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油断のならない彼女 4

 リズちゃんの町に到着した初日、俺達はダンジョンで遭難した冒険者達を救い出して華々しいデビューを飾った。

 田舎町なんかだと、外部から来た人間が受け入れられない。なんてこともあるのだけど、冒険者を救出した件のおかげで、みんなは町の住人に温かく受け入れてもらった。

 ――みんな。つまり……俺以外は。


 いや、おれも正確に言えば受け入れられている。というか、冒険者達を救った緋色の雨パーティーの一員としては受け入れられている。

 だが同時に、まだ幼いフィーネを性のはけ口にしている、みたいな噂が広がっていて、なんとか言うか……思いっきり後ろ指をさされている。

 俺はただ、フィーネにお仕置きしただけなのに、まったくもって理不尽だ。


「……はぁ、泣きそう」

「噂の件ですか? 大丈夫ですよ、アレンお兄さん。あたしはちゃんと分かってますから」

「……ありがとう」

 リズちゃんのお屋敷にある応接間。

 専属の契約の最終確認に来た俺は、向かいの席に座っているリズちゃんに癒やされた。この町の住人では、唯一俺とまともにしゃべってくれる相手な気がする。


「ホント、フィーネには困ったもんだよ」

「お兄さんにかまって欲しいんだと思いますよ」

「それが事実だとして、あれはないと思わないか?」

「……お兄さんにかまって欲しいんだと思いますよ」

 同じことを繰り返すリズちゃんは、さり気ない……かは分からないけど、俺の問いには答えない。フィーネに義理立てしてるんだろうな。

 魔王の娘って話だけど、どこぞの妹よりもよっぽどしっかりした女の子だと思う。


「ところで、これが専属の契約書です。確認していただけますか?」

「分かった、確認させてもらうな」

 既に話し合った内容を文字に起こしただけなので、内容に不備がないかだけを確認する。

 固定の給金と住居の提供。それに、個別にちょっとした要望を叶えてもらうことを条件に、一定の間隔でダンジョンに潜って狩りをすることが義務づけられる。

 もちろん、怪我をしたときなどの例外なども問題がない。


 更には個別の要望も確認する。

 フェリスは料理を習いたいのでそれの支援を求める内容が書かれている。更にはジークやラナの要望を確認し、フィーネの要望は確認しないで(・・・・・・)読み飛ばした。

 最後に俺の要望。俺の部屋には、俺以外には絶対に破られない鍵をつけることもちゃんと書き込まれている。バッチリである。


「内容に問題ありませんか? 儀式的な契約をするので、基本的に契約内容を違えることは出来ません。もし破ったら大変なことになるので、問題がないかしっかり確認してくださいね」

「大丈夫だ、問題ない」

「では、契約書にサインと血判をお願いします」

 言われて契約書にサインと血判をする。

「では、あたしも血判とサインをして……はい。これで契約は為されました」

「ふぅ……一段落、だな」

 これで、俺達はリズちゃんの町の専属冒険者になった。

 ダンジョンに潜るペースは一般的なレベルだが、緋色の雨パーティーはフィーネを加えて五人となった。つまりは、通常の休みに加えて、五回に一回は丸々お休みがもらえる。

 わりとのんびりとしたセカンドライフが過ごせそうな予感がする。


「ですね。あ、お茶をどうぞ」

 リズちゃんに勧められてお茶に口をつける。魔術で冷やしてあるのか、冷たくて美味しい。


「ところで、リズちゃんはどこでフィーネと知り合ったんだ?」

「フィーネちゃんと知り合ったのは、お兄さんの実家がある町ですね。ちょうど一年くらい前に、色々あってお友達になったんです」

「……色々。うちの妹がすまない」

 深々と頭を下げる。


「えぇ? 謝られることはされてないですよ、凄く助けてもらったんですよ!」

「えっと……その、気を使わなくて良いんだぞ?」

「気を使ってるわけじゃないですって。あたしが専属になってくれる冒険者を捜して旅をしていたときで、騙されそうになってたときに助けてもらったんです」

「マ、マジ?」

「マジマジ、大マジですよ?」

「マジかぁ……」

 フィーネがまさかそんな風に人助けをするなんて。お兄ちゃんはかつてない衝撃だ。


「フィーネちゃんは良い子ですよ」

「……俺的には、フィーネにそんな行動を取らせるリズちゃんが凄いんだと思うが」

「お兄さんったら。本当は、フィーネちゃんが優しい女の子だって分かってるんでしょ?」

 イタズラっぽい微笑み。お見通しですよって言いたいみたいだ。


「……たしかに、根が良い奴だって言うのは分かってるよ」

「ですよね」

「それ以上に、困った奴だって思ってるだけで」

「ですよねぇ……」

 今度は苦笑いを浮かべる。

 だけど、リズちゃんはフィーネのことを分かってくれているみたいだ。


「リズちゃんみたいな子が、フィーネの友達になってくれてよかったよ。今後も嫌じゃなければ、フィーネの友達でいてくれな」

「ええ、もちろんです。約束通り、アレンさん達みたいな素敵な冒険者達と引き合わせてくれた、大切なお友達ですもん」

「あはは、素敵な冒険者とか言われたら照れるな。……ん? んん? 約束通り?」

「フィーネちゃんと約束したんです。優秀な冒険者と引き合わしてくれる代わりに、もし専属にすることが出来たら、フィーネちゃんの願望を果たす手伝いをするって」

「………………ええっと?」

 あれれ、おかしいな。なんだか嫌な予感がするのは俺の気のせいかな?


「一応聞くけど、そのフィーネの願望って言うのは……?」

「それなら、ちゃんとその契約書に書いてありますよ。お兄さんはなぜか(・・・)、見逃しちゃったみたいですけど」

「……は?」

 そういえば、フィーネの要望を確認しなかった。

 焦った俺は契約書を手に取って――


「はああああああああああああああああああああああっ!?」

 俺は思わず叫んだ。絶叫した。それはもう魂からの叫びである。

 だって、契約書にこんな一言が書かれていたからだ。


『フィーナが望んだときは、リズちゃんを加えてお兄ちゃんと三人でエッチする』


「なにこれなにこれなにこれぇ!?」

 俺、大パニック。

 なんでフィーネの内容だけ、確認しようとしなかった!?

「なにって……契約書ですけど」

「いやいやいや、おかしいだろ? おかしいよな? おかしいって言ってくれ!」

「おかしいけど事実ですよ?」

「はああああああああっ!?」

 意味が分かんない。マジで意味が分かんない。


「い、いや待て、落ち着け! 落ち着こう。深呼吸だ、深呼吸!」

「……落ち着くのはアレンお兄さんだと思いますよ?」

「あ? あ、あぁ……そうだな。すうううう、はああああああ。大丈夫、俺はまだ大丈夫だ。そもそも、契約書はリズちゃんと緋色の雨パーティーのあいだで交わされた契約だしな」

 フィーナの要望はリズちゃんに対して強制力があるが、俺は強制力がない。

 つまり、フィーネが望んだとき、リズちゃんはそれを許可しなくてはいけないが、俺がそれを受け入れる必要はどこにもない。

 大丈夫、大丈夫だよ俺!


「あの、それなんですけど……契約だと、あたしも参加することになってますよね?」

「たしかになってるけど、俺が受け入れなければ関係ないよな?」

「お兄さんはそれで問題がないんですけど、あたしがフィーネちゃんやお兄さんと、その……いたさなかった場合、あたしが契約を破ったことになっちゃうので……」

「……う゛ぁ」

 変な声が漏れた。

 たしかに、俺はなんの問題もない。俺はなんの問題もないが、リズちゃんは契約不履行で、大変なことになってしまうということ。


「お兄さんなら、あたしのこと見捨てないって信じてます」

 イタズラっぽい微笑み。それを見た瞬間、俺の背筋がひやりとした。


「な、なぁ、一つ聞きたいんだけど……良いか?」

「ええ、もちろん」

「リズちゃんはこの契約内容、ちゃんと理解した上で、契約をしたんだよな?」

「ええ、そうですよ」

「つまり、リズちゃんは自分を人質に、フィーネの要望を叶える手伝いをした、ってこと?」

「ええ、そうですよ」

「そうですよ、じゃねええええええええええええええええっ!?」

 俺、絶叫再び。

 幼女なフィーネやリズちゃんに手を出すか、それを拒絶してリズちゃんを契約不履行にさせて酷い目に遭わせるか二つに一つ。俺の人生詰んじゃった。

 ……あ、目から涙が。


「アレンお兄さん、大丈夫ですよ」

「……なにが?」

「フィーネちゃんには、あたしがお兄さんを受け入れられるくらい成長するまではまってもらうって約束、してありますから。それまでは大丈夫です」

「………………そっか」

 それなら大丈夫……じゃないよ。結局先延ばしにしただけだよ。


「リズちゃんは、優しくて普通の女の子だっって信じてたのに……」

「あはっ、最初に名乗ったじゃないですか。あたしは魔王の娘だって」

「うん、そうだったね」

 町の専属冒険者になって、少しのんびりした生活が送れるかと思ったけど……俺は今後も妹のせいでのんびりした生活を過ごせそうにない。

 

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