第27話
広間を出て三人とも武器を手にする。
「あんた達、戦えるね?」
それは、相手が人間の姿をしていても、という意味だった。
「ああ、あんな話を聞いた後だ。姿がどうであれこのままにしておけない」
「そうだね、やれない、なんて言うつもりはないよ」
如何に人間の姿をしていても、中身は既に異形のものになっている。このままにしておけば、遅かれ早かれ近隣の村にも被害が出てしまうだろう。
だからこそ、ここで止めるしかなかった。
「上等だ。ただ悪いんだけどあたしの武器は正面から戦うのに向いてないんでね、そこは頼んでもいいかい」
もともと斥候が役割のヴェラは重量のある武器を装備していない。
今、手元にあるのは革の鞭と短剣が数本だけだ。
「わかった。引き付ける役は俺がやる」
アッシュのに言葉に、すまないね、とヴェラは頭を下げた。
話が終わり三人が前を向いた時、廊下の先には誰かが立っており、窓からの月明かりで辛うじて見えるその姿は、小柄な老婆だった。
「ちっ、起きてやがる!」
ヴェラの声を合図にしたかのように老婆が走り出す。
その速さは年寄りとは思えないほどで、速さだけではなく走る姿もまるで獣だった。
アッシュが前に出て剣を構え、左手に手斧を持つ。
侵入の邪魔になるからと円盾を館の外に置いてきたことをアッシュは少し後悔した。
低い姿勢で近づいてくる老婆に思い切り剣を降り下ろす。
しかしそれを横に跳んでかわした老婆は、素早い身のこなしでアッシュに飛び掛かってきた。
体ごと飛び掛かってきた老婆を手斧で受け止めたのだが、老婆は両足をアッシュの体に回し両手で頭を掴むと、そのまま噛みつこうと躍起になっている。
アッシュはそれを引き剥がそうと左手を前に押し出すが老婆はものすごい力で抵抗し、徐々に老婆の顔は近づいてきていた。
と、その時、老婆の顔に向かってアッシュの後ろから細剣が伸びた。
老婆は反射的に仰け反ってそれをかわすと、アッシュを蹴って後ろへ飛んだ。
ディーンが放った細剣による突きは老婆の顔を少し切り裂いたのみだった。




