第47話
三人の間に緊張が走る。
「新手か?」
周囲を警戒するが敵の姿はない。
少しの間森の中に沈黙が訪れる。
そんな中、そいつは突然やってきた。
以前ヴェラが言っていたように、突然、降ってきた。巨大な、灰色のオーガが三人の目の前に。
声を上げる間もなくアッシュが殴り飛ばされる。
「アッシュ!」
叫ぶディーンへオーガが襲いかかる。
振り払われる腕に細剣を突き刺すが、攻撃の勢いは衰えずそのまま吹き飛ばされてしまった。
その後も一瞬の出来事だった。
近接用の有効な武器を持ち合わせていないヴェラは、振り回されるオーガの腕を掻い潜り腕に足を絡ませ飛ぶ。
リザードマンにしたのと同じようにオーガの肩へと着地したヴェラは頭へ短剣を振り下ろした。
しかし、オーガの頭蓋骨は固かった。短剣は滑り、頭に傷を付けることしかできなかった。
オーガはそんな傷など全く意に介さず、ヴェラの足を握ると目の前で逆さ吊りにした。
ヴェラは精一杯腕を伸ばして短剣を振り回すが、オーガの腕の長さに邪魔され届かない。
するとオーガはもう一方の腕で短剣を振り回しているヴェラの腕を掴んだ。
片足と片腕を掴まれ、完全に身動きができなくなったヴェラの脇腹へオーガが顔を近づけ、大きく口を開けた。
オーガがヴェラの脇腹へ噛みつくその直前、横からオーガの口へ何かが差し込まれ固いものがぶつかる音が響いた。
それはディーンが差し込んだ短剣をオーガが噛んだ音だった。
ヴェラに貰った、背中が櫛状になっている短剣。
本来は櫛の部分に相手の武器を挟んで捻ることで破壊する短剣。
それが今、寸でのところでオーガの口に差し込まれ、ヴェラへ食い込むはずだった牙を挟んで受け止めていた。
直後、ディーンが短剣を捻る。
バキンと、嫌な音を響かせオーガの牙は真っ二つに折れた。
痛みと怒りからオーガは叫び声を上げ、ヴェラから片方の手を離しディーンへ振りおろす。
短剣を差し込む為に体が伸びきっていたディーンは反応が遅れ、無防備なまま殴り飛ばされてしまった。
その後再びヴェラの腕を掴んだオーガは、今度こそヴェラの脇腹へと噛みついた。
ヴェラの悲鳴が響く。ガリガリと嫌な音がなる。
何か固いものに阻まれ、牙が通らない事が分かったオーガはあっけなくヴェラを放り投げた。
ディーンのそばへ落ちるヴェラ。アッシュは最初の一撃からまだ目覚めていなかった。




