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第153話「戦闘準備」


 世界は暗がりになっていた。

 午後2時2分。


 本来、彼らのいる場所が闇に閉ざされて不気味な黄色い月に照らされている事なんてあるはずもないが、“あるはずもない事がある”というのが近頃のトレンドだ。


 何処までも不快で不気味な風が生温く吹く。


 しかし、人々はその様子をまるでいつもの事のように過ごしている。


 最初に少年達が行ったのはイギリスとアイルランドの全域避難であった。


 さすがに次も何か来るのではと身構えていた人々は迅速に全ての仕事を放り出して最寄りのシェルターへと立て籠もった。


 あれから随分と数を増していた為、今では何処を見ても100m単位で市街地ならばシェルターが完備されている。


 しかし、今回の一件で困った事があった。

 それは異常を認識出来ない人々が多過ぎた事だ。


 常識を改変する結界のようなものが張られているのは間違いないが、常識が変質してしまっている人々にそれを教えようというのに無理があった。


 そこで少年が取った方策は明快。


 通常の人類には認識不能の敵が出たと嘘でもないが、本当でもない話で全員を納得させた。


 イギリスとアイルランドを蔽う巨大結界は随時拡大中だった為、何か不穏なものを感じた一部の霊感というか魔力に敏感な感覚を持つ人々が音頭を取って避難を誘導してくれたりもした。


 こうしてこの話を信じた人々は速やかに退避出来た。


 後、現地以外からの人々が外がヤバイ事になってるという通信してきたり、SNSなどの情報に付く心配するコメントに『何言ってんだこいつら? 今日は良い天気じゃん』という反応を示した事で人類は恐怖した事も付け加えるべきだろう。


 そのリアクションに当事者よりも他の人類生存圏の人々が喉を干上がらせた事は間違いない。


 半魚人に次ぐ危機は人類の認識すらも捻じ曲げる災厄。


 こんなのと戦うのかよ。

 善導騎士団半端ねぇな。

 という言説がネットには飛び交ったのだ。


「さて、実際に敵を認識しようとしてみましたが、使い魔とドローンが認識してません。どういう事か訊ねても? 何となく想像は付きますが……」


 生ゴミをベルの導線で処理した後。


 チューチューと棒状の肉のレーションを食べた全員がCP内で相手がいると思われる場所を映すドローンや使い魔の反応無しという情報にジャンを見やる。


「認知の歪曲がまだ酷いという事だ。先程は父が用いていた覚醒用の術式を波動で放射させて貰ったが、それでも現在の変容の状況を全て知覚出来ていない」


「どういう事ですか? ベルさん」


「……僕らの認識がまだ歪んでるって事です。恐らく情報機器に入る情報自体も実際にはもっと違うんでしょう」


「なる程? まだ、私達は半分夢の中、みたいな感じでしょうか?」


「ええ、認識や認知を弄る系統の概念魔術や能力は幾つかのタイプがあって、外側から見ても分からないようにするものと内部から見ても分からないようにするものがあります」


「その通りだ。だが、お勧めはしないな。我々のような強固な自我やあの神に対する耐性が無い者が見れば、気が触れかねない」


「え……そ、それじゃ、どうやって敵を見付けて、倒せばいいんですか!?」


 ヒューリが思わずジャンを睨む。


「それはそちらで考えろ。だが、直視出来なければ、確実に死ぬぞ。相手の攻撃、動き、何か一つ見逃せば即死……そういうのを相手にしている。過去、リヴァイアサンや海の魔物と呼ばれたモノだ」


「ど、どうするの!! ベル?!」


「そ、そうですよ!! ベルディクトさん!? さすがにそんな状況で戦うのは!?」


「まぁ、落ち着いて下さい。そもそもの話ですが、それは問題ありません」


「「「え?」」」


 三姉妹が同時に声を上げる。


「陰陽自では神を殺す兵器を色々と試してました。その前から諸々黙示録の四騎士相手に考えられるあらゆる攻撃や状況での対処法も編まれました」


「そ、そうなの? さすベル……」


 悠音が何だか分からないが、頼もしそうな話に一応頷いておく。


「術式で相手の造形をデフォルメしたり、色を変更したりして、正しい認識を更に捻じ曲げてアイコン化しましょう。相手の動きや異変を即時反映してCG補正するくらい善導騎士団の技術力ならば、造作もありません。九十九がやってくれます」


「お、おお!! いつも思ってたけど、九十九って機械やっぱり凄いんだ!!」


 悠音が善導騎士団の超技術にちょっと感心した様子になる。


「元々、アニメや映画制作に使ってる技術ですよ。というか、現在進行形でドラマも含めて諸々録ってますしね。この間からハリウッドの元CGディレクターやアートワーク関係の方々、他にも実際の現場で作ってくれてるモデリングの方なんかが協力してくれて、プログラムもバージョンアップしました」


 青年が呆れた様子で少年を見ていた。


「神の情報攻撃がそんなのでどうにかなるのか。日本なら世も末と言うべきかな」


「案外詳しいんですね。もしかして、アニメとか好きだったりしますか?」


「敵を知るのに苦労しないのは楽な話だ」


 青年がフードの奥から善導騎士団製のスマホを取り出してヒラヒラさせた。


「そういう事にしておきましょう。ええと、今回生き残ったら、六歳児向けの番組でも?」


「馬鹿にするな!!? オレはこれでも難しい漢字も読めるぞ!! イグゼリオンだって見られる!!」


「イグ……えっと、確か前から入ってるロボットアニメだっけ? あいつが好きだったやつ」


 悠音が反応した。


「そうですね。確かお部屋にも……アレって確か今期のは視聴者の若返りを図る目的で低年齢層向けだったような? ええと、あ、八歳からって書いてある」


 緋祝姉妹が要らない事をスマホで調べ、ヒソヒソ呟き合って、青年の顔が僅かに引き攣った。


 そうしている合間にも少年が何やら虚空に呼び出した映像投影型のキーボードをカチャカチャと叩いて、まるでSF染みて準備を整え、青年以外の全員の額を軽く触って術式を流し込んでから、最後にエンターキーを押した。


 途端、彼らの視界にドローンや使い魔達の視野から流れ込んでくる情報が一瞬で変色する。


 いや、それすらも瞬時に補正されて普通の道路を歩く何かが3体見えた。


 テクテクと歩くソレらは―――20m程の全長を持つ蛸の頭をデフォルメしたようなファンシー全開ピンク色な《《ゆるキャラ》》にしか見えなかった。


「ッッ~~~」


 青年が思わず頭痛を抑えるように額に手を置く。


「おお!! 凄いわベル!! アレなら全然怖くない!!」


「危機意識の欠如で即死したくなかったら、もう少し凶悪な見た目にした方がいいと思うが……」


 青年が最な事を言うと少年が更に弄り、見た目は緑色。


 更に目元が凶悪に吊り上がった。

 パチモン臭全開。

 明らかに何か悪い感じですと言わんばかりだ。


「幾らかドローンや使い魔の方でちょっかいを掛けてみます。暫定スペックが出たら開示しましょう。あちらは中部の沿岸線沿いですが、幸いにして観測基地を避けて行軍してます」


「……避けて? 迂回しているのか?」


 青年が訊ねる。


「はい。理由は分かりませんが、ディミスリルに魔力を吸われるのを嫌がってるとも考えられます。基本的に基地機能は魔力の直撃に対しては許容量がオーバーするまで吸収する仕様ですので」


「基地内では魔力を用いた術式は使えないのか?」


「いえ、使えますよ。ただ、術式の反応を虚空で固定化出来ないので複雑な式を虚空で練ったり出来ません。術式も全て物理事象やエネルギーに変換し続けないとダメです」


「……複雑なものを虚空でやろうとすると消えるのか」


「はい。貯めておく場所から外に出したらすぐに使う事が求められます。僕らは電気式の機械や魔力式の機械を使いますから、魔力を出力してすぐに変換しちゃうので問題無いですけど」


「普通の術師がモタモタしていたら、術式と魔力がダメになると」


「ええ、従来の魔術師の類や魔力を纏うような対象の力はかなり減んじます」


 青年が思っていた以上に少年のヤバさが分かって閉口しそうになった。


 要はこの基地内部で戦う時、魔力を用いる場合は魔力の転換や変換の時間や効率が高くなければ、ロクな魔術が編めないのだ。


 それを機械で行うならば、まだしも……生身ではその速度には限界がある。


「中継基地内部の隊員やイギリス側の人員にイギリス本土へ転移で脱出するように打診しました。基地はこちらの魔力導線で撤収してシェルター都市北部に設置。取り敢えず、相手が到来するまでに簡易要塞にして防護を固めましょう」


「待て?! 色々おかしいだろう!? 基地を撤収とか設置とか。そんな簡単な話なのか?!!」


「あ、はい。そういう話ですけど……あ、簡易の基地とかはすぐにお引越し出来るように作ってるので楽なんですよ」


 少年が虚空に基地の撤収用マニュアルを表示する。


「電子機器が入ったモノは最初に搬出して転移で送って、その後に基地本体をこちらに20人くらいの転移術者で持って来ればいいだけなので」


「……もういい。続けてくれ……」


 青年がツッコミを諦めた。


「相手の能力を現在諸々測ってますが、これは……あれですね」


「「アレ?」」


 姉妹が首を傾げる。


「高位魔族に近いです。能力的には半魚人の基礎能力を極大化して侵食能力も精神侵食系が加わってるかな?」


「それってかなり危ないんじゃ……」


 ヒューリが尤もな事を呟く。


「お魚やマウスさんに犠牲になって貰ったんですけど、同化スピードから言って……ちゃんとした装甲を使っても1時間くらいですかね。侵食から身を護れるのは……」


「やっぱり待て!? 神の侵食に耐えるのか!? その鎧は!?」


 青年がまたツッコミを入れずにはいられなくなった。


「あ、はい。そういう鎧ですけど……あ、ディミスリル系統の技術は常にバージョンアップしてるんですけど、近頃大変革が起きたので諸々の能力が毎日1 %くらいずつ上がってます」


 三姉妹は揃って日に1%なら1年で三倍以上の性能になっちゃうのだろうか?という疑問を浮かべたものの脳裏のハルティーナに『さすベルで解決ですよ』と諭されて納得しておく事にした。


「侵食にさえ耐えられるならば、後は攻撃力と当てられるかどうかが問題です。そこはこれからですかね」


 少年が脳裏でドローンからお魚さんとネズミさんを使って、肉塊にやっていたのと同じように解析を開始して、相手のヤバさに内心で溜息を吐く。


 巨大な魔力の障壁を持ち、半径400m圏内の生物の精神を侵食して不安定化させる波動を噴出させ、物理接触したら問答無用で同化。


 ついでに敵の細胞は柔軟らしく。


 どんな角度から攻めても半径150m圏内の相手なら、肉体の何処からも伸びる触手が秒速1430m程で貫く。


 音速を遥かに超えるのはまだいい。

 問題は攻撃の手数だ。


 魔力を纏った同化触手が乱舞していては本体まで攻撃が届かない。


 いや、届くには届くかもしれない。

 が、弾丸などはちゃんとした威力は望めないだろう。

 相手は神の一部。

 正しくSFな兵器を使ってようやく焼けるかどうか。


 それとて人型二足歩行という形態を取るという事はつまり避ける事が前提とされている。


 兵士よりも取り回しが悪い艦の攻撃が当たると考えるのは早計だろう。


 相手が学習するとなれば、敵を倒す機会は多くない。

 つまり―――。


「皆さん。黙示録の四騎士戦の予行演習しましょう」


「は?」


 青年以外は少年が言いそうな事だと肩を竦める。


「目標は丁度3体。そして、もしかしたら黙示録の四騎士よりも生物的には上位かもしれません。相手の大きさは20mですが、諸々の状況から考えて本気での機動能力は黙示録の四騎士並みでしょう。日本からの転移は問題ありません。人類の技術力による総力戦です」


 何かサラッと人類技術の粋を集めて戦おうとか言い出した少年を前にして青年はさすがに三度目は突っ込まなかった。


 が、こいつはこういう奴なのだろうと内心で溜息を吐いておく。


「今回は開発中だった対侵食装備での近距離戦……フルコンバットです。あちらからフィー隊長、クローディオさん、片世さんも呼びましょう。陰陽自研の最新装備を投入で対抗しましょう」


 ヒューリ達が遂に予告されていたアレが投入されるのかと拳を握る。


 今の今まで緋祝姉妹は自分達の能力を拡張する力で戦っては来たものの、自分達の実力で戦って来たとはまるで言えない。


 だが、此処からは完全に騎士見習いとして戦場で神の一部相手にぶっつけ本番ながらも今までの訓練と努力をその身で十全に使わなければならなくなるのだ。


 ヒューリとて今より自分が強くなれるとは聞いていたが、戦う術を巨大な機械に頼ってまで行わなければならないという状況が如何に危機的なのかは分かっていた。


「目標は3体の殲滅。戦力の分散と各個撃破、敵の再生や援護を全て遮断しての戦力投入。負ければ死。逃げられるかどうかも分かりません。でも、必ず勝って生きて帰りましょう」


 少年の瞳は全員を見詰めていた。


 青年はその場の誰もが頷く様子に人を導くのはこういう人間なのかもしれないとただ言葉と行動だけで信頼を勝ち得る少年が持て囃されるわけだと納得する。


『話は聞かせて貰ったぜ。遂に神殺し(仮)の称号まで得るのか。善導騎士団もオレが入った頃とはまったく見違えるようだな』


『ふ……騎士に二言無し。負ければ、後ろの都市が沈むだけだ。我らには死んでも退路は必要だ。帰るべき場所がな』


『騎士ベルディクト。神相手となれば、結界に関しては任せて下さい。黙示録の四騎士相手に使ってみたいものが幾つかあります』


 割って入ったのは虚空に顔を投影したクローディオとフィクシーとミシェルだった。


 最初の2人はまだ日本。


 ミシェルは現在シェルター都市の地下儀式場で結界関連の仕事に従事している。


「皆さん頼りにしてます。3班の編成はこちらで行い戦術のプランニングはすぐにでも……新装備をぶっつけ本番で投入する事になったので情報を送ります。片世さんもよろしいですか?」


『へ? あ、は~~い』


 呑気な声が答える。


「……何してたんです?」


 少年が訊ねるとサウンドオンリーな相手があははと誤魔化すように笑う。


『あ、ちょっと近頃黙示録の四騎士相手じゃ物足りないなぁって夢で戦ってて。あ、勝率7割超えたわよ』


「あ、はい。神様の欠片との戦いでは片世さんが一番重要な相手との戦いに投入確定なので情報を読み込んでギリギリまで九十九と共同で戦闘経験の蓄積をしてて下さい。随時データは更新しておきます。試作兵器関連の使い心地とデータはすぐ提出を。今回は遊びは無しでお願いします」


『りょーかーい(*´ω`*)』


 青年は思う。


 案外、彼らはあっさり黙示録の四騎士に勝つんじゃないだろうかと。


 そもそも勝率7割とか言われてハイそうですかと人類が頷けるものではないだろう。


「では、皆さん行動開始です」


 少年はそうして号令を掛ける。

 今まで黙っていたシュルティやハルティーナも頷いた。


 彼らの『黙示録の四騎士予行演習作戦』はちゃんと少年が即席で造った栞が配布される事となる。


 命を懸けた演習の成果がどうなるのか。


 それは彼らが掛けて来た努力と彼らを支える人々の成果によって決まるに違いなかった。


 *


―――??日前、陰陽自研。


 世界がもしも寒ければ、誰かが温めてくれると思っているのが子供だ。


 それは日溜まりのような温もりで世界は幸せと薄明に満ちていく。


 漣が運ぶ潮風と厚い雲に浮かぶのが哀しみや身を切る冷たさだとしても、それをそのままにしておけぬ者達が導いた先こそがこの未来だ。


 人が人たる所以。

 貴方は貴方の世界を変えて良いという法。

 火を焚いた人は偉大だ。

 全てを回す歯車を造った者も。

 いつか無いという事を顕す概念を発案した者も。


 それはその時はまだ意味など然して大きくない事でしかなかっただろう。


 だが、数千、数万の時を超え、世界には文明となって栄えた。


 月に到達し、他の天体に着陸し、今戻る事すらも出来るようになった。


 夢も苦悩も進み克服していく過程。

 世界に溢れた不可能は未来の可能性。

 だから、基幹技術を生み出した者は尊ばれる。


 それは嘗ての蒸気機関。

 それは嘗ての電子工学。

 それは嘗ての原子力。


 そして、今―――彼らは見付けた。


 ディミスリル。


 屍が跳梁跋扈する世界に現れた未知なる金属。

 絶望の最中にソレへ手を伸ばした初めての少年。


 彼は子供ではなかった。

 日溜まりを生む為に火を熾す者だった。

 故に彼の下に集う子供達はやがて知るのだ。


 その世界を照らし尽くす業火を前にしても手を伸ばし、動じず、焼け焦げる手も構わずに自らの身に宿して後悔なく、それを人々は讃えたのだ。


 無限の言葉、千億の叡智、やがて全てが土に朽ちてしまう。


 それが文明と知って尚、彼は言ってみせる。


 前に進み、まだ見ぬ明日へ向かう先、死が待っていても畏れる事など無い、と。


 死を宿す瞳。

 死を観る瞳。


 その観測者たる少年は人々に言った。


 陰陽自研において最初に、初日に、彼らに伝えられた言葉は明確だった。


『明日、文明が滅びるとして。貴方達は自分の研究を、自分が追い求めた情熱の成果を、家族を護りたいという気持ちを、無駄だと断じて捨ててしまえる人ですか?』


 少年の言葉を聞いた誰もが思った。

 ああ、そんんわけない。

 そんなはずない。


 だって、此処に来るまでに、到達しようとして出来なかった人々が大勢いる。

 彼らの友や仲間や家族。


 それを護ると。


 あるいはもういない誰かの代わりに護って見せると。


 そんな使命感が彼らの中には少なからず燻っていた。


『絶望、希望、夢、苦悩、諦観……全て此処にあります。全て貴方達の中にあります。それは決して無駄ではない……死がどれだけ無残でもやがて命は世界に還るもの。その時間が多少縮んだか長引いたかに一喜一憂するのが人間なんです』


 少年は穏やかに微笑み。


『月が静かに語ろうと、陽が如何に語ろうと、大地が何を語ろうと。それはとても遠い……(とお)い話……僕らはもっと近くを語りましょう。人の文明が滅ぶまで、人の種が朽ちるまで、それが良き記録にして記憶だといつかの誰かが微笑んでくれるように』


 彼らを前にして真剣な瞳を向ける。


『せっかく、生まれて来たんです。誰もが善き日を過ごした記憶と共に眠れる明日を。誰もが善き日々に思いを馳せて眠れる今日を。今、貴方達が掴む成果はいつか忘れ去られ、消えゆくでしょう。けれど、何も悲しむ事はありません』


 少年の前に魔術の方陣が浮かべば、無限のような言葉の塊が辺りを照らして。


『今、貴方達の成果を待っている人がいる。今、無ければ、滅んでしまう人がいる。此処に今、困っている人達がいる。だから―――』


 少年が片手で言葉を握り潰し、魔術の言葉を誰の上にも弾け溢れさせた。


『戦って下さい。貴方達が望む限り、全てを用意しましょう。それが僕に可能ならば、可能になると分かっているならば、やらない理由は無いんです』


 誰もがその温かさに僅か手を虚空へ差し出し、その言葉に触れる。


『だって、技術や発明は何かを作るという事は……この世界で今も震える人に温もりを分け与える事。夢を希望を未来を可能性を共に分かち合う事』


 言葉は儚く解けて消えていく。

 美しい、と誰かは呟いた。


『例え、消えゆく情景に僕らが映らなくとも、誰かが残ってさえいれば、笑ってさえいれば、未来と希望を感じていれば、可能性に溢れていれば、温もりに浸っているならば、それが僕らの勝利です』


 静まり返った講堂でそう語った姿は誰が撮ったものか。


 新人の研究者達には必ずこっそりと見せられた。


 少年が恥ずかしいと笑うのを誰もが分かっていたからだ。


『これで所信表明を終わります。ご清聴ありがとうございました』


 今、彼らは今一度の初心を忘れぬようソレを観る。


 ディミスリルの原理解明。

 それは人類を更なる高みへと導くだろう。


 人が如何に愚かでもソレこそが次なる技術に変わり無く。


 この始まりを生み出した少年にこそ。

 新たなる人類の時代の幕開けを告げる資格がある。

 上映が終了後。


 巨大な円卓に無限のような情報が虚空へと投影されて立ち昇っていく。


 ―――【九十九の合成音声によるディミスリル原理解明における詳細を説明致します】


 円卓の中央。


 少女、全身白い九十九のアバターがワンピース姿で虚空へと原子のモデルを表示していく。


『まず、ディミスリルとは通常の元素を超重元素に変化させる力を持った原子変換能力を持った鉱物と思われていました。ただし、原子変換の条件が魔力の浸透である事が確認され、原子変換機能がどのようなものであるかの確認には素粒子レベルの観測機器が必要とされ、未だ人類にソレが無い故に不明でした』


 パッと現された二つの分子塊。

 それは片方が鉄、片方はディミスリルであった。

 ディミスリルの原子番号は未だ定められていない。

 だが、通称はDもしくはDiが使われている。


『常温核融合とも違う事は分かっていました。コレはそんなものではない。どうして魔力を受けねば効果が現れないのか。我々には解りませんでした。ですが、原理の一端は魔術の側からのアプローチで解明されたのです』


 ディミスリル、金属元素、魔力の三要素が虚空に表示される。


『魔力とはあちら側の技術で諸々を解明しているそうなのですが、根本的にはエネルギーに変換可能な力の総称でした。ですが、その励起には殆どの場合、人の認識が関わっている。この魔力を魔力たらしめる発生プロセスの系統をあちらでは魔力形質と呼んで400種類前後あるそうです』


 魔力形質、の文字が更に追加される。


『元素の構造は把握していました。ディミスリルは所謂魔力を通し、尚且つ受け止める性質があるのですが、この性質を魔術側からの思考で考えると。ディミスリルには人の認識によって発生する力が必要であると考えられました』


 認識=魔力の文字が更に追加される。


『人の想いの力を受け止める金属元素。ディミスリルの原子核魔法数は観測結果665である事が確認されたのがつい先日。陽子と中性子の組み合わせに付いて原子物理学の権威達が原子構造のモデルと推論を組み立て終わったのが三週間前』


 虚空に次々にデータが表示されていく。


『ディミスリルはそのままでは何ら価値が無い金属ですが、此処に人の認識、想いから生まれた魔力が加わった時に起こる物理事象は一部が通常の物理法則とは違う反応を見せる事が解りました。これは原子変換能力だと決めつけていた我々は此処で初めて回答へと至ったのです』


 回答=根源真理という文字がまた追加される。


『ディミスリルの原子変換能力は実際には原子変換ではなく。素粒子置換である事が判明しました。それも置換先はこの世界ではない別の何処か。空間を越えて別の世界から金属元素の一部に異世界の金属元素が、素粒子が置換されていたのです。空間制御による外界からの粒子途絶後もコレが行われていた事で空間制御中の極小領域に穴が開いていると一人の魔術が使える者が感知した事からは判明した事実です』


 バァンと原子変換の語に二重の赤線が引かれて、素粒子置換という言葉が追加される。


『空間を捻じ曲げる程のパワーが何処から齎されるのか。魔力が微量でも良いという事自体からも不可思議に思われました。ですが、ディミスリルが空間を歪める際、原子核内の構造が量子的な変容を来し、未知の状態へと変遷している事が解りました。量子系の高度実験中の発見です』


 Xという文字が追加される。


『これは量子力学分野。曖昧性を醍醐味にする学問と魔導の結合によって産み出された観測機器において観測された結果から得た結論なのですが、この際の状態は極々小規模の素粒子や陽子、中性子以下の極小単位でのエルゴ領域の発生、つまりその内部にある特異点の発生状態なのではないかとの事です』


 特異点=根源真理的という図が浮かぶ。


『この特異点の発生は魔力発生原理……曖昧性の確定とは真逆、確定したものを曖昧にするという処理であると推測されます』


 特異点と魔術原理が=で結ばれて?を付け加えらえる。


『空間を歪める程の無限の凝集によって発生した特異点を通って特定の領域と繋がる事で有限でありながら、無限の歪曲に続く扉が原子や素粒子単位で発生する』


 特異点が更に=で門という言葉と結ばれる。


『これが現象として予測されるディミスリル化の発生行程となります。そして、その世界の元素はこちらよりもかなり比重が大きく。陽子や中性子の性質も異なり、金属元素以外にはならないような振る舞いが見受けられます』


 別世界の元素という文字が連なる。


『原子核魔法数も500以上である事が殆どではないかと推論されていて、正しく人類史に残る大発見でしょう』


 確かにそれはそうだと誰もが内心納得する。


『ディミスリルとは物理法則化にありながら、魔力を用いて、その確定事象を未知に戻して無限の歪曲を内包し、魔力を受けた時に別の世界の元素をこちらの世界に混入させる異世界と現実を結合させる門という事になるでしょうか』


 それはつまりディミスリルが関連する技術はもはや人類が到達し得ていない世界を探求する未知の領域の学問に近いという事に外ならない。


『空間歪曲金属とも言うべきもの。小さな空間の歪みを引き起こすディミスリルの集まりは有限でありながら、無限を引き出す力なのです』


 ディミスリルの原子核が次々に門の形にデフォルメされていく。


『この無限の力という単語はあちらでは根源真理と呼ぶのです。魔術の大系が千差万別なのは魔術的な回答で言えば、意志力や認識の違いが個々の宇宙の理屈に成り立つ。つまり、小さな世界を持つからだとされています』


 根源真理=無限の力と図が結ばれていく。


『世界とは法則です。つまり、魔術を形作る無数の法則の中から魔術の大系は形作られ、認識出来る法則の違いが魔術の違いになる』


 次々に浮かび上がるのはこちらの世界での魔術関連のデータであった。


『ディミスリルが繋がるのは恐らく我々の世界よりも善導騎士団側の世界に近い領域であり、あちらの世界ではこちらの世界よりも法則の箍が緩いのではと推測されます』


 曖昧性の強い世界=量子的な解釈の多極化という言葉が上乗せされる。


 そこには対称性が破れやすい世界?との疑問符が付いた。


『要はこちらよりも法則が曖昧なのです。まるで量子力学分野の要点のように。この辺は現在理論構築中の魔導量子力学系の先生方に聞いた方が早いでしょう』


 法則が緩いか固いかという抽象的な図が虚空に描き出される。


『ディミスリルが魔力の無い環境では単なる金属に過ぎないのは反応出来る法則上の性質を持つエネルギーが一般的ではなかったから。あらゆる魔力の法則がこちらでは一般的なものでは無かったせい、と思われます』


 それを聞いて科学全盛の時代には不遇な扱いを受けざるを得ない金属なのだと大抵の白衣達が理解する。


『要は魔術がもっと盛んだったならば、我々はもっと早くこの金属に付いて理解出来ていたはずなのです』


 次々に現れるのはゾンビが出てからディミスリルらしき金属を発見したという幾つかの論文であった……その日付は少なくとも少年が来るよりも数年前から存在している事を示している。


『魔術の根源真理的な諸法則を網羅して受容する金属ディミスリルは正しくこちらの金属ではない。恐らく世界規模での環境変容において別世界から混入していると思われます。でなければ、あらゆる魔力を吸収して内包するという性質は発揮され得ないはずですし、何故かいつの間にか大地や海の下に混入して巨大な鉱脈を形成している理由も説明出来ません』


 なる程、という顔のものが多数。


『魔力として生成されるエネルギーには熱や光や振動。要は波動のような要素のものも含まれます。それも普通の同じエネルギーと同様に使えるものが……ですが、普通のエネルギーには反応せず、魔力として励起されたエネルギーには反応するという事も確認されました』


 普通に考えれば、二つは同じなのだから、同じ反応が起るはずだ、というのが今までの常識である。


『これは物理学的には不可解です。同じエネルギーなのですから。明らかに《《法則が違う》》、エネルギーの発生プロセスが違うからという理屈以外にはこの差別化を説明出来ません』


 光と魔力の光は同じ光だが、ディミスリルは区別するのだ。


 その様子が確かに映像で確認される。

 魔力と物理量は違う。


 つまり、これからの物理学には魔力量とも呼べる新しいエネルギーへの理解が欠かせないという示唆であった。


『金属元素にしか反応しないのは同様の金属元素しかない異世界の元素の置換混入であるからだと推測されます。つまり、騎士団の異世界に近い領域では金属元素しかない世界がある。いえ、それ以外に物質の安定する法則が無いのではという推論が為されています』


 未知の世界から導き出されたディミスリル。

 その驚愕の事実に多くが息を呑む。


 示唆されたのは彼らの宇宙とはまったく別の法則が支配する系を内包した領域が彼らの手に転がり込んでいるという事実。


『何故、皮膜でしか能力が発現しないのかについてもほぼ的を射たと思われる推論が出されており、完全に混ぜ合わされると置換された金属元素が再置換されてあちら側に戻ってしまうからだと思われます』


 ディミスリル関連の合金化データが次々に現れる。


『その実証としては完全に混ぜ合わせたディミスリルと金属の混合塊が一瞬だけ能力を向上してからすぐに能力が下がっていく現象が挙げられます。ナノ単位の観測結果から言って、ほぼ間違いないでしょう』


 ディミスリルの原子核構造が表示される。


『これらを説明する上でディミスリルの原子核構造の解明が欠かせませんでした。原子核構造理論は複雑ではありますが、今まで日本も大きく関わって来た理論の一端です。ですが、今後は大きく見直されることになるでしょう』


 それは物理学が変わるという事実に外ならず。


『今までの唯物論的な学問に対して曖昧性による更なる進化を持たらす……この成果は魔導量子原子核構造理論という形で統合され得るはずです』


 原子核関連の多数の模型。


 相互作用、スピン、波動関数、諸々が全てガラガラと音を立てて崩れ落ち、新たな系の法則を導入した新理論が虚空に立ち上がる。


『ですが、我々に遺されている時間はあまりにも少ない……法則性を探求し、モデルを構築し、現実に物質的な影響を及ぼす事が可能な理論として確立し、ディミスリルがどんな対称性を破り、無限の凝集による特異点効果を発揮しているのか。それを全て解明するには時間が掛かるでしょう』


 白衣の誰もが言われている事は実感していた。

 あまりにも時間が足りない。

 それはまず間違い無い事であった。


『ですが、敵は待ってくれない。この一点で我々は今語れる理論を用いて、最高の盾と矛の製造に取り掛かっている』


 盾と矛。

 その矛盾を作る者達はその場の誰もだ。


 武器でも防具でもないものを研究するものとて、それは背後の人々を護る為の代物に違いなく。


『皆さんもそれは同じ。故にこの解明によるブレイクスルーにおいて可能になったディミスリル運用の要点を掻い摘みましょう』


 次々に文字列が流れていく。


『ディミスリルの空間歪曲と置換機能を用いた物体密度の補填が可能になりました。これは超重元素で物質の構造を補強したり、修復するのに使えるでしょう』


 それに『おお』と声を上げた者は多い。


『色々制約はありますが、方法を見付けたという事です。更に原理の解明によって、ディミスリルの魔力の更なる内包処理が可能になりました』


 虚空に空間が歪曲したディミスリル塊の分子の周囲に魔力が凝集される図が描き出される。


『要は異世界から物質を持って来る空間歪曲を機能させながらも門を閉める方法が見つかったのです。これで魔力を更に莫大な量貯め込めるはずです』


 それに『おおお!!』と声を上げる者は更に多い。


 今現在、ディミスリルの魔力貯蔵量の限界が彼らの造るあらゆる物品の限界でもあったからだ。


『そして……ディミスリルの空間制御型の魔術具において好きな超重元素を持ってくる事が理論上可能になりました』


 それはもはやどよめきになっていた。


『ただし、莫大な魔力と超重元素を指定する為の極めて強固な術式による異世界からの誘因が必須です。ですが、推奨されません。まだよく分からない未知の領域から《《何か》》を持ってきてしまうという事ですから』


 それはそうだと大抵の人員が納得する。


 まだ超重元素に付いては現代物理学では分からない事が多過ぎる。


 その性質もまるで分っていない。


 現物が幾らでも持って来れるとしても、危険性がどのようなものかは実験してみないと分からないのである。


『その危険性から、この機能に関しては武装関連の研究員以外には情報が解放されません。持って来た瞬間に世界が滅んでも困るという事だと理解を』


 虚空には持って来た元素が一瞬で爆縮するように凝集してブラックホールになるという極めてオカシな図が映像で展開されていた。


 だが、これをそんな馬鹿なと笑い飛ばす者はいない。


 何故か?


 彼らが作り出した最高の爆弾と火砲は局所的なブラックホールの生成による物質のエネルギー化原理を用いているからであった。


 持って来た超重元素が瞬時にソレと同じものになるとは誰も笑い飛ばせなかったのは彼ら自身の成果のせいである。


『超重元素の強引な引き寄せには原子核魔法数での指定が用いられますが、ソレが本当に呼べるかどうかも極めて慎重に実験すべき案件であり、実験は騎士ベルディクトもしくはフィクシー副団長代行の同行が必須となります』


 ま、そりゃそうだという空気が流れる。

 ヤバイのに対処出来ない。

 リスクヘッジ出来なければ、実験は不可能だ。


『最後に原子核変換、核種変換を任意のものに高速処理出来る魔導原子核変換理論が確立されました。要は最新の消滅処理技術が確立されたという事です』


 ハッ?という顔になるもの多数。


『魔導の錬金技能の魔導機械術式による再記述が一部終了致しました。我が国でもう原子力のゴミは何ら問題になりません。ですが、それよりも重要なのは任意の核種に変換出来るというところで……核融合関連の技術はほぼ完全な究極系に達したと言えるでしょう』


 パッと映し出されたの小型の核融合炉の設計図だった。


 それも核融合炉?と呼べるような良く解らない機構が組み込まれた。


『超小型の核融合炉がこの理論を用いれば、無限に核物質を生成し続けられる自在核種変換超重元素融合炉と言うべきものに生まれ変わります』


 核融合炉系統の内燃機関を研究していたチームがニヤリとした。


 これに驚いたものは正しく彼らの思う通りの驚愕に支配されている。


『あらゆる物質を取り込んで核物質にして、核融合して、残った物を更に高濃度ウランに匹敵する核物質にして……事実上、炉の耐久力と周囲に物質が存在する限りは無限のエネルギーを生成可能な無限機関です。超重元素による時空間に対しての対称性の破れが発現する事も確認されました』


『遂に無限機関来ちゃったよ……(=_=)』という顔の者はチーム以外全員。


『ディミスリルを触媒とした核融合炉研究が飛躍した成果です。核種変換に必要な処理を魔導式の低コストで行う際にディミスリルの超重元素置換機能を借りて飛躍的にエネルギーの創出能力を高め、最終的には《《自己再生する無限機関》》として完成する予定です』


 自己再生する無限機関。


 『一体お前は何を言ってるんだ?』という顔になる者はいなかったが、さすがに呆れた様子になる者は多数である。


『九十九クラスの処理能力のある演算装置が必要になりますが、それも含めて駆動コストよりも駆動して得られるエネルギーが高いです』


 もはや、彼らの目の前にあるのはサイエンス・フィクションなんて安い言葉で片付けるには明らかにオカシな世界であった。


『こちらは魔導とDCによる超重力崩壊を用いたブラックホール機関よりも早く開発が完了する予定です。武装に転用されるのは確定ですしね。超重元素による核融合反応は極めて高いエネルギー効率を示しています。これを用いて更にブラックホール機関とのハイブリット内燃機関の開発を想定しており、1月後までに試作機での運転を予定しております』


 ハッ?となる者がまた多数。


『そう難しい話ではありません。現在、二つの内燃機関は設計も最終段階です。多用されるディミスリル・クリスタルの術式駆動構造の被った率は実に74%にも昇るのです!!』


 要は殆ど同じ機構が用いられているという事になる。


『複合率を高めて、どちらでも機能する。あるいはどちらも同時に使用する事が可能かどうかを九十九で演算しましたが、可能と判断。つまり、実機作成に際してはこの74%を共通で複合機を3機作成し、残る26%を我々の努力と根性と閃きと血と涙と汗で補えばいいだけの話です』


 少女の姿が崩れると背後で喋っていた男達の姿が現れる。


『やってみたくありませんか? 人類が到達し得る究極のエンジンを我々の手で生み出し、人の希望として騎士に……彼に託すのです。今、神を打倒しようとする彼に……』


 少年が今もまたイギリスで戦い続ける姿が映し出される。


『打診した時には笑ってしまいましたよ。彼が我々に付けた注文は一つだけ。《《体内に埋め込めるサイズにしてくれ》》、です』


―――【      】


 誰もが凍り付くよりも先に『ああ』と思った。

 本当に一致して『ああ』としか思わなかった。


『我々はこのプロジェクトをフィクシー・サンクレット副団長代行の下、新超重元素探査計画と共に進める事を決定。適合する超重元素の探索と採取に全力を尽くしているところです』


 もうそんなところまで話が進んでいるのかと驚く者はあまりいなかった。


 陰陽自研であの計画どうなったの?と考えてふと情報を探したら完遂されているなんて事は日常茶飯事だ。


『皆さんの双肩に数多くの仕事が載っている事は承知で言わせて貰いたい。我々のチームにご協力をお願いします。睡眠時間を3時間まで削れば、我々の仕事の帳尻は合うと九十九も太鼓判を押してくれました。どうか、賢明なる裁可を』


 頭を下げた男達に全員が、本当に全員が起立して拍手を送る。


 それが彼らの答えであった。


『ありがとう。では、始めましょう。我らが【魔導騎士ナイト・オブ・クラフト】に神を倒す刃を届け。神の力を越える人の輝きを!! 人の世の灯として送り出そうではありませんか!!』


 もし、人類に分岐点というものがあるとすれば、今まで幾らもその時は来ただろう。


 しかし、彼らの前に現前と聳える難題を前にして誰もが思うのだ。


 今がその時だと。


 後世の誰かがきっと事実を知ったなら、百人が百人選ぶに違いない時の分水嶺で白衣の刃達は自らの使い手たる少年と人類の為、その研ぎ澄ました頭脳を存分に振るうに違いなかった。


 *


―――悪そうなゆるキャラ到達予想時刻7時間前。


「なぁ、基地が生えるって何なんだろうな」


「それを言ったら、ジャパニーズゆるキャラ?だったか。悪そうな蛸が3体攻めて来るって……」


 今、シェルター都市近辺は厳重警戒態勢。

 地下へと次々に巨大なシェルターが格納されていた。

 そう、半球状のソレは地下に潜るのだ。


 莫大な質量を上下させるのは魔導と油圧のハイブリットなシステムである。


 それこそ都市一つを動かす事すら可能な機構。


 ソレが今、人々から少しでも危険を遠ざけようと発動された。


 残っているのはシェルター都市北部に文字通り、《《生えて来た》》基地だけだ。


 そこには外縁を要塞化工事している土建屋紛いの事をしてきた普通の一般人達が多数働いている。


 彼らは次々に空間から生えて来る大量の巨大質量体。


 要塞線のパーツを次々に魔導による動魔術を用いた巨大なナットやボルトを動かして回すグリップ状の魔術具であちこちを連結し、簡易の防壁を数kmに渡ってもう9層近く都市を囲むように築き上げていた。


 その威容はビル一つ分もあるだろう高い壁を観れば、一目瞭然だ。


 1000kg以上あるだろう巨大な留め具が次々に壁と壁……いや、要塞と要塞を繋げていく様子はもはや壮観の一言。


 夜までには仕様分の要塞は組み上がる予定だったが、作り掛けでも地形が変わる事が現場の人間達には解っていた。


 自分の数十倍から数百倍の重さのものを動かしているのだ。


 それも単なる移民や難民や社会で底辺と呼ばれていた彼らが。


 それは破滅を前にして自分が人々の命を預かっているのだという実感となって彼らにこれまでにない緊張を生んでいる。


 少しずつ暮れ始める空は時間が待ってくれない事を告げ。


 彼らは自分達の仕事をしながら、周囲を隷下部隊によって護られながら、遥か地表の基地。


 陽すら陰るだろう壁に密接するカラフルな大地に人型を見る。


 それが遠近感が狂うような代物だと分かれば、彼らもまた助かるかもしれないという希望を持った。


 この世界において日本という国が持ち得た夢物語。


 乗り込み操る巨大な機械人形。


 ロボット……いや、アニメで言うならば人型機動兵器。


 正しくソレが数機。


 基地の周囲には並んでいた。


「八木さん!!」


『九十九からの再チェック問題無し。システム・オールスタートを確認』


 二足歩行のロボットというものにロマン以外で敢て意味を見出すとすれば、それは人類のスタンダードな肉体、身体の延長である事であろう。


 であるならば、これ程に人類を体現する兵器も無い。


 人体を兵器に置き換えるというのがサイバネティクスや人造の肉体の行き着く一つの極北だとすれば、兵器を人体に置き換えるというのは人の肉体を越えた知覚や強度を体現しようとしたグノーシス主義的な超越を求める極致の行いかもしれない。


 鎧の延長。


 それが建前ではあっても、ソレは明らかに人体を模倣し、人体よりも更に優れた機能を詰め込まれた巨大な鋼の肉体であった。


 装甲は流線形を基本とし、関節部は可動性よりも装甲を鋭利に飛び出させる事で護る事を第一にした作りだ。膝や肘は巨大な刃にも等しく鋭利で厚い。


 脚も手も五指の全てが細やかなパーツで出来た繊細にも思えるしなやかさだ。


 その作りは正しく工芸品とも言える無数のパーツの連なりで構成されており、伸び縮みする金属の肌はほんの僅かキィィィゥムという音を立てて、伸縮の際の振動で震えている。


 最も分厚いのは胸部装甲。


 巨大な三角錐を胸にして薄ら丸く削ったようにも見える。


 だが、実際にはその湾曲の中に見える無限のようなハニカム構造がただ固いだけではないと教える。


 関節駆動部からして何処かに隙間があるわけではない。


 それは装甲も全て同じ。


 それは言わば、一繋がりの巨大な張り合わせた金属塊。


 それも極薄の層を幾重にも重ねた代物だ。


 脱皮する生き物の外側を無限にも見えて分厚くしていくような想像をすれば、ソレの構造は正しい。


 全て純正のディミスリル・クリスタルとディミスリル化合金製。


 姿形は今まで少年が造って来た装甲を踏襲しており、スマートな機械のボディはロボットというよりはそういった生命のような一体感を醸し出している。


 各種関節に見える複雑な溝や湾曲部は幾何学模様の地肌だ。


 薄い褐色だが、魔力の転化光なのか。

 内部から僅かに発光しているようであった。

 装甲の色合いは七機七色。


 透明感があり、クリスタルのようにも見受けられる。


 其々の風合いがあり、基本構造は同じだが、装甲の厚さや形、背部のブースターにも思えるユニットのディティールに差異がある。


 その中でも灰色の機体。

 地味目で最も装甲が薄いモノの中に少年はいた。


 ロボというにはピッタリと少年の肉体を呑み込むようなフィット感で下半身は完全に埋まり、上半身も両手は埋まっていて、自由になるのは胸元と首だけだ。


 その代わり、接続された義肢機能の一部が伝送系となって少年の肉体の延長として機体をダイレクトに動かしていた。


 誤差はほぼ0.0001秒以下。


 HMDヘッド・マウンド・ディスプレイ型の頭部保護ユニットに目元を蔽われた少年は機体の反応(レスポンス)を最大にしてチューンしながら、各員の現在のライフデータから最適のチューニングを各機に施していく。


「……誤差修正完了。続いて武装のチューニングに入ります。各員は術式で精神と武装内のコアに接続して下さい。フィックス機構を立ち上げ、与圧開始……反射も含めて全て一元管理して調整します」


 少年の言葉と共に基地内部で横たわり、ギリギリまで夢での演習を行っている仲間達が其々に渡される事になっている汎用武装と専用武装内の九十九の簡易版。


 要はシエラⅡの中枢に匹敵する演算処理中枢たる球形素子にアクセスする。


 機体の横に巨大な長方形のトランクが機数分置かれていたが、その内部の武装の炉心に火が入っていく。


 それが次々にゆっくりと縮むように装甲を密にしながら締まっていく。


 幾何学模様の魔力転化光が奔る武装は中枢機構と搭乗者の精神をダイレクトに接続する事で分離されたり、一部が通信途絶状態になっても使用者の意図を曖昧な状況の中から汲み取り、自在に動かせすらするものだ。


 もし、使用者が反応出来なくても反応し、当人が行ったかの如き防御や攻撃を完遂する。


 正しく意識の延長や拡張を果たす武器に違いない。


「……完了しました。後は経験値と状況判断がモノを言います。現場に出るギリギリまで演習を続行して下さい。こちらは全て僕が」


 決戦を控えての機体のぶっつけ本番での馴らしであった。


 そのデータをフィードバックすれば、熟練の搭乗者のように機体は使用者をサポートするだろう。


 12m弱。

 灰色のソレが動き出す。


 周囲ではドローンが次々に動いている情報を九十九に送り、九十九は動きを補正、演算してダイレクトに機体の機動補助オペレートシステムにフィードバック。


 プログラムの誤差、数値を修正しつつ、少年のオーダーに対する回答を吐き出しては当人に確認してもらい、実行というプロセスを何十回、何百回、何千回と繰り返し行っていく。


 それに応えられるのは少年だからだろう。

 魔術師技能による脳裏での試行演算。

 現実からのデータをやり取りしながらの事だ。


 ただ歩行しているのが速足になり、駆け足になり、全速で動き、拳を繰り出し、蹴りを繰り出し、見えない相手にシャドーボクシングをしたかと思えば、投げや関節技、諸々九十九が持っている各統計のデータや隊員達動きのトレースで問題点を洗い出していく。


 それは一人芝居のようにも見えた。


 まるで見えない相手が本当にそこにいるかのような戦いを周囲のドローンは次々に配信し、基地内部の人々は決戦兵器の最終調整を行う男に敬服する。


 そうもなろう。


 もはや期待の動きは早過ぎて人体の目では追えなくなっていた。


 ブレる何かとしか見えないのだ。


 機械がそういった動きをするというのは常識ではない。


 基地そのものはディミスリルである為、真空や突風が乱舞しても問題ないが、それはとても既存のロボの動きでは無かったし、人間が傍にいたら粉微塵だろう。


 ドローンも急激な周辺環境の変化に少しずつ赤熱していく。


 見えない機体の動きは遂に速さをそのままにその場を動かずに超速の1人組み手を始め、機体はコーティングによる摩擦の軽減があって尚、莫大な運動量に悲鳴を上げて全身が紅蓮に燃えるような色合いとなっていく。


 轟々と嵐の如き組手は陽炎を装甲の連結された模様に奔らせ、あらゆる動きを繋げながら決して止まらず。


 試行するソレの周囲は運動エネルギーの余波と熱量で歪んで歪んで歪んで遂には機体装甲表面が剥離。


 燃え散る火の粉の中で早送りか巻き戻しかも分からないような加速と現実の時間のギャップで誰もが錯視、世界が遅くなったような錯覚に取り込まれた。


 だが、それも途端に動きが遅くなった。


 火の粉が振り落ちるよりも先に超速から超スローへと移り変わった瞬間、ディミスリル製の基地が僅か衝撃で震えた。


 それがどれだけ恐ろしい事かを一部の者は知っている。


 それ程の運動エネルギーが機体から吐き出されて基地に叩き付けられたのだ。

 恐らくは脚一つの震脚で。


 そして、両腕を構え、脚を半歩引いた姿で静止した機体が瞬時に掻き消え。


 基地が震度3程の揺れに襲われる。


 そして、バキンッという音を確かに誰もが聞いた。


 彼らの目の前でゆっくりと機体が再び見えるようになり、僅かに足の爪先で基地の床に接地し、動かなくなると……ピシピシと装甲が剥離しながら罅割れてボロボロと崩れ、最後には大きなパーツが一気にハニカム構造を崩壊させ、砂のように崩れ去った。


 ディミスリルの砂山の中から少年がいつもの装甲姿で出て来る。


 その姿は正しく満身創痍と言うべきかもしれない。

 装甲の何処にも赤熱していない場所が無かった。


 少年の上に魔導の導線が広がったかと思えば、ジャバァッと莫大な水が少年の上から降り注ぎ、瞬間的に蒸気爆発染みた破裂音が響いて、それもまた水に飲まれ……ヨロヨロとまだ湯気を上げる装甲に包まれながら少年が水浸しの床を歩いて近くにあった建物。


 罅割れが起きている地表部分の倉庫の壁に凭れ掛かる。


 すると、基地施設の中にいた人々が次々に出て来て、少年の状態を確認後、担架を広げて載せて、超特急で基地内部の医務室へと向かって行った。


「………頑張らなきゃな」

「ああ」

「アレの名前、何て言うか知ってるか?」

「いいや……」


「……ト・アペイロン。どっかの古い哲学者が言ってた無限の意味なんだそうだ」


「無限……お前、学あるのな」


「はは、哲学者の父が言ってたのさ。人は無限を考えるべきじゃない。それは空しい事だからって……でも、本当にそうか? オレは思うのさ。アレがそうなんじゃないかって……」


「《《あの子》》が?」


 声の主は鎧ではなく。

 運び込まれていった少年を迷わず選び。


「オレは神様じゃないから分からないけど。でも……疑わないよ。少なくとも彼らがオレ達よりも長く生き残る事に関してだけはね」


「はは、同意だ……仕事、やり切るぞ」

「おう!! それにしても善導騎士団の人って口軽いよなぁ……別に知られても問題無いのかな?」


 一般人達は要塞を作り始めた。

 冗談のようで本当の要塞を。


 たった一人の少年がいなければ、人類に決して齎される事の無かった希望の砦を……。


 *


「アペイロン・ゼロ……ブレイクしました。騎士ベルディクトは予定通り、しばらく治癒術式での療養に入るそうです」


 シエラⅡ機龍の中で八木は少年のデータ取りの様子を他の隊員達と共にドローンから送られてくる映像で見ていた。


 凄まじいの一言だっただろう。


 戦闘に向いているとは言えない少年がレベル創薬と九十九の支援で行ったデータ取りの機体慣熟作業は基本動作である格闘戦や各種運動の効率、武装の取り出しや構えや投げ捨てての即時離脱など大量のデータを一気に機体の能力を全開で取り続ける全速力のフルマラソンのようなものであった。


 機体内部は3000℃強の高熱に晒され、莫大な運動量で肉体そのものを超加熱された状態でも痛覚すら遮断せず。


 治癒術式と魔術によって肉体を限界まで保ちながら、自身に埋め込まれている全身義肢を動かし続けたのだ。


 一種の拷問に近い。


 だが、そのおかげで取られたデータは正しく【無限者(アペイロン)】と名付けられた痛滅者のバリエーション機の一つを完璧に仕上げて見せた。


 他の機体に投入される膨大なデータは洗練され、動きに誤差無く。


 これならば、一般人が載ってすら、それなりの戦果を挙げるに違いない。


「これでアペイロン側の準備は万端ですね。八木一佐」


「ああ、騎士ハルティーナや片世准尉も存分に戦えるだろう。元々は先行して騎士ハルティーナが使っていたゴア・バスターを大本にしている。近接されても十分に超音速超えの戦闘に耐えられるはずだ」


「部品一つ一つが陰陽自研と各企業体、製作所、町工場の合作です。ロケットの30倍の部品と日本の技術力と物造り、叡智の結晶ですよ……上手く行って良かった……すぐに日本へ連絡を入れます」


 アペイロンは簡単に言えば、不完全な痛滅者のタイプ0……小型化し切れなかったものを陰陽自研が『ならば今可能な限界の大きさに能力を詰め込むか』と前提を引っ繰り返して組んだ機体だ。


 基本的に黙示録の四騎士相手だと大き過ぎて取り回しが悪いし、被弾率も高い事から失敗作と半ば言われていたものであった。


 だが、同時にソレは全身をくまなく蔽う装甲で極めて耐久性能を高める事が可能な事から、一般の戦力向けに量産する価値はあった。


 今回の敵は巨大に過ぎる質量体で侵食能力を持つとの事から、急遽仕上げられた7機が送られてきたのである。


 それは陰陽自研だけでは製造能力に限界があった為、日本各地の製作所、企業体、亡命政権下の研究機関、中小零細企業に部品を発注した。


 それを作れる技術力の一点と納期までに仕上げてみせるところならば、何処でも採用した結果、部品を納入した企業は延べ数百社にも及んでいる。


 痛滅者に搭載する為の各種専用武装。


 小型化前提でまだ不完全とされる巨大武装付きで揃え切った事は正しく奇跡的な出来事であった。


「それにしても本当にブレイクするまで機体を使い潰せるなんて……仕様書は見ましたが、アレってまだ余裕があるんですよね?」


 隊員に八木が頷く。


「ああ、最後に砂となって崩れたのは保護用プログラムが正常に働いたおかげだ。あそこから先で自爆用のプログラムを用いれば、それこそ死ぬ前提でディミスリル・クリスタル・ブーストによる指向性突撃形態に移行する……内部の人間が死んだ後、システムが焼き切れるまでディミスリルを使い潰して魔力を限界放出しながら敵に動く爆弾となって特攻……使わずに済めば、それに越した事はない」


「……最後の奥の手、ですか?」


「死んでいなくても使えるがな。ただ、今回はどちらにしても使うのは最後の最後だろう。相手は魔力の塊だ。相手を吹き飛ばすのに更に大きな魔力を用いるのは愚策だからな」


「八木一佐。医務室からです」

「繋げ」


 虚空投影式の映像にはエヴァが映っていた。


『患者の容体だが、7時間で完治だ。あの機体内部の環境で移植した【全躯体義肢装甲クリフォイド・リンヴス】は十全に稼働して、一緒にデータも取れた』


「そうですか。引き続き治療をお願いしたい」


『……今回の作戦に関してだが、医者の立場から言わせて貰えるならば、この騎士様をもう一度限界まで使い潰すのは止めておいた方がいいとだけ言わせて頂こう』


「どういう事か訊ねるまでもない気はしますが、聞いておきましょう」


『常人なら1000回は死ぬような状態でデータを取っていた』


「ッ……そうですか」


『そちらには通常のデータしか送られていないだろうが、こちらには生体データが流れて来るんでな。今、休ませているが、肉体よりも精神の摩耗が激しい』


「分かりました。留意しておきます」


『そうしろ。今は昏睡状態で治癒術式を受けているが、魂が擦り減っているのは恐らく確定的だろう。本来ならば、数日どころか数十日安静でも足りん』


「………」


『では、これで。こちらは最善を尽くす』


 チャンネルが閉じた後。


 シエラⅡのCICは『そうだよなぁ。無事なわけないんだよなぁ』と少年の今までの働きを前にして今一度思い直す事になっていた。


「……普通ならショック死するか発狂するか。それを押してデータを取ってくれた彼に報いる為にも我々は万全に働かねばならん。総員に通達。今一度、マニュアルと作戦要綱を熟読しろと。こちらの演習もギリギリまで行うぞ!!」


 誰もが八木に敬礼して頷いたのだった。

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