第24話
「君達が人の死を一番強く感じる時はいつかな?僕にとってそれは、目の前からいなくなる時だった」
ヴィクターは虚ろな視線を机の上に落とし、話続ける。
「父さんが死んだ時、ただ眠ってるだけのように見えたんだ。でもその体を埋めた時になって初めて、父さんが死んだと感じた。僕はとても悲しかったよ」
「あんたはいったい何の話をしてるんだい」
ヴェラは苛立ちを隠さない。
「全てだよ。頼み事をするなら、隠し事は駄目だからね」
そう言って見つめてくるヴィクターの顔がまるで死人のように見え、ヴェラは思わず黙ってしまった。
「そう、それで、だ。その事があったから、僕は家族を失う悲しみを二度と味わいたくないと思った。なのに、母さんが病気になってしまってね、日に日に衰えていくんだよ」
ヴィクターはここで一度話すのをやめ、何かを思い出すかのように天井を見つめた。
「僕は祈った。もともと神なんて信じていないけど、何にでもすがり付きたかった。毎日毎日祈り続けたよ」
でも駄目だった、とヴィクターは泣いているのか笑っているのか分からない調子で話続ける。
「母さんはますます弱っていって、もうどうしようもないだろうって皆が言った。でも、ある朝起きたら僕の手の中にこれが握られていたんだ」
そう言ってごろんと机の上に投げ出したのは石のような塊だった。
「これが何なのか僕には分からない。でも何故か使い方は知っていた」
そしてヴィクターは思い付いた通りに動いたと言う。
「これを水の中に入れると、水が黒い液体に変わるんだ。どうしてかな、あの時はこれを飲ませれば母さんは元気になるって確信があったんだよ」
「飲ませたのか?」
アッシュにはヴィクターの言っていることが理解できなかった。
「ああ、飲ませたよ。でも、そしたら本当に治ったんだ。病気で起き上がることもできなかった母さんが、すぐに立つこともできるようになったよ」
病人が一瞬で快復する、そのことの異常さからヴィクターは完全に目を背けていた。
「一部の人達は気味悪がってたけどね、そんなの僕にはどうでもいいことだったよ。だってまた母さんが元気になってくれたんだから。また母さんと一緒に出掛けられるようになったんだから」
話ながら少しずつ声が大きくなっている事に気付き、ヴィクターは慌てて咳払いをして声を落とした。
「でもね、あれはどれくらい前だったかな、買い物から帰っている途中に突然母さんが道端にうずくまってね。気分でも悪いのかと近づいて見てみたら、母さん、蛙を食べてたんだよ」




