第44話
事前に研がれた槍の穂先はオーガの腰の辺りへと刺さった。
その攻撃の結果を待たず、アッシュ既に森へと駆けている。
鈍い反応のあと刺さった槍を抜き、後ろを振り返ったオーガは逃げるアッシュの姿を確認した。
叫声は上げない。怒った様子も見せない。オーガの目に写るのはただ獲物への興味と執着。今まで見たことのない生き物への興味と執着だった。
アッシュは走る。森の木に付けた目印を頼りに森の中を走る。
後ろからは大きな足音と木々にぶつかる音。巨体には身動きしづらい森の中で、それでも音との距離は離れなかった。
目的の場所まであと少し、というところで不意に後ろの足音が消え、足音の主は頭上を越えてアッシュの目の前へと着地した。
オーガは飛び、木の枝を掴み、渡り、アッシュを飛び越えたのだった。
「確かに猿みたいだ」
背負っていた盾を構え剣を抜く。
目的地に辿り着く為には左右の藪へと入るわけにはいかない。
なんとか横を通り抜け、仲間の待つ地点へと向かわなければならない。
アッシュは声を張り上げ、盾を体に近づけオーガへと突っ込んだ。
オーガが盾のない右半身を狙って攻撃してくる、その腕を潜りながら剣を突き出す。
突き出した剣はオーガの腕の外側を細く裂いた。
それはオーガにとって始めての痛み。オーガはその痛みの原因である物への警戒心を強めた。
そのまま転がるようにオーガの横を通り抜けようとす
る。
しかし、抜けきる前にアッシュの頭がオーガの長い腕に掴まれてしまった。
強く握られ、持ち上げようとしている。
アッシュの足が地面から少し浮いたとき、アッシュは自ら兜の留め具を外して下へと落ちた。
急に軽くなったことでオーガが少しバランスを崩し、その隙にアッシュは走り出す。
なおも伸ばされたオーガの腕は藪から飛び出てきたファングによって傷つけられ、引っ込めることとなった。
木々の間を走りぬけ、ようやく目的の場所へと辿り着いた。
森の中の少し開けた場所。木々に囲まれそこだけぽっかりと空いた場所。
ここでアッシュ達はオーガを仕止めるつもりなのだ。




