第55話
第一中継基地へ運ぶ物資の積み込みにしばらく時間が掛かりそうだと判断したアッシュとディーンは、基地の外れへとやって来た。
「ファング!」
大声で呼ぶとしばらくしてこちらへ走ってくるファングの姿が見えた。
目の前まで走ってきたファングは尻尾を振りながらアッシュを見上げる。
二人はファングの体を隅々まで調べるがどこもおかしなところはない。
しかし、オーガに掴まれたにも関わらず全くの無傷だということに、アッシュは違和感を覚えた。
「すまないがちょっとだけ我慢してくれ」
アッシュはそう言って、ディーンから受け取った細剣の先端をファングの太ももへ軽く、チクリと刺した。
ファングは言われたとおりに、じっと動かない。
アッシュが傷口に指を当て付いた液体を確認する。
赤い、普通の赤い血だった。
その事に二人はほっと胸を撫で下ろした。
ディーンは後ろ手に持っていた短剣から手を離し、アッシュから細剣を返してもらう。
万が一、ファングから黒い液体が流れたときはディーンが汚れ役を引き受けるつもりだったのだ。
基地へ戻ると物資の積み込みは完了しており、荷台にはヴェラが座っていた。
「どうだった?」
「ああ、大丈夫だ、問題ない」
「そうかい、それならよかったよ」
実のところヴェラも心配をしていたのだ。
「さ、それならさっさと出発しようじゃないか。アーマードまでまだまだ遠いからね」
その日の昼過ぎに第二中継基地を出発した三人が、第一中継基地を経てアーマードに到着するのは季節がまた一つ変わった頃だった。




