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イシュト大陸物語  作者: 明星
森に潜む赤
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第8話

一夜明け、アッシュ達は朝から店を回り身の回りの物を買い揃えた。

解れや破れの目立った服を新調し、森の中を歩くのに適した半長靴へ履き替える。

擦り切れてきていた革紐を新しいものに交換し、荷物を背負う為の革袋を購入した。

食糧は基本的に森の中で調達すれば済む為、大量に購入することを避け、数日分の食糧を買い込み革袋の中に入れた。

ヴェラの頼みで鍛冶屋にも寄り、前から欲しかったという弩を購入する。森の中にある町なだけあり、弓や弩の種類が多く、その中から比較的小型の物を選んだ。

必要なものを買い揃え宿屋へ戻り、帷子を着込んで外套を羽織り武器を革紐で腰に固定する。

荷馬車の世話を宿屋に頼み外に出ると、太陽がちょうど真上に来る頃だった。


森の切り開かれた場所には木こり達が利用する小屋がいくつか建てられており、今日は二つ目の小屋まで行き、そこで泊まる予定にしてある。

そこから獣が現れた場所を南に迂回し、まだ人の手の入っていない森の中へと進む。森の中で何かしら竜に繋がる気配を感じられたならそちらに進むが、何も感じられない間は真っ直ぐ進み、様子を見て元の小屋まで帰ってくる。

赤い竜が見つかるまで何度それを行うことになるか分からないが、広すぎる森を無闇に探索するわけにもいかない。

見通しの悪い森の中でもファングに頼れば方角を見失うことはない為、森で迷うことはないだろう。

数日を費やし、それでも竜の手懸かりが見つからない場合は町を出て、新しい出発点を探すことになる。


そんな話をしながら四人は平地を歩く。

この辺りはいずれ町の一部にする為に、切り株も全て掘り返されている。

道は平坦で天気は晴れ。吹く風の冷たさも和らいできており、久しぶりの徒歩での旅は、それはそれでいいものだった。

そんなことを思っていた矢先、道の先に面倒事が視え、ヴェラは顔をしかめた。

「なんでいるのかね」

どうした、と聞くアッシュに、ヴェラはため息混じりで答える。

「この先にキール坊っちゃんがいるのさ」と。


「皆さん遅いじゃないですか」

アッシュ達の姿を見つけると、キールは怒ったような、安心したような、そんな顔をして走りよってきた。

「朝から町の外で待ってたんですよ」

なのにいつまで待っても来ないからもう出発したのかと思ってここまで来たけど誰もいないし、とキールは一人文句を言っている。

「あの、キールさんはどうして僕達を?」

何を言ってるんですか、とキールは呆れた顔をした。

「昨日父さんが皆さんに頼んでいたじゃないですか、僕を同行させてほしいって」

明日森へと向かう際に、未だ外の世界を知らないキールを同行させてやってほしい、昨日のグレイズの頼み事とはそれだった。

「その話なら、その場で断った」

一蹴するガレアの言葉にキールは「知ってますよ」と食らい付く。

「僕だって本当はもっと前に冒険者に同行して外を見たかったんです。でも危ないからって父さんがそれを許してくれなかった」

その為に冒険者の実情を知らず、組合の中だけでしか物事を判断できないことから冒険者達に煙たがられ、笑われ、いつまでも半人前だと相手にされない。そんなのはもう嫌なのだと、キールは熱く語った。

「だから父さんには、皆さんの許可をもらったと嘘をついて来ました」


「甘いな」

とガレアは思う。自分勝手な考えのキールにも、それを許してしまっているグレイズにも。

「どうする?俺はどちらでも構わんが」

ガレアにとって、組合員を同行させるのは何もこれが初めてではない。今までにも幾度となくこうして組合員に現地での出来事を体験させてきたのだ。

「俺は、帰ってもらった方がいいと思う」

アッシュの言葉にディーンが頷く。またここで、ライアンのような事故は起こしたくない。

「あたしも、そうしてほしいね。子守りができるほどあたしはまだ出来た人間じゃないんでね」

「ということだ」

誰も味方がいない状態にキールは歯噛みする。とはいえここで諦めてはまた冒険者達に軽く見られる毎日が続くことになる。何よりも今から町に戻っていては日が暮れてしまい、怖い。

「嫌です、僕は帰りませんよ。同行を許してくれないのであれば勝手についていきます」

その為キールは精一杯虚勢を張って抵抗した。


ふっ、とガレアが軽く息を吐く。

「仕方がない。これもお前達にとっては一つの経験だ」

同行を許可することにしよう、とガレアは歩き出し、続けた。

「だが俺達はまだ目的の相手を見つけていない。だからお前を、獣討伐に向かった冒険者達のもとに届ける。同行を許可するのはそこまでだ」

「はい、分かりました」

足取り軽くガレアについていくキールの後ろ姿を、アッシュとディーンは困惑した顔で、ヴェラはめんどくさそうに頭を掻きながら見ていた。

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