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慈悲深いアレン 2

 おかげさまで日刊ジャンル別一桁まで来ました、ありがとうございます!

 冒険者ギルドの酒場。

 その片隅で、俺はフィーネを調教していた。

「フィーネは二度と、お兄ちゃんやその仲間に、精神魔法を使いません」

「もう一回」

「フィーネは二度と、お兄ちゃんやその仲間に、精神魔法を使いません」

「もう一回」

「……フィ、フィーネは二度と、お兄ちゃんやその仲間に、精神魔法を使いません」

「もう一回」

「ふえぇ、もう許してよう」

「もう一回だ」

「うぅ……お兄ちゃんのイジワル。フィーネは二度と、お兄ちゃんやその仲間に、精神魔法を、絶対の絶対に使いません。お兄ちゃんに誓います」

 俺は小さなため息をついた。


「これに懲りたら、二度とあんなマネはするなよ?」

「むぅ。あんなマネって言うけど、大事にはならないようにリズちゃんにケアを任せたりと、色々……なんでもないです」

「……まったく」

 昔はお兄ちゃんお兄ちゃんって甘えて来て、周囲の女の子を排除しようとするだけだったのに、どうしてこんな風に……いや、あんまり変わってない気がする。


「それで、リズちゃんから返事はあったのか?」

「……ねぇアレンお兄ちゃん、リズちゃんはフィーネのマナ友、なんだよ?」

「それはさっき聞いたが?」

「妹に内緒で、妹の友達に手を出すとか、ダメなんだからね?」

「なにを言い出すかと思ったら、お前はなんの心配をしてるんだ……」

「リズちゃんに手を出すときは、ちゃんとフィーネも混ぜないとダメなんだからね?」

「ホントになんの心配をしてるんだ!?」

 予想の斜め上過ぎる。


「だから、決まりだよ、決まり。決まりの心配をしてるの。妹の友達に手を出すときは、妹も混ぜてさんぴーって決まってるんだよ?」

「そんな変な決まりがあってたまるか!」

「え、リズちゃんにだけ手を出すつもりなの!?」

「そんなつもりも全くない!」

 見たこともない相手で妹の友達。しかも魔王の娘に手を出すはずがない。「フィーネは俺をどんな目で見ているんだ」と問い詰めたい。というか問い詰めた。

「エロい目だけど?」

 エロい目だったかぁ……


「という訳で、お兄ちゃんは信用ならないよ」

「お前にだけは言われたくない」

「なら、アレンお兄ちゃんがもしリズちゃんに種付けしたら、そのときはフィーネにも種付けしてもらうからね? 約束だよ?」

「おい、こら、女の子が種付けとか言うな! って言うか、なぜ俺がそんな約束をしなきゃいけないんだよ!」

「手を出すつもり、ないんでしょ?」

「……む」

「手を出さないなら、約束できるよね?」

「……良いだろう。約束してやる」

 相手はフィーネの友達で、しかも魔王の娘。俺が手を出すなんて、価値観がひっくり返りでもしない限りありえない。ゆえに、約束はなんの問題もない。


「――だが、結局はフィーネとリズちゃんを二人纏めて美味しくいただくことになる――と、このときのお兄ちゃんは密かに期待していた」

「期待してないから、変なナレーションを入れるのは止めろ!」

 俺はため息を吐いた。


「言っておくが、リズちゃんと呼んでるのは、周囲に彼女の素性を聞かれたくないからだ」と呟き「それで、返事はあったのか?」と続ける。

「うん。返事はあったよ。ただ、リズちゃんにも色々あるみたいで、閉じ込めているけど、逃がすことは出来ないんだって」

「……どういうことだよ?」

「それは本人に直接聞いて」

 直接ってどういう意味だと聞くより早く、フィーネの手の中にある魔力素子(マナ)の結晶、マナフォンが音楽を奏で始めた。

 フィーネがそれを手渡してくる。

「耳元に付けると会話が出来るから」

「……意味が分からん」

「いいから、こうやって」

 フィーネが俺の手を掴んで、マナフォンを俺の耳に当てる。


『こんにちは、聞こえますか?』

「お、おぉ、なんか聞こえるぞ?」

 澄んだ音色の、女の子らしい声が聞こえてくる。

『あ、初めまして。あたしはフィーネちゃんのマナ友で、リーゼロッテって言います。貴方はフィーネちゃんのお兄さん、ですか?』

「あ、あぁ、俺はアレン。フィーネの兄だ。それでキミのことは、リズちゃん……って呼んでいいのかな?」

『ええ、大丈夫ですよ、お兄さん』

 謎の端末越しに、可愛い声が聞こえてくる。しかも、その子は俺のことを、お兄さんって呼んで、なんか凄く新鮮で……なんだこのシチュエーション。ちょっとドギマギする。

「アレンお兄ちゃん。フィーネと一緒に、美味しく……?」

 ――はっ! 落ち着け俺。じゃないと、フィーネの思うつぼだ。


「リズちゃん。俺の仲間を解放してくれないか?」

『そうしたいのは山々なんですけど……』

「なにか出来ない事情があるのか?」

『あたしは魔王の娘であって、魔物と関わりはないんです。だから、安全な場所に誘導して閉じ込めてはいるんですけど、魔物をどうにかすることは出来ないんですよね』

「そう、なのか……」

 魔王=魔物の王だと思っていたので少し意外だ。


『ひとまず、お兄さんの仲間はダンジョンの小部屋に隔離しています』

「隔離ってことは、いまは安全なんだな?」

「ええ、その部屋に居る限り、魔物に襲われることはありません。あたしの力でその場から解放することだけなら可能ですけど……外には魔物が一杯で』

「なるほど。なら待っている未来は、餓死か外へ出て魔物にやられるかの二択ってことか?」

『食料は数日分残っているようですが、誰も助けなければその二択ですね』

「そうか……教えてくれてありがとう」

 北のダンジョンまでは二日くらいなので、急げば救助は間に合うはずだ。

 問題は、救出のメンバーをどうするか、だな。


「フィーネ、フェリス達を助けるのを手伝え」

「うん、良いよ」

「断るなら……って、良いのか?」

 予想外すぎて、ちょっと理解が追いつかない。というか、むちゃくちゃ怪しい。こんなに素直に頷くとか、絶対になにか企んでそうな気がする。


「……フィーネ、言え、なにを企んでるんだ?」

「企むなんて……酷いよ」

 フィーネが少し寂しげに微笑んだ。

「フィーネはお兄ちゃんが大好き。だから、お兄ちゃんが仲間を、大切な仲間を助けようとしているのに、フィーネが協力しないはず、ないでしょ?」

「フィーネ、お前……」

 フィーネの想いに、俺は胸を打たれるような衝撃を受けた。


「……まさか、そんなんで好感度上がるとか思ってるのか? 自分で問題を起こしたのに?」

「……ダメ?」

「ダメ」

「ダメかぁ」

 しょんぼりする。この妹の思考回路が、兄にはちょっと理解できない。


「一応確認するが、だったら手伝わなくて良いやとか思ってないだろうな?」

「ギクッ。そ、そんなこと、ないよ。ないけど……もしそう言ったら、どうなる?」

「好感度がだだ下がりになる」

「さぁ、みんなを助けに行こうっ!」

 物凄い変わり身の早さである。


「フィーネが手伝ってくれるなら心強いが、もう一人くらい戦力が欲しいな」

 俺とフィーネなら、大概の敵には対処できると思う。だが、余力がないのも事実。不慮の事故が発生したときに対処できないかもしれない。

 あと、妹と二人っきりは俺が危険だ。


『お兄さん、お兄さん』

 手に持ったままだったマナフォンから声が聞こえる。そういえば、リズちゃんと話している途中だった。

「聞こえてるよ」

『あ、良かった。えっと……戦力が必要なら、あたしが手伝いましょうか?』

 リズちゃんの予想外の言葉に、俺は思わず耳を疑った。

「……なにが望みだ?」

 気さくに話してはいるが、相手は魔王の娘、らしい。これで、魔王の娘というのが嘘だったら笑えるけど、いまは魔王の娘として考える。

 安易に借りを作ることは出来ない。


『ちょうど現地に居ますし、それにフィーネちゃんやお兄さんに会ってみたいなって思ってましたから。お兄さんが望むのなら手を貸しますよ』

「だから、見返りはいらないって言うのか?」

『……お兄さんにお願いしたいことはあります』

「お願い? その内容が見返り、なのか?」

『いいえ、見返りに求めたりはしません。ただ、ちゃんとお手伝いするので、あたしのことを信用できるって思ったら、話だけでも聞いてください』

 すべてお見通しって訳か。

「分かった。後でちゃんと話を聞く。だから頼む、俺に手を貸してくれ」



 それからすぐに旅支度を始め、俺達は町を出発。二日掛けて、フェリス達が遭難しているダンジョンの前へとやって来た。

「えっと……フィーネちゃんと、アレンお兄さん、ですか?」

 マナフォン越しに聞いたのと同じ、もしくはそれ以上に透き通った声が聞こえる。

 振り返るとそこに、褐色の幼い女の子がたたずんでいた。長くサラサラなブロンドの髪に、金と青のオッドアイ。超絶整った容姿を持つ――幼女だ。


「わーい、リズちゃん、久しぶりだよ~」

 フィーネがリズちゃんに抱きつく。

 ロリ巨乳のフィーネが、ツルペタ幼女のリズちゃんを質量的に圧倒している。

 というか、神のごとき美しさを持つフィーネと、魔性の美しさを持つリズちゃんが抱き合っている。凄まじく絵になる光景だが……いかんせん二人の年齢が低すぎる。

 せめて、あと五歳くらい大人だったら……いや、なんでもない。


「こほん。それで、キミがリズちゃんなんだよな?」

「そうですよ、アレンお兄さん。……ふわぁ」

 リズちゃんが頬を染める。

「……どうかしたのか?」

「あ、いえ、その……アレンお兄さんが、フィーネちゃんの言ってたとおり、凄く凄く素敵な人だと思ったので……いえ、な、なんでもないです。~~~っ」

 あと五歳っ、いや、せめて三歳くらい大人ならっ! そうすれば、俺よりちょっと年下の女の子と言えるレベルなのに! この世界の不条理が妬ましい……じゃなくて、落ち着け俺。

 なんかおかしいぞとフィーネに視線を向ける。


「フィーネは二度と、お兄ちゃんやその仲間に、精神魔法を使いません。……いまから」

 ……こいつ、性懲(しようこ)りもなく精神干渉しようとしてたな。

 おしおきしたいところだが……いまはフェリス達の救出が先だ。

 

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