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イシュト大陸物語  作者: 明星
森に潜む赤
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第1話

翌朝、アッシュ達が目を覚ますと、昨夜あれだけ酔い潰れていたカーマインは既に起きており、早朝から村人相手の商売に勤しんでいた。

そのカーマインの近くでは、フレンダが忙しそうに村人の対応に追われている。

ライアンの死を知る者、知らなかった者、それぞれと様々な話をしており、これからの事なども説明しているようで、どうやらフレンダの初仕事は村とのお別れも兼ねているらしかった。


目が覚めたアッシュ達を見つけ、カーマインが手招きする。何事かと行ってみると「これをご婦人達のお家まで運んでおくれ」と村人が購入した物を、重たい物から順番に両手一杯に持たされた。

めんどくさそうな顔をするヴェラにカーマインは言う。

「おや、まさか昨夜君が食べて飲んだものがタダだったなどと思っているのかね?」

周りを見ると、アッシュとディーンは既に出ており、ガレアも黙々と運んでいる。

「さぁ、お客様をお待たせしてはいけないよ」そう急かされ渋々村人について行く。配達が終わり戻ってくると、また行かされ、一段落ついたのは太陽が真上を過ぎたころだった。


「皆ご苦労だった。この村での商売はこれで終わりだ、しっかり食べて次の移動に備えておくれ」

カーマインからの簡単な労いの言葉を皮切りに商隊皆での昼食が始まる。

「お前達はこの後レディングに向かうのかね?」

大陸の南にある町、レディング。そこは大陸南の大部分を占める原生林への入口であり、アッシュとディーンが旅に出るためカーマインと別れた場所でもあった。

「そうだね、まずは情報を集めて、準備をしないといけないから」

巨大な森から切り出された木材は、湖を渡って各方面へと運ばれる。レディングの収入源である材木の輸出は、ずっと昔から活発に行われてきた。

にも拘らず人が切り開いた面積は、原生林全体の極一部。それほどに森は広く、深い。

「赤い竜が簡単に見つかればいいが、そうもいかないだろうしな」

「そうか。私達はまだいくつかの村を回らなければならないが、もしかしたらまた、レディングで会えるかもしれんな」

それまで暫しの別れだ、そう言って酒の杯を持ち上げると、カーマインは一気に飲み干した。


「いいかい?そのブローチ、無くすんじゃないよ?」

昼食が終わり、アッシュ達が旅立ちの準備をしている中、ヴェラはフレンダを慰めていた。

「次会った時それを無くしてたらタダじゃおかないからね」

くしゃくしゃとフレンダの頭を撫で、ヴェラが笑う。

「父さんのこと、よろしく頼む」

アッシュが連れてきたファングにフレンダが駆け寄り、抱きつく。

「父さんもあれでいい年だからね」

積み荷の確認をしているカーマインを見ながらディーンが微笑む。

フレンダはファングに抱きついたまま離れない。手を離してしまうと、これまでとは全く違う人生が一気に始まりそうだと感じていたからだった。

アッシュ達はフレンダの気の済むまでそうさせてあげることにし、荷馬車へと戻った。


「いろいろと、ありがとうございました」

少しして、カーマインに連れられてフレンダがやってきた。

「もういいのかい?」

「うん、カーマインさんに言われたの。お兄ちゃん達がカーマインさんのところに来たとき、私よりも小さかったって」

だったら私も頑張らなくちゃと思って、そう言ってフレンダは精一杯の笑顔を作ってみせた。

自分の身におきた変化、その為にこの村で何があったのか、フレンダがそれを完全に理解するのはずっと先の話だろう。

カーマインならその時にきちんと受け止められる人間に育ててくれる、一行はそう信じてレディングへ向け出発したのだった。


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