第42話
バルドとの特訓を始めて随分と日が経った。
盾を体に引き付けて防ぎ、体から離して防ぐ。
力を入れるとき、力を抜くとき。相手の攻撃の強さ、角度、それに合わせて防御の形を変える。
細剣による攻撃を軸とした連撃で上を狙い、下を狙う。
横に、縦にと軌道をかえる。
単純では読まれてしまう、複雑では力が乗らない。相手に合わせて攻撃の形を変える。
ガレアに習ってきたこと、今までの旅で経験したこと、そしてバルドから教わったことが二人の中で具体的な形を成していく。
今ではヴェラもただ座っているだけではなかった。立体的な動きを繰り返し短剣を振り、投げる。
より正確に、より殺傷力の高い攻撃を目指す。
筋力が足りないのであれば必殺の一撃を出せればいい、ヴェラなりに考え自己の鍛練に努めていた。
その日の終わりにバルドが言う。
「今できることはここまでだ」
バルドの持ってきていた棍棒と盾は、連日の特訓で今にも壊れそうなほどにボロボロになっている。
「今の状態のお前達三人でオーガに勝てるのか、ま、それは分からねぇ。ただ俺が教えられることはもうねぇし、俺はオーガ討伐を手伝ってやれねぇ。だからまぁ、明日一日しっかり休んで、オーガとの戦いに備えるといい」
勝てそうになけりゃ逃げ帰ってきな、悪いようにはしねぇよ。バルドは最後にそう言って三人の元を去っていった。
「と、言われたからって」
ディーンが細剣を構える。
「そうだな、倒せないまま次にはいけないな」
アッシュは盾を構えて手斧を担いだ。
「久しぶりに、やるかい?」
「ああ、そうしよう」
アッシュとディーン、二人が距離を詰める。
ヴェラの目には二人が手を抜いているように見えなかった。
ディーンの容赦のない連撃がアッシュを襲い、アッシュはそれを完璧に防ぎ、避け、連撃の隙を見て反撃を繰り出す。
しばらくして、攻守が入れ替わる。
アッシュの攻撃はディーンのような連撃ではない。
バルドの攻撃を受け、アッシュは防御と攻撃の両方を学んでいた。
それは鋭く、重い一撃。剣を、盾を使い敵を追い詰めていく攻撃。ディーンはそれを短剣で反らし、避け、足を使って距離をとった。
何度も攻守が入れ替わり、鍛練は繰り返される。
この日二人は、辺りが暗くなっても尚、止めることはなかった。




