第22話
森の中を進み、館の裏へと回る。
昼間に荷馬車の残骸を確認したこの裏庭には、井戸や家畜小屋がある。しかし家畜小屋の中からは何の音も聞こえなかった。
「ずいぶん静かですね」
それは家畜小屋だけを指して言った言葉ではなかった。館の中からも周りからも、何一つ音がしていないのだ。
「静かすぎるね。それにこれだけ暗いというのに灯りの一つも灯っちゃいない。あんた達、十分気を付けな」
そう言ってヴェラが静かに館の裏口に近づく。
扉の取っ手を掴み施錠を確認する。
すると扉はあっさりと開いた。
「無用心だね。それとも、罠かい?」
ヴェラが自分に問うように呟く。
「何にしても、行くしかない」
アッシュの言葉にヴェラが動いた。
暗さには十分に目が慣れ、館の中を歩くのに不自由はない。
ヴェラを先頭にディーン、アッシュと続く。
先程から館の中を漂う異臭に誰もが気付いていたが、その事を口にするものはいなかった。
どの部屋の扉にも鍵は掛かっておらず簡単に扉は開く。
ヴェラが昼間に調べたところでは、一階には四つの部屋と一つの広間があるということだった。
一つずつ部屋を回り、三つ目の部屋の扉を開けたとき、三人の鼻を強烈な臭いが襲った。血の臭いだ。
部屋の中は片付いており、奥のベッドでは何者かが眠っているようだ。
暗くてよく見えないが、床に点在する染みが臭いの元凶なのは間違いない。
「こんな場所でよく眠れるもんだよ」
ヴェラが部屋に入ろうとしたその時、部屋の中から男の声が響いた。
「すまないがこの部屋には入らないでもらえるかな? 今は母さんを起こしたくないんだ」
声の主はベッドの横の椅子に座り、じっとこちらを見ていた。




