第35話
沼地の街道に男の笑い声が響いている。
「リザードマンの拠点を片っ端から潰して回ったって?昔話の狂戦士みたいなことしてるな。そりゃそんなことしてたらこうなるよな」
男は黒い粘液で覆われた街道を見ながら、笑いが収まらない様子だ。
「ええ、随分と怒らせてしまったみたいで」
「ああ、いや、まぁ俺も魔物の気持ちなんて分からねぇがな、今回のは怒りじゃなくて、たぶん恐怖なんじゃねぇかな」
冒険者の男は頭を掻きながら、少し真面目な顔で答える。
「恐怖ですか?」
「そりゃだってお前、毎日毎日近くの仲間が襲われてるんだぜ?怖いだろ?」
なぁ、と男は自分の仲間に同意を求め、仲間達はそれぞれ苦笑しながら頷いている。
「それはそうですけど」
魔物から脅威と思われる、その事に実感が湧かなかった。
「まぁ、何をやるにしてもほどほどにな。何がきっかけで恨みを買うか分からないのがこの世界だ」
さてと、と冒険者はリザードマンの成れの果てに近づく。
「戦った報酬代わりと言っちゃなんだが、こいつらの持ち物は貰っていいか?」
金銭価値があるものは今のアッシュ達には必要ない。失ってしまった槍を補充し、それ以外は全て冒険者達の取り分とした。
「リザードマンの槍なんか何に使うんだ?」
槍を拾い集めるディーンに冒険者が聞く。
ディーンはこれまでの経緯を、そしてこれからの目的を簡単に伝えた。
「なるほどな。確かに真っ向からオーガに挑むのは自殺行為だわな」
納得した冒険者達は、拾ったものをまとめると馬にまたがる。
「頑張れよ。またどっかで生きて会えるようにな」
そう言って手を振ると、冒険者達は颯爽と去っていった。




