第50話
倒れたアッシュの元へファングが走り、近づくオーガとの間に立ち塞がる。
「いい、逃げろ、ファング」
アッシュはこのオーガと自分の力量の差を痛感していた。
絶対に勝てない、ならばせめて仲間達だけは生きて帰したい、勝つことも逃げることも諦め、今はただ仲間の無事、それだけをアッシュは願っていた。
しかし、アッシュの願いとは裏腹にファングは動かない。オーガを威嚇したまま一歩も引かない。
「ファング、頼む、逃げてくれ」
アッシュがよろよろと立ち上がった時、ファングはオーガに向かって駆け出した。
振り回すオーガの腕を避け、足を狙う。爪で引き裂き距離をとり、旋回し、跳ぶ。
ファングの攻撃を受けて、オーガの灰色の足には黒い染みが広がっていく。
何度目かのファングの攻撃を受けた時、オーガはぴたりと攻撃を止めた。
オーガの異変に距離をとったファングも一瞬動きを止めたが、その直後大きく口を開けてオーガの足へ噛み付く為に全力で駆け出した。
ファングがオーガの足へ達すると思われた瞬間、オーガが動く。
オーガが素早く地面へ腹這いに倒れこんだ為、ファングの眼前には突然オーガの顔が現れた。
予想外の行動にファングは一瞬迷った。引くべきかこのまま顔へ噛みつくべきかと。
その迷いの一瞬を、オーガは見逃さなかった。
駆けてくるファング向けて地面すれすれに腕を振るい、がっしりと胴体を掴んだのだった。
「ファング!」
それを見てアッシュは走る。盾と左手を固定していた縄を外しオーガに向かって走る。
オーガは立ち上がり、掴んだファングを憎々しげに見つめている。
オーガの腕に力が入り、ファングの口からはくぐもった声が漏れる。
声を張り上げアッシュがオーガの腰へ盾をぶつけた。
逆三角形の形をした盾を両手で持ち、その先端を思い切りオーガへとぶつけたのだ。




