第12話
木から飛び降りたエイプはそのままヴェラに向かって走り出した。
「ちっ!やっぱりこっちに来るのかい!」
走り寄ってきたエイプは右腕を下から振り上げ、ヴェラを殴り付けようとする。
「そっちに避けるよ」
その声を受けてアッシュがエイプとの距離を詰める。
ヴェラが体を低くしエイプの攻撃を潜り抜け、横に飛ぶ。
背中に嫌な感触を受けながら前転し、ヴェラはそのままアッシュの裏へと回った。
「こうならない為に念入りに殺すとこを見せつけたんだけど、逆効果だったかね」
しかめっ面のヴェラが嘆く。
戦闘前、エイプ達は威嚇する為に辺り一面に糞を投げつけていた。
その糞が、地面を転がったヴェラの髪や背中にまとわりついている。
それは自分を襲わせないように警戒させる為の行動が、逆に怒りを誘発させてしまった結果だった。
「ヴェラ、怪我は?」
ディーンがヴェラの斜め前に立つ。
アッシュを先頭にディーンが斜め後ろに付き、ヴェラはその後ろで援護と周辺の警戒を行う。
それが事前に決めていた、三人の陣形だった。
「大丈夫、かすりもしてないよ」
多数を相手にするエイプは先頭のアッシュを無視することができず、苛立ちから牙を剥き出し吠えている。その姿は近くで見ると他のエイプに比べ一回りほど大きい。
アッシュは盾を剣で叩き、自分に注意が向くようエイプを挑発した。
目の前で起きた出来事全てが気に入らないエイプは、アッシュ目掛けて本能のまま襲い掛かってきた。
エイプの腕の振り上げを、盾を体に引き寄せた状態で受け止める。
鈍い音が響きアッシュの体が揺れる。しかしオークの一撃と比べるとその攻撃は軽く、アッシュはその場に踏み留まることができた。
至近距離でエイプが吠え、両手でアッシュの構える盾を引き剥がそうと引っ張っている。
「ファング!」
アッシュの合図で岩陰から飛び出したファングが、エイプの足へと噛みついた。
突然の痛みに体勢の崩れたエイプを盾で一気に押し倒し、仰向けに倒れたエイプへ剣を突き立て、ファングは頭を噛み砕いた。




