第5話
二匹のゴブリンが完全に動かなくなったのを確認して
、ディーンは深く息を吐き出す。
一歩踏み出してから今まで、完全に呼吸を忘れていたことに気付いた。
これが初めての殺し。
魔物とはいえ、命を奪うのはこれが初めての経験だった。細剣を握るディーンの手は微かに震えていた。
「大丈夫か?」
後ろからアッシュに声を掛けられ振り返る。
「うん。もう、大丈夫だよ」
息を吸い、深く吐き出す。
「流石に緊張してしまうね。でもこれで少し自信が持てたよ、先生の教えをきちんと活かせていることが分かったから」
商隊を守る傭兵が彼らにとって先生だった。いずれ二人が旅立つことを知っていた傭兵はいつも全力で応えてくれた。
傭兵の教えはきれいな戦い方ではなかった。それは生きる為の術であり殺す為の術だったからだ。
改めて部屋の中を見渡すと、食い尽くされた家畜の骨や無造作に置かれた死体が山積みになっており、他に出入り口はない。
どうやらここで行き止まりになっているようだ。
一刻も早くこの臭いから逃れようと部屋を出た瞬間、ゴポリと粘度の高い液体の弾ける音がした。
「話には聞いていたけど」
見るのは初めてだった。
死んだ魔物の体は時間が経つと黒い粘液へと変化し原形を留めない。
初めてみる光景に戸惑いながら二人は部屋を後にした。




