緋色の雨パーティーの行方 1
皆さんのおかげでジャンル別6位まで来ました!
無事に仲間達を救い出し、町に帰還することは出来たが、状況は最悪と言って良いほどに悪化している。それは、俺達が救援に向かったときに入れ違いで起こった事件が原因だ。
俺の後釜として加入した男が町へと駆け込み、ギルドの者達に救援依頼を出したことで、緋色の雨パーティーがダンジョンで遭難した事実が発覚した。
だが、彼は十分な報酬を提示することが出来なかった。
そのうえ、緋色の雨パーティーは俺を追放したことで反感を買っていたこともあり、誰もジーク達を助けようとはしなかった。
その状況で、俺がみんなを助けて帰還したらどうなるか……
――そう。
ジーク達は自分達が追放した俺に助けられた間抜けな連中として馬鹿にされ、俺は自分を追放したかつての仲間を助けた、慈悲深い男として罪悪感がああああああっ!
うわああああ、罪悪感、罪悪感で死んじゃうっ!
なんで、なんでこんなことになったんだ? 俺、別になんにも悪いことしてないのに、なんでこんなに罪悪感に圧し潰されそうなん?
みんなと歩いていると、すれ違う冒険者が「おまえら、慈悲深いアレンに感謝しろよ」と俺の心をえぐり「これは俺達がしたことの報いだな」とジーク達が塩を塗り込んでくる。
ついでに「お兄ちゃん、フィーネの身体でストレスを発散しても良いんだよ?」と妹が精神を逆なでしてくる。全部お前のせいだろうが!
……そうだよな。よく考えたら、全部妹のせいだ。
「ということで、ジーク達に謝れ」
「ヤダ」
仲間に聞かれないようにフィーネを呼び出して説得したところ、一秒で拒否られた。
「……なあ、フィーネ。お前だって、やりすぎたと思うだろ?」
「あのね、お兄ちゃん。恋は戦争なんだよ?」
「色々と突っ込みたいことはあるが……」
「うん、じゃあまずはフィーネに突っ込んへあがが、おにいひゃんの指が、フィーネのくちにいいぃっ! さけひゃう、フィーネのお口、さへひゃうううううっ」
両手の親指を突っ込んで、フィーネの口を思いっきり引っ張った。
「ひとまず、だ。恋は戦争だとして、だからなんだって言うんだ?」
「そへは……っへ、まじゅは、はなひへよぅ。ひゃべれないからぁ~~~っ」
「……なにを言ってるか分からん。ちゃんとしゃべれ」
「わかっへる、くへにいいいっ……はぅ」
さすがに話が進まないので指を引き抜く。親指が涎まみれになっていたので、フィーネの洋服で綺麗に拭った。
「さて、話の続きだが」
「かくも酷い仕打ちをしておきながら、あっさり話を続けようとする。お兄ちゃんの鬼畜」
「話の続きだが、恋は戦争だとしてなんだって言うんだ?」
「……勝てば官軍」
「なら負けたフィーネは賊軍だな」
「酷い!?」
「お前が言いだしたんだろうが」
この状況でなんで自分の意見が通ると思ってるんだ、こいつは。
「俺も一緒に謝ってやるから、な?」
「むぅ……お兄ちゃんが、フィーネと子作りしてくれるなら考える」
「……フィーネ?」
冗談はここまでだと睨みつける。
「考えてみて? この状況でフィーネが謝ったら、アレンお兄ちゃんはどうなる?」
「……そんなことは分かってる」
壮大なマッチポンプ。そんな風に言われて評価は一点、今度は俺がジーク達や他の冒険者から後ろ指を指されることになるだろう。
「覚悟の上だ。俺と一緒に謝ろう」
「……分かった。お兄ちゃんがそこまで言うのなら、フィーネがちゃんとみんなに話してくる。その代わり、お兄ちゃんは必要ない。フィーネが一人で責任を取るよ」
「そう、だな。それが良い」
フィーネのしでかしたことだから、フィーネが責任を取るのが妥当。もし謝って、それでも許してもらえなかったりしたら、そのときはフォローを入れることにしよう。
フィーネはさっそく話があるとジーク達を集め、宿の一室で話をしている。
俺は部屋の前で、判決が下るのを待っていた。
フィーネのおこないにより皆が傷付けられた。正確に言えば、俺もその被害者の一人だ。俺自身はなにも悪いことをしていない。
だが、同時に加害者の兄でもある。無実だと言っても人の心情的には通用しない。ジーク達からあらためて追放を言い渡されるかもしれない。
それを受け入れられない……とは思わない。なんだかんだ言ってフィーネは妹だ。もしもあいつがみんなに許してもらえないのなら、俺も一緒に責任を取ろう。
そんな決意を胸に、話が終わるのを待ち続けた。
それからしばらくして扉が開き、銀色が視界に広がる。それがフィーネの長い髪だと認識したときには、フィーネは俺に向かって飛びついてくるところだった。
「みんなを反省させてきたよ!」
「お前が反省しろよ!?」
「ふぎゃっ!」
叩き落とされたフィーネは床に這いつくばった。
「あいたた……お兄ちゃん、なにするの?」
「いや、そんな、信じてた人に裏切られた見たいな目で見られても。なにするのはこっちのセリフだ。反省させてきたってなんだよ?」
「なにって、みんなのどこが悪かったのかを説明して反省を促したんだよ」
「なんで立場が逆転してるんだよ。まさか、精神干渉の魔法を使ったんじゃないだろうな?」
「そんな、まさかぁ。使うはずないじゃない」
「まったくもって信用ならねぇ」
超絶嘘くさい。
「そういうと思った。中でみんなが待ってるから、話してくると良いよ」
「本人達に確認しろって? 精神干渉を受けてたら一緒だろ?」
フィーネの精神干渉の魔法は数日ほど持続するのだ。
「一緒じゃないよ。話したら分かると思う。とにかく、話してみて」
「……分かった。もし嘘だったらおしおきだからな」
俺は覚悟を決めて部屋の中に。そこには少し神妙な顔の三人が居て――
「アレン、すまん」
「ボクもごめん」
「私も、ごめんなさい」
俺の顔を見るなり頭を下げた。なぜ被害者が加害者の兄に頭を下げているのか。どう考えても精神干渉を受けてとしか思えない。
よし、フィーネをお仕置きしに戻ろう。
「実は、フィーネちゃんに教えられたんだ」
踵を返す寸前、ジークがそんな風に切り出した。
「教えられた?」
「ああ。お前への感謝が足りないって教えられた」
「俺への感謝?」
「お前は戦闘面でも優秀だし、生活面でも色々な仕事をこなしてくれてる。俺達はそんなお前に甘えていた。お前が抜けているあいだ、それを嫌ってほど実感させられた」
驚く俺をよそに、ジーク達は俺の働きぶりを評価し始めた。
話を纏めると、色んなことを俺に任せっきりで、感謝がまったく足りていなかった。それ自体が許されざることで、批判されても仕方のない、とのこと。
「フィーネちゃんは、俺達にそれを自覚させるために、今回の一件を引き起こしたらしい。だから、やっぱり俺達の自業自得だよ」
だから許してくれと、ジークが、そしてラナやフェリスが俺に謝罪する。
話を聞き終えた俺は衝撃を受けた。
たしかにこいつらは精神干渉なんてされてない。
こいつらは――普通に騙されてる!
「おまえら、相手はあのフィーネだぞ? あいつがそんなこと考えて行動したと思うか?」
「言いたいことは分かるが、フィーネちゃんだって成長してるんだろ? 実際、俺達がお前に対して感謝が足りてなかったのは事実だしな」
完全に洗脳されてやがる。
ま、まあ、本人達が納得してるのなら、良い、かな? 俺だって、お前の妹のせいだと罵られて、友情を終わりにされたいわけじゃない。
円満な結果に終わるのなら……いい、のかなぁ?
やっぱりちょっと罪悪感だ。
「ね、精神干渉はしてないでしょ?」
外で話を聞いていたのか、フィーネが部屋に入ってきた。そのドヤ顔を殴りたい。
だがフィーネはちょっと――どころか、むちゃくちゃアレな妹だが、いままでは一度だってこんな風に他人を傷付けたりしなかった。
そう考えると、今回の一件は裏があったようにも思え……なくもないこともないかもしれない。
「……分かった。今回の件、俺はもうなにも言わない。だが、もし精神干渉をしてたり、こいつらをハメたのが、たんなるイタズラだって後から分かったら……」
「……分かったら?」
「目隠しと拘束をして道ばたに転がして、ご自由にどうぞって看板を立ててやる」
俺は本気だ。
「お兄ちゃん……そういうプレイをしたいなら、早く言ってくれたら良いのに」
「あぁん?」
「通りすがりのフリをして、目隠しされたフィーネにエッチなイタズラするんだよね?」
「……ほほぅ。なら、俺が通りすがりのフリをするかどうか、実際に試してみるか?」
「海より深く反省してるので、他の人の慰み者にするのだけは許してください」
まったくもって面倒な妹である。
なにはともあれ、ジーク達との関係は修復できた……といって良いのかどうかは分からないが、隠し事をする後ろめたさは消えた。
だが、ジーク達が町の連中に馬鹿にされている事実は変わらない。
俺の後釜だった男は緋色の雨パーティーを脱退。ジーク達はダンジョンに潜ることも出来ず、この町で嘲笑に晒されている。
なんとかしないとなぁと俺は考えを巡らせる。
おかげさまでジャンル別6位まで来ました。感謝の気持ちを込めて、半日繰り上げ更新です。
あと一つで看板入りです。もし夜の更新で看板に入ったら、お祝いに今日中にもう1話アップします!
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