第13話
アッシュが面頬を上げ盾を地面に突き刺す。見慣れないそれらの装備は、どちらも今回の旅の為に新しく用意したものだった。
「やっぱり慣れないと動きづらくて敵わないね」
ヴェラが自分の体を確かめるように叩きながら愚痴をこぼす。
ディーンとヴェラの装備に一見変化はないように見えるが、2人とも革の防具の下に鱗状の金属を繋げた帷子を装備している。
これも、オーガ対策として用意したものだ。
これだけの装備を整える為にアッシュとディーンは所持金のほぼ全てを使いきった。
旅に必要な最低限の金だけを残し、防御力を上げることを優先したのだ。
実際は少し足りなかったのだが、その分は装備を買い換える必要があまりなかったから、と今までの依頼で貯めていた金からヴェラが立て替えてくれた。
そのヴェラはというと、脱いだ上着を憎々しげに睨み付けている。
「来る途中に川があったから、そこで洗ってくるよ」
ヴェラの上着についたエイプの糞が、嫌な臭いを発している。
「一人で大丈夫か?」
「ああ、この辺りなら一人でも平気さ。それより、ファングにエイプ達の棲みかを探してもらえるよう頼めないかい」
ヴェラがそう言うのなら大丈夫なのだろうと、アッシュはファングに近づく。
座った状態でこちらを見つめるファングの頭を撫でながら、アッシュは頼む、とだけ呟いた。
「それだけで通じるのかい?」
ヴェラが意外そうな顔をする。
「ファングはアッシュが子供の時から一緒にいるからね、通じ合うものがあるんだと思うよ」
へぇ、とヴェラが感嘆の声を上げる。
「カヴァルの爺さんの言葉じゃないけど、これは本当に心強いね」
それじゃあ後は任せたよ、と言って、ヴェラは川を求めて歩きだした。
ファングもエイプの棲みかを探す為に駆け出す。
残された二人は岩の上に座り、ヴェラとファングの帰りを待つことにした。




