第3話
「夜になると家畜が拐われるのだ」と村人は言う。
初めは獣の仕業だと思い罠を仕掛けたがことごとく破壊され成果は上がらなかった。村人数名で見張りを行い、ようやく突き止めた正体がゴブリンだった。
ゴブリンの身長は人間の大人の半分ほどで四肢は醜く歪んでいる。またその小さな体に不釣り合いな頭の大きさと腕の長さをしており皮膚はヒキガエルのようだ。
日の光を嫌い普段は洞窟や廃墟などで暮らし血肉を貪る。
個々の身体能力は低く、知能もまた低い。
しかし繁殖力だけは高い為、現在大陸全土でその姿が目撃されている。数が増えるにつれ少しずつ社会が形成されているとも言われている。
そんなゴブリンが、真夜中になると森から現れ、数匹で家畜を襲い拐っていく。
拐われた家畜の数は既に10を超えているとのことだ。
とはいえ、普段害獣程度しか相手にしていない村人達にとって、ゴブリンを相手に戦うことは危険が多すぎた。
どうしたものかと手をこまねいていた時、冒険者の装いをしたアッシュとディーンが現れたのだから、何も知らない村人が彼らに依頼をしたのは仕方のない話だった。
しかしこの二人、実のところ未だに実戦経験のないひよっこである。
二人にとって商隊での生活は決して安全とは言えないものだった。盗賊や獣、魔物に襲われることも珍しくはないからだ。
しかし旅に慣れた商人や傭兵達のお陰で、直接何かと戦う必要はなかったのだ。
「ねぇ、ちょっと待ってよ!」
森へ入ろうとするアッシュをディーンが呼び止める。
「敵がどれだけいるか分からない、ゴブリンだけだとも限らない。そんな状態で本当に行くつもりなの?」
あっさりと依頼を受けたアッシュを、ディーンは必死に止めようとしている。しかし。
「村の人が困ってるんだ。それを知ってそのままにはしておけないじゃないか」
アッシュはディーンの言葉に耳を貸さず、どんどん先に進む。
「アッシュの言ってることは正しいと思うよ、でも」
言いかけたディーンの言葉を、立ち止まったアッシュが遮る。
「すまない…自分でも無茶なことをしようとしてるのは分かってるんだ。でもこのまま放っておいてもしも村が襲われたら」
俺は自分を許せない、そう言いながらアッシュは森へと入っていく。
「それに相手はゴブリンだ、それすら倒せないようならこの先やろうとしてること全てが不可能ってことになる」
少し下がってしまった気分を取り戻すため、アッシュはわざとおどけてみせた。
「分かったよ、アッシュ。君の判断に従う」
そんなアッシュの背中にディーンが声を掛ける。
「でも決して無理はしないこと。それから危なくなったら逃げること。これは絶対に守ってもらうよ」
僕達にはやらなきゃならないことがあるんだから、そう言ってディーンはアッシュの横へと追い付いた。
「ああ、分かった。付き合わせてしまってすまない」
「もう慣れたよ」
笑って答えるディーンに、アッシュは申し訳なさで少し恥ずかしくなってしまう。アッシュが無茶をしてディーンがそれに付き合わされる、彼らは昔からそんな関係だったのだ。
そんな二人の前を、ファングが進む。拐われた家畜の痕跡を辿り、ゴブリンの棲みかを見つける為に。




