第41話
荷馬車の荷台、宿のない第三中継基地に来てからここが三人の寝床だった。
あの話の後、バルドは早々に引き上げていった。
残された三人もそれぞれの思いを胸に荷馬車へと戻ってきたのだった。
「眠れないの?」
気配を察したのか、ディーンが口を開く。
「ああ、あんな話を聞いた後じゃなかなか、な」
アッシュの頭の中でバルドの話が渦巻く。
ヴィクター、巨大な猪、ガレアの息子、そして村の誰か。
それぞれ原因が違う、原因の分からないものもある。しかし、気付いていなかっただけでこの世界には異質な何かが確実に存在しているのだ。
「村のことは今度先生に会ったときに教えてもらおう。今まで教えてくれなかったのだってきっと何か訳があるはずさ。明日もまた特訓だよ、早く寝ないと」
おやすみ、そう言うとディーンは体を丸めた。
考えないようにしようとすればするほど、アッシュの頭の中は混乱してくる。
とはいえ昼間の疲れも手伝ってか、少しずつ聞こえる虫の声が小さくなり、意識が遠退く。
その時。
「━━━━━」
アッシュは自分の名を呼ぶ声を聞いた。
今では誰もその名で呼ばない、アッシュの本当の名前。それは村が焼け落ちた日に捨てた名前。あの子が、笑いながら呼んでくれた名前。
もう一度名前を呼ばれ、振り返ると少女が笑っていた。
駆け寄ろうとして、風、強い風、そして目の前であの子が喰われる。喰い千切られた。赤い、竜に。燃える建物、焼ける人。空から落ちてくるあの子の半身。
叫び声を上げアッシュが目を覚ます。
全身に酷く汗をかいている。
辺りは薄明かるく、もうすぐ夜明けのようだ。
普段考えないようにしている自分の過去、バルドの話で思い出してしまった忌まわしい過去。
アッシュは荷台を降りて川へ向かうと、水の中に頭を突っ込んだ。




