慈悲深いアレン 3
仲間に見限られた俺と、家族に裏切られた彼女の辺境スローライフ
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一章まで完結しているこちらもよろしくお願いします!
ダンジョンの片隅に、新入りを除いた緋色の雨のメンバー三人が閉じ込められていた。
新メンバーを加えた一度目の挑戦では無残に撤退するハメになり、今度こそと挑んだ二度目は潰走し、新メンバーとはぐれたうえに閉じ込められてしまったのだ。
「畜生、なんでこんなことにっ!」
ジークは力一杯ダンジョンの壁を殴りつけた。
「自分を傷付けたらダメだよ、ジーク」
ラナが慌てて駆け寄ってくる。
「そうは言うが、このままじゃここで餓死するだけだぞ!」
「そうだけど、闇雲に殴っても壊れないって、もう散々確かめたじゃない!」
「それは、だが……」
ジーク達はいま、ダンジョンの小部屋に閉じ込められていた。敵にやられそうになって逃げ込んだ部屋がトラップかなにかで、出られなくなってしまったのだ。
「ごめんね。ボクがトラップに気付いていたら……」
「いや、敵から追われてて、確認する暇も選択肢もなかった。ラナのせいじゃないさ」
「そうです、ラナさんは悪くありません。私がもっと早くみんなを回復させていたら、パーティーが崩れることもなかった。私のせいです」
フェリスまでもが自分のせいだと言い始める。
この部屋に閉じ込められて二日と少し。最初は前向きだった仲間達が、次々にネガティブな発言を繰り返すようになっている。良くない傾向だ。
だが、壁はどうやっても破壊できず、救出のあてもない。ジークとてこの状況に絶望せずにはいられなかった。
「すまない、みんな。俺がアレンを追放だなんて言いだしたからだ」
敗走中にはぐれてしまったが、新しい仲間は決して無能ではなかった。それどころか、自分達と比べても遜色のない有能な冒険者だった。
だが、アレンの抜けた穴を埋めるには、なにもかもが足りていなかった。
日常は雑用から交渉ごとまでをそつなくこなし、戦闘では武器による攻撃に、魔法による攻撃、更にはサポートまでをこなすオールラウンダー。
アレンの才能に憧れつつも嫉妬していた。あの日はその嫉妬心が急に膨れあがって、どうしても耐えられなくなった。だから、あんなことを言ってしまった。
数日過ぎて冷静になったが、すべては手遅れだった。
「……ボクも、ジークに同意しちゃったから、同罪だよ」
ラナがイヌミミをぺたんと倒して呟く。
ラナもジークと同じように、アレンの才能に憧れていた。だが、時折感じるイヌミミやシッポへの熱い視線が落ち着かなくさせる。あの日は、その気持ちが物凄く強くなって、アレンには側に居て欲しくないと、そう言ってしまったのだ。
「私も、アレンくんを傷付けちゃった……」
フェリスは一筋の涙をこぼす。
フェリスにとってアレンは強くて頼りになる仲間である以上に、大切な幼馴染みだ。だからあの日、追放を言い渡されたとアレンから聞かされて思ってしまったのだ。
危険な冒険者稼業から遠ざけるチャンスだ、と。
もともと、アレンを冒険者の道へ引きずり込んだのはフェリスだ。いつも妹のフィーネと一緒に居るアレンにかまって欲しくて、冒険をしようと誘ったのが切っ掛け。
だが同時に、危険な道へ引きずり込んでしまったことに対する罪悪感はずっとあった。それがあの日、急に膨れあがって、感情を制御できなくなってしまったのだ。
傷付けてしまったアレンを想い、三人は揃ってナーバスになる。彼に会ってちゃんと謝りたい――と強く願うが、このままではその願いは叶わない。
はぐれた新人が救援要請をしてくれている可能性もあるが、速くてもあと数日はかかる。食料が持つかは微妙なところだ。
そのうえ、アレンを追放したジーク達は町にいるあいだ、他の冒険者からずいぶんと批判された。救援要請を出していたとしても、駆けつけてくれるパーティーがあるかは不明だ。
総合的に考えて、誰かが助けてくれる可能性は限りなく低いといえる。
「大切な仲間を裏切った報いか……」
ジークはぽつりと呟いた。
アレンがいれば、絶対にこんなことにはならなかった。だが、アレンを追放したのは他ならぬジークであり、ラナであり、フェリスである。
誰も恨むことは出来ない、自分達の招いた結果だと理解している。だが、もし許されるのなら、もう一度アレンに会って謝りたい。そんな想いを抱き続けた。
◇◇◇
「アレンお兄さん、緋色の雨パーティーの仲間がいるのは、あの壁の向こう側です」
ダンジョンの中層。魔王の娘ことリズちゃんが教えてくれる。ようやく、仲間達のもとへとたどり着いたようだが、手前には魔物がうじゃうじゃとたむろっている。
こいつらを倒さなければ、みんなを助けることは出来ない。
「二人とも、俺が殲滅するから援護してくれ!」
「援護? ふふっ、フィーネが殲滅してあげても良いんだよ?」
「よし任せた。俺達は休憩してるから終わったら教えてくれ」
「ふえぇっ、フィーネ一人じゃ無理だよぅ~~~っ」
泣きが入るまで超速かった。
「まったく。馬鹿なこと言ってないで、援護しろよ?」
「うぅ……お兄ちゃんの前で格好つけたい妹心を分かって欲しいよ……」
「そういう心の機微は分からなくもないが、出来もしないことを言うな。それと、お前がするのは援護だからな? 俺に精神干渉の魔法とか使うんじゃないぞ? 分かってるな?」
「フィーネは二度と、お兄ちゃんやその仲間に、精神魔法を、絶対の絶対に使いません」
「よし」
これでひとまずは安心だ。俺はため息をつきつつ、ここに居る全員に強化魔法を掛ける。各種身体能力や魔力が向上するのを全身で感じた。
「リズちゃん、キミの魔法も当てにして良いか?」
「はい。アレンお兄さんのために一杯頑張るので、あとで褒めてくださいね!」
「あ、ズルいよリズちゃん。フィーネも頑張るから、あとでご褒美エッチしてねっ!」
一流の遠征パーティーでも躊躇うほどの敵の数。それらと相対してなおこの反応。頼もしいと言うべきか、脳天気と言うべきか、頭の中お花畑と罵っておこう。
俺は腰の剣を抜き放ち、魔物の群れへと歩み寄っていく。最初に反応したのは、恐らくはこの集団のボスである巨人族のオーガ。
その巨体に見合った棍棒を振り上げて襲いかかってくる。もしその一撃をまともに受けたら、俺の身体はミンチにされるだろう。
俺はその棍棒の側面に剣を叩きつけて受け流す。続けて振り上げられる一撃を身体を捻って回避。横薙ぎの一撃を入れ、反撃をバックステップで回避。
死と隣り合わせの攻防を続ける。
だが、敵はオーガ一体じゃなく、多くの取り巻きが存在している。
周囲の敵が一斉に襲いかかってくる――が、それらの攻撃は俺に届かない。攻撃を試みた敵はすべて、フィーネやリズちゃんの魔法によって排除されていく。
フィーネはもちろん、リズちゃんも優秀のようだ。
俺は安心してオーガの攻撃に集中する。
「ねぇねぇ見た見た? いまの見た? フィーネが防がなかったら、お兄ちゃん雑魚に殴られてたよ? 褒めて褒めてっ。後でご褒美エッチをご所望だよ!」
集中できねぇえええええっ!
こうなったらさっさと勝負を決めようと奥の手の一つ【アクセル】を発動。劇的に身体能力を向上させ、オーガの懐へと飛び込む。
慌てたオーガが棍棒を振るうが――
「おせぇっ!」
オーガの腕を斬り飛ばし、二の太刀で胸を貫いた。
わずかな沈黙を挟み、オーガは光の粒子となって消えていく。
「後は、雑魚だけだ!」
ボスを失って動揺する魔物の群れに飛び込み一閃。魔物数体を同時に斬り飛ばし、左手を剣から離して魔法を発動。弓を構えていた魔物に牽制を入れる。
一体、また一体と斬り捨て、最後に調子に乗っているフィーネのお尻を蹴り飛ばした。
「ひゃうんっ!?」
「……ふぅ、これで敵は殲滅したな」
「殲滅したな、じゃないよ! どうしてフィーネのお尻を蹴ったの!?」
「そこにムカつくお尻があったからだ」
「むぅ……触りたいなら、そう言えば良いのに」
なにやら寝言が聞こえるが無視。
もう少し苦戦するかと思ったが、リズちゃんが思った以上に強かった。さすがは魔王の娘である。というか、なんで魔王の娘が妹の友達なんだろうか?
「リズちゃん、この壁の向こうに俺の仲間がいるんだよな?」
「はい。いまから壁を取り払いますね」
「ああ、やってくれ」
俺は拳を握って生唾を呑み込んだ。彼らが俺を追放したのは妹のせい。つまりは、彼らがこんな目に遭ったのは、妹を野放しにした俺のせい。
一体、どんな顔をして会えば良いのか、どうやって謝れば良いのか分からない。
固唾を呑んで見守っていると、壁が徐々に沈んでいく。そうして、開けた壁の向こう側には、ジーク、ラナ、そして……フェリスの姿があった。
三人とも疲れた顔をしているが五体満足だ。
「……アレンくん!?」
「え、アレン、なのか?」
「ホントだ、アレンだよ!」
俺を見つけた仲間達が一斉に駆け寄ってくる。俺はみんなに謝ろうと――
「アレン、俺が間違っていた! あのときはどうかしてたんだ! お前が一番頑張ってるって知ってたのに、嫉妬してしまったんだ。許してくれ!」
「ボクもごめんなさい! アレンが凄いことは分かってたのに、あのときはどうしてだか急に変な気持ちになって。本当にごめんなさい!」
「私も、アレンくんを傷付けちゃって、凄く、凄く後悔した! 謝っても許してもらえないかもしれないけど、ごめんなさい!」
「い、いや、待ってくれ! みんなは悪くない。悪いのは俺の方なんだ!」
罪悪感に押し潰されそうになって、とっさに否定する。
その瞬間、三人は目を見開いた。
「アレン……俺達はあんな仕打ちをしたのに、お前って奴は……」
「ボク達を笑って当然なのに、そんな風に言ってくれるなんて……」
「アレンくん、優しすぎだよ」
「いやいやいや、庇ってるわけじゃなくて、本当に悪いのは俺の方だから」
「――バカを言うな! そんなことは絶対にない!」
「そうだよっ! 悪いのは身勝手にお前を追い出したボク達だよ!」
「アレンくんは悪くないよ! 優しくて素敵なナイト様だよっ」
「い、いや、本当に、みんなは悪くない。悪いのは――」
遮るように、フェリスに袖を掴まれた。
彼女は俺の顔をじっと見上げ、静かに首を横に振る。
「私達、あのときは間違っちゃったけど、いまはちゃんと自分達が悪いって分かってるの。だから、そんな風に甘やかさないで。じゃないと私、罪悪感で押し潰されちゃうよ」
「う、ぐ……」
むしろ、俺の方が罪悪感で押し潰されそうなんだよおおおおっ。なんて言えるか? この状況で、実はすべて俺の妹の仕業でした、てへっ! とか、言えるか?
言えるはずないだろおおおおおおっ!
ああああああ、罪悪感、罪悪感で死んじゃう!
だが、まだだ。まだ俺には奥の手がある!
フィーネの精神干渉の魔法なら、この状況を改善できる。さすがにすべてなかったことにするのはアレだけど、みんなの認識を歪めて上手く纏めることは可能!
だから頼むと目で訴えると、フィーネは天使のように微笑んだ。
「フィーネは二度と、お兄ちゃんやその仲間に、精神魔法を、絶対の絶対に使いませんって、お兄ちゃんに誓いました、まる」
「うがああああああああああああああああああああっ!」
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