第6話
トントンと、扉を叩く。
宿屋の主人に聞いて訪れたフレンダの住む家は古く、小さい。
兄と妹、2人で暮らすのにも狭そうで、ライアンが不在にしていたからか、いくつかの家の壊れた部分はそのままになっている。
「眠っているのかな」
ディーンがもう一度、扉を叩く。
家の中からは何の音も聞こえず、ここにフレンダが住んでいると知らなければ、廃屋と思えるほどだった。
「いや、そういうわけじゃなさそうだよ」
ヴェラは家の中で息を殺してじっと座る女の子の気配を感じ、そしてその姿が見たことのない家の中の風景と共に頭の中に浮かび上がるのが視えた。
あの日、砂漠で後頭部に違和感を覚えて以来、ヴェラの視える内容にはこういった変化が起きていた。
「知らない人だからね、彼女は警戒しているのさ」
しかしヴェラはその事を誰にも話していないし、これからも話すつもりはない。自分が人と違っていくことに、そしてそれを誰とも共有できないことに寂しさを覚えてしまうからだ。
「フレンダさん、僕達はライアンさんの代わりに来ました」
もう一度扉を叩き、ディーンがライアンの名前を出した直後、家の中からバタバタと音が聞こえ勢いよく扉が開かれた。
中から顔を出したのはあどけない顔をした女の子。
「君は?」
その女の子は痩せてはいるが、病気をしているようには見えない。
その為皆はその女の子がフレンダだと名乗ったとき、思わず顔を見合わせてしまった。
北の山脈で出会った聖女、ロゼッタと変わらないくらいの年格好であるフレンダに事情を説明し、家の中へ入れてもらう。
机の上にお金の入った大きな革袋とライアンの冒険者登録証を置き、ディーンはカーディフから始まり、砂漠で起きた事まで全てを話した。
ディーンの話を聞き終えても、フレンダは何も言わない。何も言わず、ライアンの冒険者登録証を手に取り、胸の前で強く握り締めてうつむいた。
その姿にディーン達も何と声を掛ければいいのか分からず、フレンダの言葉を待っている。
すると、フレンダの小さな肩が震え始め、登録証を握り締める手に一つ、二つと涙が落ちた。
必死に嗚咽をこらえ、泣くのを我慢していた小さな女の子は、それに気付いたヴェラに優しく抱き締められると、ついに大声をあげて泣き始めたのだった。




