第17話
パチパチと、松明の燃える音だけが響いている。
ガレアは一見無防備に見える体勢で細剣をディーンへ向け、ディーンはその切っ先だけに意識を集中させている。
ガレアはディーンを止めると言った。それは何らかの方法で自分の意識を絶つつもりなのだとディーンは判断した。
ならば、自分が狙うのはガレアの持つ細剣。それを破壊し、ガレアを止める。
例えこの場でガレアを取り逃したとしても、武器がなければアッシュとヴェラの二人を相手にしながら、フレンダを狙うことなどできないだろう。
「とでも考えている顔だな」
だが甘い、とガレアは続ける。
「今お前がここで俺を止めなければ、俺は必ずフレンダを殺す」
松明の明かりに照らされ、ゆらゆらと揺れて見えるガレアの姿が一瞬屈み、地面を蹴る。
細剣での攻撃がくると、意識を切っ先へ集中させていたことが仇となり、ディーンはガレアの拳による脇腹への一撃を避けることができず
、肘を折り畳み防御することが精一杯だった。
二の腕を殴られ、腕が痺れる。直後、ガレアはぶつけた拳を開きディーンの腕を取ると、逆の脇腹に膝をめり込ませた。
ディーンは武器を取り落とし、膝をつく。
「武器など所詮、相手を殺す手間を省くだけの道具だ」
そう言ってガレアはディーンから距離をとる。
「俺の武器を壊せばフレンダが助かるなどという勘違いは捨てろ」
ディーンが武器を拾い立ち上がるまでガレアは動かない。
「どうして、止めを刺さなかったんですか?」
ディーンの言葉に、ガレアは答えない。
「それだけ強いのに、何の力もない女の子を、どうして守ってあげないんですか?」
腕の、脇腹の痛みを堪え、黒刀をガレアに向ける。
「どうして」
消え入りそうな声で呟き、今度はディーンが地面を蹴った。
手の中で刀を反転させ、振るう。薙ぎ払い、振り下ろし、体を回転させ蹴りを挟む。
しかしその攻撃はガレアに悉くかわされ、刀の背を細剣で叩かれ体勢の崩れた背中に肘打ちをくらった。
「俺が大きな武器を持たないのは、速さを損ねるからだ。お前の武器は軽いのだろう?ならばその速さを生かせ」
そう言ってガレアはまた、距離を取る。
次第に周りの村人達からヤジが飛び始めるが、ガレアはそれを気にする素振りを見せない。
「誰かを守るには力が必要だが、その力の種類は一つではない」
荷馬車での話を覚えているか、とガレアに問われディーンは思い出す。あの時ガレアは最後に信念の話をした。
「信念を持っていれば、収まるところに収まる、と」
ディーンの返事にガレアは頷く。
「僕は、あの子を守る為に、先生と戦います」
その言葉を受け、これで最後にしようとガレアは腰を落とし、細剣の切っ先をディーンの喉元に向ける。
ディーンは小太刀を納め、黒刀を両手で持つと、下段に構えた。
「お前の信念を見せてみろ」
勝負は一瞬の事だった。
いくぞ、とガレアが言うと同時に飛び出した。
その手に握られた細剣は真っ直ぐにディーンに向かって伸びる。
細剣を破壊する為に、下段に構えた刀を斬り上げるが、ガレアは細剣を少し引いてそれをかわした。
ディーンの体は、その事実を認識する前に動いていた。砂漠で手合わせした時に、この技を見ていたからかもしれない。しかしそうと気が付く間もなくディーンの斬り上げた黒刀は直後、同じ軌道で斬り下ろされ、首元寸前まで伸びていた細剣を半ばから真っ二つに斬り落とした。
そしてそこから更に一撃。振り下ろした場所で、黒刀を手の中で反転させ、足を前に踏み出し胴を薙ぐ。
その一撃はガレアの腹部を捉え、体をくの字に曲げた。
「それで、いい」
ガレアは倒れ、動かない。
村人達のヤジはざわめきに変わり、狼狽し始める。
ディーンは倒れたガレアに頭を下げ、村の外に向かって走った。




