第9話
「それで、オーガっていうのはどういうやつなんだ?」
ヴェラがそこまで嫌がるオーガという魔物がどういうものなのか気になり、アッシュは食事に手を付けられなかった。
「言っちまえば巨大な猿だね、あたしが出会ったのはそうだね、あんたの倍ほどはあったよ。巨大な体で動きが速いんだ」
それはまるで、ヴィクターの館で戦ったあの老婆のような動きだとヴェラは言う。
「あんな動きを巨大な猿が、するのか?」
「ああ、オーガの方が婆さんよりも速いくらいさ」
そう言ってヴェラはカラカラと笑う。
「あの時も隊列なんかすぐにぐちゃぐちゃになってね、今はこうやって笑い話にできるけど、そりゃもう酷いもんだったよ」
ヴェラは笑いながら酒を飲み干し、またおかわりと大声で叫んだ。
「そういえばあんた達、こないだのが初めての依頼だったって?あたしは驚いたよ、肝が座ってるというかさ、てっきりある程度やってきた冒険者だと思ってたからね」
少しずつ酔いが回り始めたのか、ヴェラはだらしなく椅子にもたれ掛かっている。
「戦うことに関しては、小さな頃から先生に教わってきたからね。それでなんとかなってるんだと思うよ」
ディーンの言葉にヴェラは興味を持ったようで、ずいと体を乗り出した。
「へぇ、先生ね。有名な人かい?」
「どうだろう?ガレアっていう人なんだけど」
ヴェラはガレアという名前に目を丸くする。
「ガレアってあのガレアかい?」
「あのっていうのが分からないけど、先生の名前はガレアだよ」
「知ってるのか?」
出会ったときから商隊で傭兵をしていたガレアは過去を話さなかった。だからアッシュ達はガレアのことを傭兵であるということ以外何も知らないのだ。
「あんた達の先生かどうかは分からないけどね、ガレアっていう有名な元冒険者がいるんだよ」
それが自分達の先生であるのなら興味深い話だとアッシュは思った。
「その冒険者の話、聞かせてもらえないか?」
「ああ、いいよ。ただあたしが冒険者になった時にはもう引退してたから会ったことはないよ。全部聞いた話さ」
そう言ってヴェラの話してくれたガレアの冒険談は、二人をまるで少年時代に戻したかのように心踊らせるものだった。
「でもね、あれはどれくらい前だったっけ?村を焼き尽くした竜の事件があっただろ?ガレアはどうやらその時商隊の護衛としてその村を訪れてたらしいんだよ。そこで何があったのかは知らないが、それ以降ガレアは冒険者を辞めたって話さ」
ヴェラの話に二人は顔を見合わせた。




