像を見つめ、その中に描き込まれているソレの設計図を見る。


 ソレは兵器というよりはその一部と言う事が出来るだろう。

 銃の部品だ。

 チャンバーとバレル。

 少年が今まで造って来た既製品の重火器。

 その大きさや形のみが同じソレ。

 しかし、明らかに違う事がある。

 それは材質と内部に緻密に描き込まれた方陣だ


 元々はこの世界に来てから騎士を撃ち倒す為にフィクシーと共に開発していた術式を銃に転用する代物である。


 少年が魔導で造れる限界の細かさまで圧縮した魔導と魔術の合作である方陣と少年が一瞬だけ到達したディミスリルの物理法則を超えた圧縮技術のノウハウ。


 それらを弾丸を撃ち出すチャンバー内の機構とバレルに落とし込んだものこそがソレだった。


(鎧、剣、銃……今まで造って来たものは確かに相手にも効いてる。形は奇抜である必要はない。誰もが使える汎用性と量産性が重要なんだ……ゾンビの質が上がるなら、兵器の形はそのままに威力と利便性を向上させればいい……魔導がそうであるように……)


 今以て騎士の強さは遥か上だ。

 砲弾を四肢で弾く程度の事はやる相手だ。


 だが、それでも砲弾を至近距離なら“弾かなければならない”という事が分かった。


 それだけで相手は無敵ではないのだと知れたのだ。


 ならば、砲弾並みの火力が有れば、相手と対等ではないにしても渡り合う事が出来る。


(まだ、足りない……まだ……)


 海洋の奥。


 ディミスリル・ネットワーク内の一部に奔る術式が無数の導線を生み出して海底を掘削し、少年のポケットへと今も大量のディミスリルを送り込んでいる。


 本来ならば、一度別の場所に移してから再度加工するところを現在ずっと流入させっ放しだ。


 艦の内殻と外殻の間にあるタンクに充填されるディミスリル加工物は莫大な採掘量に反比例するかのように極少量で未だ人数分の新兵器に使う量には到達していなかった。

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