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イシュト大陸物語  作者: 明星
力の証明
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第17話

「座ってもいいか?」

不意に後ろから声を掛けられたヴェラは特に驚いた様子もなく、どうぞ、と二人に椅子を勧めた。

「食事はもう終わったのかい?」

そう言うヴェラの前に食べ物はパンと豆のスープしか置かれていない。しかし酒だけはしっかり注文していたようだ。

「これからなんだ。外に材料を取りに行っててね、今お店の人に頼んで作ってもらってるんだ」

アッシュとディーンが、これまた町の値段と比べるのが嫌になるほど高い飲み物を注文する。

運ばれてきた飲み物に、なぜか二人は口をつけず話を続けた。

「今日はありがとうございました」

と突然アッシュとディーンが頭を下げるのを見て、これにはヴェラも驚いた。

「ヴェラが洞窟へ入ってる間、アッシュと話をしてたんだ。きっとヴェラは僕達に子供のエイプを殺させたくなかったんじゃないかって」

「気を使わせてしまってすまない。だが俺達も冒険者だ、この先を生き抜く為にもいろいろな事を経験しておくべきだと思う」

そう言ってアッシュとディーンがヴェラを見る目は、ただ真っ直ぐだった。

「あんた達。ごめん、謝るのはあたしの方だね。余計な気を回しすぎちまったようだ」

「いや、それは僕達があんなことを言ったから」

生き物を殺すということについての話だ。


そんな話をしている間に、出来上がった料理が運ばれてきた。

机の上に置かれたのは焼いた鳥と魚の皿が、三つ。

アッシュとディーンの前にはもちろん、ヴェラの前にも置かれていた。

「これは?」

ヴェラが目をぱちくりさせる。

「今日のお礼と、お祝いだよ」

「俺たち三人で初めて依頼を達成した」

ディーンの言葉をアッシュが補足する。

何かを言いかけたヴェラは、不意にうつむいてしまった。

思いがけないヴェラの反応に、アッシュは戸惑い、慌てる。

「す、すまない、その、食事の量に気を付けていたなら余計なことをしてしまった」

そんなことを言われ、ヴェラは顔をあげキッとアッシュを睨んだ。

「そんなもの気にしていないよ、おバカ」

しかしそれは怒っているわけではない。ヴェラは目元を拭いながら、笑顔を見せていた。

「ありがとう。本当に、ありがとう」


仲間を失い、それでもこれまで何とかやってきた。しかし、ヴェラの心の中にはいつまでも晴れない雲がかかっていた。それが今、二人の言葉で、行動でようやく晴れた気がしたのだ。


乾杯と、三人の声がする。

その日はヴェラの奢りで朝まで飲み明かすことになったのだった。

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