第26話
「勝手なことを言ってるのは分かっている。母さんを守るために君の仲間を殺したのに、その母さんを殺してほしいと頼んでるわけだからね。でも、もう無理なんだと思う。もう僕には母さんを守り続けることなんかできそうにない」
「まぁ、無理だろうね」
ヴェラが冷たく言い放つ。
「あたし達がここに来たのは商人組合からあんたのことを聞いたからだ。念のため商人組合には冒険者組合に話をしてもらってるからね、あたし達が帰らないとなるとまた別の冒険者がやってくる。逃げ切れないさ」
ヴェラはヴィクターを睨んだまま笑ってみせた。
「そうなんだろうね。君達が来たときに理解したよ、最初から間違ってたんだって。だから、頼むよ、母さんを、殺してくれ」
淡々と話をしていたヴィクターはここで初めて、懇願にも似た口調に変わった。
「ふざけるんじゃないよ、自分でけじめをつけたらどうなんだい」
しかしヴェラの態度は崩れない。
「やろうとしたんだ。現に君達が来たとき母さんの部屋にいたのはそうするつもりだったからなんだ。でも、できなかったんだよ」
ヴィクターは母の寝顔を見て思い出したのだ。
手当たり次第に襲い始めた母が、それでも自分にだけは手を出さなかったことを。
今目の前で眠る何者かは、自分にとってただ一人の家族なのだということを。
ヴェラが舌打ちをして立ち上がる。
「ヴェラさん?」
呼び掛けるディーンに向かってヴェラが言う。
「やるよ。こいつにとって母親だろうがあたしにとってはただの化け物だ。あたしが、殺してやる」
そう言って足早に広間を出ようとしている。
「ヴィクターさん、あんたの母親は話はできるのか?」
ヴェラを追いかけながらのアッシュの問いに、ヴィクターは無言で首を横に振った。




