第11話
家に入ってきたガレアは、背負っていた何かをゴトリと机の上に置いた。
「お前達の武器だ。念の為に持ってきた」
それで、とガレアは続ける。
「フレンダはどうなんだ?」
そう言いながらベッドで眠るフレンダに近づこうとするガレアを、アッシュとディーンが防いだ。
「もしも、フレンダが人ではなくなっていたら、先生はどうするつもりですか?」
「お前達こそ、どうするつもりだ」
ディーンの問いに間髪いれずにガレアは返す。
手元に武器になりそうなものはない。
ちらりと机の上に置かれた武器を見るが、この距離ではそれを手に取る間に、ガレアはフレンダを殺す事ができるだろう。
その時、フッとガレアが笑う。
「息子を斬った俺に警戒する気持ちは分かるが、今のところフレンダを斬るつもりはない」
それで、と言いながら、ガレアは自分の言葉を証明するかのように腰から細剣を外し、机の上に置いた。
「もう一度聞くが、お前達はフレンダをどうするつもりだ 」
「今はまだ、村の連中は誰も知らない。だが隠し通せるものではない」
いずれは必ず、フレンダが人でなくなった事は露見し、その後に待つのは混乱と私刑だとガレアは言う。
「そうなる前に殺してやるのも、一つの救いだ」
「ガレアさん、あんたやっぱり」
ガレアの動きを視ているヴェラの目に眼帯はない。両目を使い、少しの動きも見逃すまいと集中している。
「慌てるな、それも一つだと言ったまでだ」
考えてもみろ、とガレアは言う。
「この年で、何の知識も技術もなく、どうやって生きていく。他の場所に逃れたとしても、こんな小さな子供が一人、それだけで怪しまれる」
更にガレアは続ける。
「もしもどこかに潜り込めたとしても、人ではない人間は年を取らない。どんなに慎重に行動しても数年後には必ず見破られる」
それが分かっている上でお前達はどうするつもりだ、とガレアはアッシュとディーンを見つめた。
「正直、分かりません」
アッシュが言う。
「突然のことで、フレンダが人でなくなったことにも理解が追い付いてないのに、これからどうするつもりかなんて、分かりません」
でも、とアッシュは声を上げる。
「だからといって俺達がフレンダの命までどうにかするなんて、違うと思うんです」
殺すことなどできないが、かといってどうすればいいのかも分からない。自分でも都合のいい話をしているのは分かっているが、今はもう少し考える時間がほしかった。
「何のお話をしてるの?」
アッシュの声で目を覚ましたフレンダが起き上がり、周りを見る。
「おじさんは誰?」
家の中の雰囲気がおかしいことにすぐに気が付いたフレンダは、ベッドの傍らに立つディーンの背中に隠れた。
「大丈夫だよ。あの人は僕達の先生でね、フレンダの病気のこと、何か分かるかと思って来てもらったんだ」
そうですよね、とガレアに向けて懇願にも似た視線を送る。
「…ああ、そうだ」
ガレアはディーンの想いを受け、そして一つだけフレンダに聞いた。
「フレンダ、お前の病気はとても難しい病気で、この先治ることはない。とても辛い思いをすることもある。それでも、生きたいと願うか?」
フレンダはしばらくの間うつむいて黙っていた。長い間病に侵されていた時のことを思い出していたのだ。
ひどい熱と、吐き気に襲われ、毎日が辛かった。このまま死んでしまうのだと生きることを諦め、それなら早く死んでしまいたいと思うこともあった。
しかし、病気が治り、この数日アッシュ達と過ごす中で、フレンダの心は再び生きることを望んでいた。
だからフレンダは、はっきりと言った。
「私は、生きたい」と。
ガレアはその言葉に頷き、ではどうするべきかとアッシュ達と話始めた。
ヴェラのガレアに対する警戒が解け、ふと何気なく意識を外に向けた時、頭の中に家の外で座り込み、中の様子を伺う人物の姿が視えた。
ヴェラは机の上から短剣を取り、勢いよく外に飛び出す。
何事かとアッシュ達が開けっぱなしの扉を見ている中、外から男の叫び声が聞こえてきたのだった。




