第32話
「ちょっと、進むのが早いよ」
今日の荷台には食糧や酒などが山のように積まれ、ヴェラとディーンは荷台の端に座っている。
馬の手配と荷車の修理の引き換えに受けた、第三中継基地までの物資輸送、その荷物だ。
昨日一日酒を飲んでいたヴェラは、今も二日酔いのきつい頭痛に悩まされていた。
「だから昨日止めたのに」
そんなヴェラを見て、ディーンがクスクスと笑う。
「いや、歩かなくてもいいと思うとつい調子にのっちまってね」
そう言ってヴェラも照れたように笑った。
「ところであんた、さっきから何をしてるのさ」
出発してからこっち、ディーンは荷台の隅でずっと何かを作っているようだった。
「昨日アッシュと、奪った武器をどうやって戦いに使おうかって話をしててね。いくつか思い付いたものを作ってるんだよ」
ディーンは作っていたものを持ち上げ、ヴェラに見せる。
元はただの棍棒だったそれには、リザードマンが身に付けていた動物の牙が何本も嵌め込まれていた。
「耐久力が落ちてしまうから一回しか使えないと思うけど、ただ殴るよりいいかなっと思って」
それを見てヴェラは腹を抱えて笑った。
「大人しそうな顔をしてるのに、随分とエグい武器を作るもんだね。で、他にも何か思い付いたのかい?
「槍は柄を短くして投擲用にしようかと思ってる。あと、この斧」
ディーンが持ち上げた斧は刃の部分が石で作られている。
「大きさはいいんだけど重くてね。このままじゃ使えないから罠の一部に利用するつもりだよ」
その一つ一つを手に取りながら、ヴェラはしきりに感心している。
「そういうのもガレアから習ったのかい?」
「そうだね、他にも例えば」
とその時、ディーンの話を遮るように狼の遠吠えが響いた。
「アッシュ!」
「ああ、ファングだ。何かがいるらしい。駆け抜ける」
アッシュは周辺を警戒しながら馬を走らせた。




