第28話
「まるで猿みたいな婆さんだよ」
ヴェラが吐き捨てるように言いながら鞭をしならせ老婆へと叩き付ける。
しかし老婆は軽く後ろにとんで、それを難なくかわした。
警戒し始めたのか、老婆は距離を取ったまま近づいてこない。
離れて見る老婆の姿はまさしく小柄な猿のようで、薄くなった髪は乱れ背は丸く曲がり、腹が異様なほど出ていた。
「この場所じゃあ戦いにくいね」
廊下は狭く、三人が横に並んで戦うことができない為に、この場所では数の有利性が損なわれてしまっていた。
「少し待ってな、二階から婆さんの後ろへ回る」
そう言うとヴェラはあっという間に闇の中へと消えていった。
アッシュから離れてずっと、老婆は四つん這いのまま今もこちらを伺っている。
「理解できないな」
アッシュが呟く。
「石に、黒い水。飲むと病気が治って人を襲いだすだって?一体どういうことなんだ」
今眼の前で歯を剥き出しにしている老婆を見ても尚、アッシュにはヴィクターの話を信じることができなかった。
不意に、アッシュは武器を手放し下に落とした。
床に金属のぶつかる音が響き、またすぐに静けさが戻ってくる。
アッシュが武器を手放したのを見て老婆は反射的に飛び掛かろうとした。
しかし、既に裏に回っていたヴェラによってそれは阻まれる。ヴェラのしならせた鞭が老婆の足首に絡み付き、動きを封じたのだ。
絡めた鞭を思いっきり引っ張ると同時に、牽制するために短剣を老婆の目の前に投げつける。
どちらを攻撃するべきかと老婆が迷った一瞬の隙にアッシュは剣を拾い上げ、老婆に駆け寄ると斜め下から切り上げた。
老婆の体はその一撃で真っ二つになり、ぴくりとも動かなくなったのだった。




