第4話
「行くぞ」
ジャラリと金属音をたて、アッシュが立ち上がる。
狭い洞窟の中での挟撃を警戒し、しばらく洞窟を見張っていたのだが出入りするものはなかった。
手斧を握り盾を構えて歩く。
周りを警戒しながらディーンもそれに続いた。
洞窟の入り口まで来たところで左右に別れ崖に張り付くと、アッシュはファングに目で合図を送り洞窟の中を調べてくるように促した。
「この血と骨も、拐われた家畜のものなのかな」
入り口付近に散乱している骨と血の跡を見ながらディーンが呟く。
少ししてファングが骨をくわえて戻ってきた。
「ここで間違いなさそうだ」
ファングはくるりと向きを変えて、また洞窟内部へ入って行く。その後ろから二人も続いた。
洞窟の中は想像より広く明るかった。天井は高く、一部には穴が開いており、そこから日が差し込んでいる為だ。横幅は両手を広げてもまだ余裕がある為楽に武器を振ることができそうだった。
洞窟の通路は途中で左右に別れていた。
ファングが迷わず右に曲がるのを見てアッシュとディーンもそれに続く。
通路の先からは嫌な臭いが漂い、不快な音が聞こえてきている。
近づくと、その音の正体がゴブリンだと分かった。
拐った家畜の死骸が悪臭を放つ中、二匹のゴブリンが必死に死体に食らいついている。ゴブリン達は食事に夢中になり、侵入者であるアッシュ達に全く気付いていない。
「酷い臭いだ」
手斧を握り直しアッシュが前へ出ようとする。
しかしディーンがそれを止めた。
「待って。君が動くと音が響くから」
ここは僕が行くよ、と深く息を吸った後ディーンが静かに前に出る。
鞣し革の半長靴を履き、地面に踵から降りる歩き方は少しの音もたてない。
するりと細剣を抜き、そのまま静かにゴブリンの後ろへ近づいていく。
ディーンは細剣を胸の高さに構えると、左側のゴブリンの後頭部へ思い切り突き立てた。
細剣はゴブリンの頭を完全に貫通し、一瞬のうちに引き戻される。
異変に気付いたもう一匹のゴブリンが振り返り、ディーンの姿を確認する。
しかしその時には既に振り払った細剣の切先で喉を裂かれおり、声を出す間もなく倒れた。
醜い二匹の生き物はしばらくの間痙攣していたが、そのうちに動かなくなっていった。




