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イシュト大陸物語  作者: 明星
森に潜む赤
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第2話

荷馬車は村を出て街道を進む。

街道はカーディフとレディングを繋ぐ太い街道にぶつかり、そこから南に進路を取る。

街道を進む荷馬車の多くはカーディフからレディングに向かうもので、逆に湖の上にはレディングからカーディフへ向かう小型の舟の集団が木を引いて進んでいる。


「そろそろ聞かせてもらえないか」

レディングに向かう人達に混ざってのんびりと荷馬車が進む中、ガレアが口を開いた。

「ヴェラ、お前の勘の良さの正体は何なんだ」と。

ヴェラの動きに覚えた違和感、見えない場所にいる人間に気がつくことができた理由、そしてガレアはカーディフで噂されていた赤髪の魔女の話も知っており、その事についても言及してきた。

初めヴェラはガレアの言葉をのらりくらりとかわしていたが、無言でまっすぐに見続けられ、誤魔化すことを遂には諦めた。

「話すのはいいんだけどさ、聞いてどうするつもりだい?」

斬られるのはごめんだよ、というヴェラにガレアは言う。

「そんなことはしない。人の多いこの場所で聞くのは、何もするつもりがないという俺なりの証明だ」

その言葉にヴェラは安堵の溜め息をつき話始めた。

「北の山脈で聖女に出会った話は聞いてるよね?あの子は死にたがってたけど、あの子の持つ力が死なせなかった。あたしは彼女が死ぬ為に、聖女の力を引き継いだってわけ」

そのせいで年を取ることがなくなり、傷もあっという間に治ってしまう。そして昔話にあるように見えないものまで視えるのだと、ヴェラはガレアに説明した。

「でもだからって何でも視えるわけじゃないんだよ。前は相手の動きの先が視えてただけ。でも砂漠で竜に会った後から、なんだろうね、空気とか匂いとか振動とか?そういったいろんな情報が、あたしの頭の中に像を映すようになったのさ」

自分でもよく分からないよ、とヴェラは肩を竦めてみせた。

「眼帯は、もういいのか?」

フレンダにブローチをあげたことをきっかけに、ヴェラは眼帯を外している。

「前はね、人の動きが重なって見えるのが煩わしかったんだけど、今はもう慣れちまったよ」

そうやって、気が付けばいろいろなことに慣れていっている。慣れていくしかないのだとしても、それは少し寂しいことだった。

「人ではない人間も、聖女と呼ばれた力も、出所は同じ。やはり全てはカティナが原因となっている」

その力でカティナを探すことはできないのか、とガレアは言う。しかしヴェラは首を横に振った。

「あたしの視たいものが視られる訳じゃないからね」

その後もいくつかの質問が続き、ヴェラは自分の力を再確認しているかのように考え、答えていた。


「あの様子なら心配なさそうだね」

馬を操るアッシュの横に座り、ディーンが後ろのガレアとヴェラを振り返る。

村で戦った際にヴェラの正体を聞かれ、どうするつもりかと心配していたが杞憂だったようだ。

「ねぇアッシュ、僕は今回の件で決めたことがあるんだけど、聞いてくれるかな?」

「どうした?」

こういった話の切り出し方を、普段ディーンはしない。その為にアッシュは少し緊張してしまった。

「この旅が終わったら、僕は父さんのところに戻ろうと思うんだ」

戻って、行商人になろうと思う、とディーンは 続ける。

「旅に出て、いろんなことがあって、僕はライアンさんを死なせてしまって」

「しかしあれは」

アッシュの言葉をディーンは遮る。

「うん、仕方のないことだって、誰も僕を責めなかったし、僕もそう思うよ。でもやっぱり守りたかったよ。死なせたくなかった」

だからフレンダちゃんだけは、自分の力で守りたいんだ、ディーンは呟いた。

「それにね、前にアクルゥさんが話をしてた時、あの人はもっと王国が民を守るべきだと言ってたんだ。それで父さんを紹介することにしたんだけど、僕も父さんと一緒にアクルゥさんに協力すれば、もっとたくさんの人を守れると思うんだ」

どうかな、と聞いてくるディーンは、普段しない話に照れているのか少し顔が赤かった。

「そうか。それは、すごくいいと思う」

アッシュはどうするの?、というディーンの言葉に曖昧に返事をし、真っ直ぐ前を見て馬を進めるアッシュは少しの戸惑いを覚えていた。

自分はまだ先のことなど何も考えていない。赤い竜を倒すつもりで旅に出たが、村が滅んだ原因はカティナにあるという話になった。

赤い竜から話を聞き、それが確実だと分かった時、自分はどうすればいいのだろう。カティナを探しだし、斬るのだろうか。

村のことに固執し、目の前のことを決められないアッシュは、ディーンのように自分の今後を語ることなどできなかった。

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