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プロローグ

 R15は妹の発言が酷いので保険です。

 この国にはダンジョンと呼ばれる様々な形式の迷宮が存在する。多種多様な魔物が発生し、放っておくと大氾濫(スタンビード)が発生する危険な存在である。

 ゆえに、初代の王はある対策を打ち立てた。


 それは、ダンジョンの側に町を作って、冒険者ギルドを設立。大氾濫(スタンビード)が発生しないように、ダンジョンの魔物を継続的に狩り続けるという政策。

 最初は困難もあったはずだが、魔物を狩った際にドロップする魔石やアイテムが有用で収入源になることが発覚し、いまではほとんどのダンジョンの側に町や村が作られている。


 しかし、町や村を作れないような危険な地域にダンジョンが発生することもある。

 それらのダンジョンを放置すると大氾濫(スタンビード)が発生するために、定期的に誰かが魔物を狩りに行く必要がある。それを引き受けるのが遠征パーティー。

 四人で構成されるパーティーで、実績を残した冒険者だけに参加資格が与えられる。


 俺はそんな遠征パーティーの一つ、緋色の雨と呼ばれるパーティーのメンバーだ。

 殲滅力が高く、魔物と出会うたびに緋色の雨を降らせる。そんな理由から名付けられた俺達のパーティーは、遠征パーティーの中でも上位数パーセントの実力があるといわれている。

 冒険者ギルドで知り合って以来ずっと、パーティーを組んでいるジーク。聖騎士のジョブを持つ最高のタンクにしてアタッカーだ。

 途中から仲間になった、イヌミミ族のラナ。彼女は格闘家にしてシーフのジョブを持つ、ダンジョン攻略の要ともいえる。

 幼馴染みのフェリス。彼女は強力な回復魔法の使い手で、聖女としてあがめられている。慈悲深く、愛らしい。俺にとって大切な幼馴染みだ。

 そして最後は俺。ソードマスターにしてエンチャンター、さらには賢者のジョブを持つ。

 俺は生活面では物資の調達や、次に果たす依頼の交渉を初めとした事務を引き受け、戦闘では剣や魔法での攻撃、それにエンチャントでの支援と、誰よりも仲間のために貢献していた。

 ――はずだった。


 ある日。

 部屋で次のダンジョンに対する対策を練っていると、ジークとラナが尋ねてきた。

「アレン、お前はもう必要ない」

 出し抜けに、ジークがそんなことを言う。

「……は? 急になんだ? 俺が必要ないって、どういうことだよ?」

「言葉通り、お前はもう俺達のパーティーに必要ないって意味だ。お前を俺達のパーティーから追放する」

「なっ、嘘だろ!?」

 ――追放。それは除名よりも酷い扱いだ。

 除名は性格の不一致や、ジョブの相性などが理由でおこなわれるものだが、追放は裏切り者に対する烙印のようなもの。

 つまり、追放された者は冒険者としての信用を失うことになる。除名でも納得できないのに、追放なんてどう考えても受け入れられない。


「嘘じゃない。理解したらさっさとパーティを出て行け」

「待ってくれ! 俺はなにひとつ手を抜いていないし、不正だってしていない。旅や交渉のサポート、それに戦闘でだってちゃんと貢献しているだろ。なのに追放ってなんだよ!?」

「黙れ! お前を追放って言うのは、俺達の中ではもう決定事項だ!」

「俺達の中で……って、まさか」

 今更ながらに気付く。こんな理不尽な通告がされているというのに、同席しているラナがなにも反論していない。


「な、なぁ、ラナ。まさかお前も同意見なのか?」

「うん。ボクも戦いにくくなるから、アレンにはパーティーに居て欲しくない」

「そん、な……」

 支援魔法に連携はもちろん、人間関係でもずっと上手くやっていた。そう思っていたから、こんな風に言われるなんて夢にも思っていなかった。

 信じていたものが一瞬で崩れ、膝を屈しそうになる。

 だが――まだだ。フェリスは、フェリスだけは違うはずだ。あいつと俺は幼馴染みで、誰よりも長く一緒にいた。あいつが俺を不要だなんて言うはずがない。

 俺は部屋から飛び出し、フェリスのもとを訪れた。


「フェリス、聞いてくれ!」

「ふえっ!? ア、アレンくん? ノ、ノックくらいしてよ!」

「あ、あぁ、すまない。だが、聞いてくれ。ジークとラナが、俺をパーティーから追放するって言うんだ。おかしいと思わないか?」

「つ、追放? アレンくんが!?」

 フェリスが目を見開いた。

「あぁ、除名でなく追放だって。フェリスはおかしいと思うよな」

「それは……」

 フェリスが言葉を濁した。即座に同意せず、言葉を濁したんだ。

 俺には、それだけで十分だった。


「……そっか」

「ち、違うよ。私はアレンくんが誰よりも頑張ってること知ってる。でも、だけど……っ」

 フェリスが泣きそうな顔をする。誰よりも慈悲深いがゆえに聖女と呼ばれている。そんなフェリスには、俺が邪魔だと口にすることは出来ないのだろう。

 俺がフェリスを困らせている。その事実に胸が苦しくなった。

「……ごめんな、答えにくいことを聞いて。俺、今日中にパーティーを抜けるよ」

「アレンくん。私、私は……っ」

「――お前との冒険、楽しかったよ」

 俺はクルリと身を翻して部屋を後にした。




 数日後。緋色の雨パーティーは新たな仲間を加えて、次のダンジョンに挑戦するために旅立った。その頃には、残された俺が緋色の雨から追放されたのだと知れ渡っていた。

 だが、不幸中の幸いと言うべきだろうか?

 この町の連中とは付き合い長く、俺の働きぶりを認めてくれているものも多い。だから、追放は不当だと主張してくれている。

 おかげで、俺自身が蔑まれるような事態にはなっていない。俺は日々、同業者に慰められながら、冒険者ギルドの酒場で飲んだくれていた。


「なぁアレン。俺達のパーティーに欠員が出たんだ。良かったらうちに来ないか?」

 中には、こうして仲間に誘ってくれる者もいる。

 だが――

「……悪いな。他の奴らと組む気にはなれないんだ」

 俺はそのすべての誘いを断っていた。

「まだ奴らに義理立てするのか? 優秀なお前を追放した馬鹿な連中だぜ?」

「追放されたのは分かってるんだけどな……」

 フェリスと冒険者になってダンジョンに潜り、やがてジークやラナとも仲間になった。もちろん大変なこともあったが、あいつらとの冒険は凄く楽しかった。

 今更、他の誰かと組むつもりにはなれなかった。


「ま、無理には誘わんよ。しばらくは仲間を捜しているから、気が向いたら声を掛けてくれ」

「ああ、そうさせてもらうよ」

 気の良い冒険者を送り出し、俺は再びエールをあおる。

 緋色の雨が旅立ってから数日間、俺はずっとここで飲んだくれているが、幸いにして蓄えは十二分にあるので無理に冒険者稼業をする必要はない。


「あ~あ。いっそのこと、どこかの田舎で――」

「フィーネと一緒に暮らそうよ、アレンお兄ちゃん!」

 言葉尻を奪ったのは、聞き覚えのある愛らしい音色。驚いて横を見ると、そこには銀髪の美幼女――俺の妹が座っていた。

 だが、さっきまでそこには誰もいなかったはずだ。


「お前は一体いつからそこに居たんだ……?」

「フィーネの得意な魔法、忘れたの?」

 フィーネは精神干渉の魔法を得意とする。周囲の者達の認識を阻害して、自分を認識されないようにするなどお手の物だ。

「もちろんそれは覚えている。そのうえで、いつからそこに居たんだと聞いているんだ」

「……いつからだと思う?」

「質問に質問で返すのは止めろ」

 ほっぺたを摘まんで引っ張ると「やぁん、お兄ひゃんのおしおき、ひさひぶりでうれひい。もっひょしてひょぅ」とその身をくねらせる。この変態妹め。

「良いから答えろ。いつ家を出た。というか、いつからこの町に居た」

「それは――」

 フィーネが答えようとしたそのとき、酒場の入り口から冒険者が飛び込んできた。


「おい、聞いたか! さっき北のダンジョンから帰ってきた奴から聞いたんだが、緋色の雨の連中、さっそくしくじったらしいぜ!」

「マジかよ!?」

「マジだって! なんでもダンジョンの入り口で、ボロボロになって撤退してきた連中を見たって話だぜ!」

「ぎゃははっ、マジかよ! アレンを追放しておいて、さっそく失敗かよっ!」

 酒場が一気に騒がしくなり、俺のかつての仲間達が笑いものにされている。ざまぁ――という気にはまったくなれなかった。というか、俺は思いっきり焦った。


「おい、フィーネ、もう一度聞くぞ。いつからこの町に居た?」

「一週間ほど前から、だけど?」

 俺は思わず顔を覆う。

「まさか、とは思うが、あいつらに精神干渉の魔法を掛けたのか?」

「掛けられたことに気付かない方が間抜けなんだよ?」

「掛けたんだな?」

「……まあ、そうとも言うかな?」

 フィーネは明後日の方向を見ながら呟いた。

「言え、一体なにをした」

「ちょっぴり、彼らのお兄ちゃんに対するマイナスの感情を増幅しただけだよぅ」

「ほほぅ。ちょっぴりって、どれくらいだ?」

「ほんの100倍くらいだよ。その程度でお兄ちゃんを追い出すなんて、最低だよね。一緒にいる資格なんてないよ」

「おーまーえーはーっ!」

 マイナスの感情を100倍に増幅ってどんだけだよと突っ込みたい。むしろのその口に両手の親指を突っ込んで、左右に思いっきり引っ張る。

「ひゃぁん、おにいひゃんの指が、フィーネの、中にぃ……」

「うっさい! というか、なんでそんなことをした!」

「らっへ、お兄ひゃんをどくへん(独占)ひたから、その報いらよ」

「お前、そんな理由で……」

 俺とあいつらを引き裂いたのかとぶち切れそうになる。

 だが、まだだ。まだ切れるのは早い。妹はこう見えて頭が良く、魔法の腕だって一流だ。こんな馬鹿なことを言っているが、なにか理由が在るのかもしれない。

 俺はフィーネの口から手を放した。

「それで……なにか言うことは?」

「あはっ、超有能なお兄ちゃんが居なくなって緋色の雨パーティーはぼろぼろだよ。ざまぁ」

「お前のせいだろ!? お前のせいなんだよな? お前のせいだって言えよ!?」

「そうだよ?(きょとん)」

「ちょっとは反省しろおおおおおっ!」

 

 

 お読みいただきありがとうございます。

 初めましての方は初めまして、そうでない方はいつもありがとうございます。

 作者の緋色の雨と申します。なお、緋色の雨というのは夕焼けに染まる雨のイメージで、決して血の雨をイメージした名前ではありません。

 ……ホントですよ?

 とまぁ、本文でパーティー名を見た方は分かると思いますが、今回はかなり遊んでいます。緋色の雨初、初期プロットなしの制作です。

 ひとまずは毎日更新予定で2万字ほど書いていますが、その後どこまで続くかは人気次第(人気がなくても切りよく終わらせますが)なので、続きを読みたいと思ったら、ぜひぜひブックマークや評価で応援をお願いします。

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