緋色の雨パーティーの行方 4
こちらの作品も、よろしくお願いします。
仲間に見限られた俺と、家族に裏切られた彼女の辺境スローライフ
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冒険者ギルド。それは冒険者に様々なサービスを提供して効率よくダンジョンで狩りをさせることで、大氾濫が発生しないように管理する組合のことだ。
大氾濫(悲劇)を防ぐためというと重々しく聞こえるが、実際にはその逆。魔物のドロップアイテム目当てに冒険者が集まり、それを管理するギルドに潤いをもたらす。
町にとってダンジョンは、鉱山のような存在なのだ。
ゆえに、冒険者ギルドはどこも賑わっているのが一般的なのだが――
「これはまた、人の少ないギルドだな」
リズちゃんに案内されたギルドの入り口で、俺はぽつりと呟いた。
「これだけ人が少ないと、部屋の隅でえっちぃことしてもバレないね」
「お前は黙ってろ」
「いひゃひゃ、そんなにひたら、ふぃーね、壊れひゃう~っ」
フィーネのホッペを引っ張りながら周囲を見回す。
掃除は行き届いているし、使われていないという雰囲気ではない。にもかかわらず、ギルドに人がまったく居ない。いや、正確には受付に女性が一人だけいた。
というか、受付のカウンターに肘をついてうたた寝をしている。
「ちょっと良いかな?」
「むにゃ……ダメ、です」
彼女は少しだけ目を開いて俺をチラリ。両腕の中に突っ伏してしまった。
「いやいや、寝るなよ。って言うか、マジで、ちょっと」
ゆさゆさと揺する。
「……うぅ、なんですかぁ? 私は眠いんですよぅ~ふわぁ」
受付嬢は起き上がり、大きなあくびを小さな手で覆い隠した。よく見れば目の下に隠しきれないクマがある。物凄く眠そうだ。
「なあ、なんでそんなに眠そうなんだ?」
「そんなの、人手が足りないからに決まってるじゃないですか!」
受付嬢がカウンターに手をついて立ち上がる。
やばい、なんか琴線に触れたっぽい。
「どれだけ人手が足りないか聞きたいですか? 聞きたいですよね? 私の眠りを妨げたんだから、聞きますよね!? って言うか聞きなさいよ!」
「お、おう」
そのあまりの迫力に思わず頷いてしまった。周囲に助けを求めるが、みんな明後日の方を向いて距離を取った。こんちくしょう。
「ここ数日、私は仲間達と一緒にダンジョンに籠もりっきりでした」
「籠もりっきり? それは大氾濫を防ぐためにってことか?」
「そうです。この町のダンジョンの魔力素子は飽和寸前です。このままだと、そう遠くない未来に大氾濫が発生します。だから、ここ数日は寝る間も惜しんで狩りを続けていたんです」
なるほど、この受付嬢は冒険者だったか。どうりで迫力があると思った。
「でも、それならなんで受付なんてしてるんだ?」
「……うぅ。よくぞ聞いてくれました。ドロップアイテムの換金でギルドに戻ったら先輩に言われたんです。帰ってきたのなら、受付を変わりなさいって」
「おいおい……それは酷いな。戦闘のあとは休息が鉄則だろ?」
「貴方、良いこと言いますね! 私もそう思います!」
「だよな? そう言わなかったのか?」
「もちろん言いましたよ! そしたら『休息なら、受付をしながらでも出来るでしょ?』って笑顔で言われたんです!」
「うわぁ……」
ブラックだ。超ブラックギルドだ。
「お節介かもだけど、その先輩のことを上司に報告した方が良いんじゃないか……?」
「え? いやいや、先輩は悪くないですよ」
受付嬢がパタパタと手を横に振る。
ダメだこの受付嬢、既に正常な判断が出来ていない。
「休ませてくれないんだろ?」
「そうですけど、その先輩はそのままダンジョンに狩りに行きましたから。たぶん、私より休んでません。ホントに受付しながら休息を取ったんだと思います」
「…………………………そうなんだ」
先輩も被害者だったか。このギルド、ホントにヤバすぎ。
というか、よく考えたらアレだよな。この町の専属になるって言うことは、このブラック体勢に巻き込まれると言うこと……?
「ふぅ、愚痴ったら少しだけ気分が晴れました。ところでなにかご用だったんですよね?」
「――いや、通りすがりの旅人だ」
「え、通りすがりですか?」
「そうそう。そうだよな?」
みんなに同意を求める。
「そうそう。俺達は全国を旅してるんだ」
「ボク達、これから次の町に行く予定なんだ」
「この町の専属になってくれる冒険者達です」
「――リズちゃん!?」
以心伝心。とっさにジークやラナと話を合わせたというのに、リズちゃんに暴露された。
「……冒険者? 冒険者なんですか!? 冒険者なんですね! うわぁい、新しい冒険者だ、やったあああああああああああああああっ! いますぐこの町で活動するための冒険者カードを作りましょう! 登録用紙をもって来ますね!」
あぁぁぁ、逃げられなくなった。
「リズちゃん……」
用紙を取りに行ったっぽい受付嬢を横目に、リズちゃんに非難の視線を向ける。
「ご、ごめんなさい。でもでも、アレンお兄さん、この町の専属になってくれるって言いましたよね? 見捨てちゃイヤ、です……っ」
捨てられた子犬のような目で見上げられた。
「み、見捨てたくはないが、オーバーワークはごめんだぞ?」
疲労状態でダンジョンに潜るとか正気の沙汰じゃない。そうじゃなくても、普通に過労死したっておかしくない。
さすがに、受付嬢みたいに壊れたくはない。
「だ、大丈夫です。アレンお兄さん達が入れば休みは取れますし、無茶はさせません」
「でも、魔力素子が飽和しそうになったら、緊急事態だからいまだけとか言うんだよな?」
「そ、それはないとは言えませんが……あ、でも、いまなら報酬も望みのままですよ!」
「報酬が望みのまま?」
俺にだって夢の一つや二つ、それに妄想の一つや二つや、野望の一つや二つはある。それらを叶えるチャンスはたしかに惜しい。
「もちろんですよ! お金ですか? 名声ですか? そ、それとも、フィーネちゃんとの、さささっさんぴーですか? あ、あたしは大丈夫です!」
「テンパりすぎだ」
「ひゃうん」
おでこを突かれたリズちゃんが可愛らしい悲鳴を上げる。この褐色ロリは急速にフィーネの影響を受けつつある気がする。お兄さんは心配です。
「ジーク、かまわないか?」
「もうそのつもりだったしな。交渉は任せる」
「分かった。他のみんなもそれで良いか?」
視線を巡らすと、ラナとフェリスも同意してくれる。
「フィーネは報酬の確認をしっかりするべきだと思う」
「まあ、それは事実だが……たとえば?」
「たとえば、さんぴーのことは絶対の絶対にあいたたたたっ。耳は引っ張っちゃダメっ。もげちゃう、耳がもげちゃうから~~~っ」
お仕置きされるって分かってるはずなのに、なんで我が妹は学習しないんだろうか? まさか、お仕置きされて喜んでるとか……いや、ない。ないはずだ。
……ゴクリ。ちょ、ちょっと、確認してみようかな?
よし、確認、しちゃうぞ。
「フィーネ、あんまり馬鹿なことを言ってると、もうお仕置きしないからな?」
「……………………え?」
フィーネが目を見開く。この反応はダメな奴だ!?
……い、いや待て落ち着け俺。これはたぶんアレだ。俺が意味不明なことを言ったから、フィーネは意味が分からなくて驚いてるだけだ。
俺の妹がお仕置き目当てにイタズラしてるはずがない。
「あの、アレンお兄さん?」
「え?」
「いえ、その……専属の話ですけど」
「あ、そうだったな」
そうそう、いまはそっちの方が重要だ。
「緊急時はある程度の要望を聞くけど、普段はちゃんと休ませてくれ。そもそも冒険者は冒険しない。ちゃんと休憩を取るのが鉄則だ」
「ええ、それはホントのホントに分かってます」
「そっか、それなら良いんだ」
神妙なリズちゃんを見て俺はひとまず安堵し、ぽんぽんとその頭に触れる。
あとは報酬の設定や、細かいあれこれ。でもその前に、まずは一度ダンジョンに潜って、どれくらいの難易度なのか知っておきたいかな。
「お待たせしました、これが登録用紙です、渡していきますよ。はい、はい、はいっ! 貴方と、貴方にも。そんでもって……あれ、リーゼロッテ、様?」
冒険者の登録用紙を配っていた受付嬢が、リズちゃんを見て目を見開く。
「もしかして、リーゼロッテ様が冒険者を連れてきてくださったんですか?」
「ええ、そうです。いままで苦労を掛けましたね」
「う、うぅっ、ううう。私、リーゼロッテ様なら前の領主と違って、ちゃんと冒険者を連れてきてくれるって信じてましたっ!」
受付嬢がリズちゃんに抱きついてマジ泣きを始めた。
「……なんか、ホントにギリギリだったみたいだな。運が良いのか、たまたまだったのかは知らないけど、よくいままでダンジョンで事故ったりしなかったよな」
登録用紙に書き込みながら呟く。
「フィーネもそう思うけど、フラグは立てない方が良いんじゃない?」
「はあ? フラグ? 言ったら招くとか、そんなの現実ではありえないから」
「あぁあ、ダメだって言ってるのに。そんなにフラグを乱立するか……ほら」
フィーネが指差した玄関口、小さな女の子が飛び込んできた。
「誰か助けて! お父さん達がダンジョンで遭難したの!」
……マジで?
お読みいただき、ありがとうございます。
キャラの外見を知りたいという要望があったので、軽く纏めました。なお、今作は勢いに任せて書いたので、容姿について触れていないキャラが多いことをご了承ください。
アレン
たぶん格好いい。主人公なので、黒系の髪と瞳ですね。
フィーネ
銀髪のロリ巨乳。恐ろしいことに瞳の色についての描写がない。ヒロインなのに……
たぶん、緑系の瞳です。
リズちゃん。
褐色の肌、サラサラのブロンドロング。金と青のオッドアイ。
どっちの瞳がどっちの色か書いてないですね。右が青い瞳ということにします。
フェリス
正統派美少女。大人しそうな容姿。
髪サラサラロングに、黒っぽい瞳。
ジーク
爽やかな青年っぽい容姿。
髪と瞳の色は決まっていません。
ラナ
モフモフのイヌミミとシッポ
耳は人間と同じ位置。
そのほかは決まってません。