第33話
「これはちょっと、やりすぎちまったってことなのかね?」
ヴェラが後方を走るリザードマンを見ながら呟く。
アッシュの走らせる荷馬車は今、群れをなしたリザードマンに追いかけられていた。
ファングの遠吠えで馬を走らせ始めてすぐ、街道の両脇からリザードマンが飛び出てきた。
待ち伏せが失敗に終わったと判断したリザードマンはそれでも諦めず、今こうして追いかけてきているのだ。
幸いリザードマンは馬ほど早く走れず、その差は徐々に広がってきている。
「でもどこまでも追いかけてきそうな顔をしてるよ?」
「どれだけの数が見える?」
荷台に向かってアッシュが叫ぶ。
今はただ、前を見て馬を走らせている。そうしなければ、ほんの少しの失敗でもあっという間に追い付かれてしまうだろう。
「二十、いや、もっといる」
「魔物のくせに仲間を殺されて怒るような感情があるなんて、意外だよ」
そう言いながらヴェラはディーンの作ってあった槍を手に取ると、先頭を走るリザードマンへ向けて投げつけた。
投げられた槍はリザードマンの肩口へ突き刺さり、転倒したリザードマンに後続の何匹かが巻き込まれた。
とても長い時間が経ったような感覚。
馬の息が乱れ、少しずつ速度も落ちてきている。
十数本あった槍も半分ほど消費してしまった。
それでもまだ、リザードマン達は諦めることなく追いかけてきていた。
「いちかばちか戦うしかないのか」
操る馬は今にも倒れてしまいそうだ。
「バカをいうんじゃないよ!あんな数相手じゃ戦う前に袋叩きにされちまうよ!」
荷台からヴェラが叫ぶ。
「じゃあどうすればいい!」
アッシュに苛立ちが募る。次の基地まではまだまだ距離があり、このまま馬を走らせ続けることは不可能だ。
こんな場所に村はなく、助けを求められる人もいない。このままでは遅かれ早かれ追い付かれてしまうだろう。
と、その時、前方に何かが見えた。
それは馬に乗った四つの人影。
こちらに歩いてきているそれらに向かって、アッシュは力の限り叫び助けを求めたのだった。




