第22話
皆で決めた作戦通り、ファングがゆっくりと猪に近づいている。
地面が柔らかいおかげで足音はない。
体を低くして猪の後ろから近づくと、ファングは思い切りその体に噛み付いた。
一瞬のあと目を覚ました猪は大きな鳴き声と共にその場で暴れ出す。その動きは生き物というより土砂崩れのような迫力だった。下敷きになれば一瞬で潰され即死であろう。
しかしファングは既に距離を取り、その範囲から出ている。
ひとしきり暴れた猪が起き上がりファングの姿を確認すると更に大きな鳴き声を上げファングへ向かって走り出した。
ファングはくるりと向きを変えると今来た方へと走り出す。
人間ではあっという間に追い付かれていたであろう速度で猪はそれを追いかけた。
前方には岩、その前に立つのは一人の男。
その男目掛けて全力でファングは走る。
「よくやった、ファング」
岩の前に立つ男とすれ違い、ファングはそのまま岩の裏へと走り抜けた。
岩の前に立つ男、アッシュが剣で盾を叩き、猪の注目を集める。
その音を聞いた猪は、巨大な体を揺らし、牙を振り回しながら物凄い速さで迫ってくる。
「まだだ」
ぎりぎりでなければいけない、とアッシュは自分に言い聞かせる。
猪が一旦頭を下げ、突き上げる為の準備に入ったその瞬間、それを待っていたアッシュは思い切り足元の石を蹴り、横へと跳んだ。
柔らかい地面では跳ぶ為の踏み込みができない、その為前もって拾ってきた石を足元に置いておいたのだ。
頭を下げていた猪には前方の岩への注意が足りなかった。
アッシュに向かって思いっきり突き上げられた牙は岩へとぶつかり、酷い音をたてて折れてしまった。
痛みに鳴く猪の腹へ向けて、横に跳んだアッシュが反転し柄頭を腰にあて全身でぶつかる。
同時に岩の上から猪の背にディーンとヴェラが短剣を持って飛び降り、着地と同時に突き刺した。
暴れ狂う猪からアッシュは即座に剣を抜き距離を取る。
ディーンとヴェラは振り落とされないように必死でしがみつきながら、そのまま何度も背中を刺した。
しかしその巨体に相応しい脂肪に阻まれ、致命傷を与えることができていない。
刺した短剣を左手で掴んだまま、ディーンが腰から細剣を引き抜く。
それを振り上げ、猪の背中に突き刺そうとしたその時、猪は地面に背中を擦り付けようと体を倒した。
その動きを事前に察したヴェラは背中から飛び降りることができたのだが、攻撃の動作に入っていたディーンは逃げる動作が一瞬遅れてしまった。
倒れる猪の体の向こうへディーンが巻き込まれるのをアッシュは見た。




