第37話
翌日、三人は約束の時間に約束の場所へと向かう。
そこには大きな棍棒を担いだバルドが待っていた。
「ようし、来たな。早速始めるぞ」
「あの、すみません」
ディーンが声をあげる。昨日あれからバルドは仕事を始めると、三人がそこにいないかのように振る舞った為聞きそびれていた。
「結局、どういうことなんですか?」
「ん、なにがだ?」
「どうしてバルドさんと特訓をすることになったのか、理由が分かりません」
やる気十分なバルドに話を聞くとしたら、今しかなかった。
「お前達はここで実績を上げなきゃならないんだろ?だが今のお前たちではオーガを相手にするには力不足だ」
「あんたに何が分かるっていうのさ」
自分達なりに頑張り、ここまで来た。何も知らないこの男に力不足だと言われることが、ヴェラには我慢できない。
しかし、バルドはまた、力不足だと冷たく言い放った。
「いいか?カヴァルの爺さんは、俺がいるここに、お前達を寄越した。それはお前達を鍛えろということだし、俺もここで知らん振りしてお前達に死なれては目覚めが悪い。だから特訓だ」
わかったな、と有無を言わさぬ口調で話を切り上げるとバルドはアッシュを呼んだ。
「いいか、盾は部隊の要だ。盾役が崩れたらその部隊はおしまいだ。俺の攻撃を防いで斬り返してこい」
言うや否やバルドはアッシュへと持っていた棍棒を振り回した。
オークの一撃に勝るとも劣らないその攻撃を盾で受けると、微妙な違和感を覚える。
バルドの攻撃は今まで戦ったどの敵よりも重い。
きっちり防いでいるはずなのに、衝撃が腕を伝い体へと響いてくるのだ。
何度目かの攻撃を受けた時、アッシュは腕の痺れから盾を取り落としてしまった。
次の瞬間、地面についた棍棒を軸に放たれたバルドの回し蹴りでアッシュは吹き飛ばされた。
「次はお前だ」
バルドは木の板を合わせた盾のようなものへ持ち替え、ディーンを呼んだ。
「剣の役割は敵の掃討だな。盾がどんなに守っても敵を倒せないんじゃ意味がない」
ほら、斬りかかってこい、そう言ってバルドは両腕を下げたままディーンに向かって歩きだした。
バルドがあまりにも無防備に見え、ディーンは攻撃することを一瞬躊躇ってしまった。そのせいで中途半端な速さしか出ていないディーンの突きは、斜め後ろに仰け反り最小限の動きでかわされた。
次に逆手に持った短剣で斬りかかるが、これは盾のような板で防がれる。
直後、バルドの姿が目の前から消え、ディーンは気が付けば空を見ていた。バルドの足払いに全く反応できなかったのだ。
「あとはお嬢ちゃん、お前だな」
バルドの言葉にヴェラは顔をひきつらせていた。




