第1話
「ほぉ、そんなことが…」
場所はアーマードの冒険者組合。
カヴァルに向かい合ってアッシュとディーンが座り、その後ろにヴェラが立っている。
「で、試してみたのかね?」
黒い水を生み出す石をかざしながらカヴァルが聞く。
「いえ、まだです」
「そうか。すまないが水を持ってきてくれるかな?」
カヴァルが組合員へ呼び掛けると一人が裏へと入っていった。
「しかし、辛い思いをしたね、ヴェラ君」
「ああ、全くだね。でもまぁ、こんなのは別に珍しい話じゃないだろ?」
あの日、森から帰ってきたヴェラは幾らか吹っ切れた顔をしていた。何があったのかは今も話してくれてはいない。
「ふむ、そうだね。アッシュ君もディーン君も覚えておいてもらいたいんだが、冒険者というのはそういう世界だよ。いつ死んでもおかしくない、それが自分なのか仲間なのか、どちらにしてもだ」
カヴァルの言葉で、アッシュの脳裏にオークとゴブリンの祈祷士とのことがよぎる。
どちらの相手も自分一人だけであれば死んでいた。ディーンが、それとファングがいたからこそ、生き延びることができたのだ。
「まぁそうならないように手助けするのが私達の役割でもあるからね」
カヴァルはそう言って、にこやかに微笑んだ。
組合員が裏から容器に張った水を持って戻ってきた。
机の上に置かれた水へ、カヴァルが石を落とす。
すると反応はすぐだった。石を中心に変化が起こり、あっという間に容器の中の水は全て黒い液体へと変わっていた。
それを覗きこむ四人が黙りこむ。
今目の前にあるものに皆心当たりがあったからだ。
黒い水、水というには粘度の高いそれは、まさしく魔物の死骸の成れの果てと同じものであった。




