第41話
アッシュ達は交代でライアンの亡骸を背負い、カーマイン達の待つ水場を目指し砂漠を歩いた。
途中話をするものは誰もおらず、竜の言っていたことの意味をそれぞれが思い描いていた。
砂漠を歩く自分達の姿を確認したようで、まだ距離のある水場から駱駝が引く一台の荷台がこちらに向かってきているのが見えた。荷台にはカーマインとガレアが乗っている。
「倒したのか」
近くまできたガレアの問いに3人は頷いて答える。
「ライアンくんは…まさか」
背負われているのが疲労からなのか、それとも怪我をしたのか、その程度に考えていたカーマインだったが、近くでみるライアンの姿は紛れもなく死人のそれであり、カーマインは一気に青ざめた顔になった。
ライアンの亡骸をカーマインとガレアに手伝ってもらい荷台に乗せ、水場まで戻る間に先程の出来事を話して聞かせた。
「そうか。まだ若いのに残念なことだ」
蜥蜴の王を倒した直後、突如現れたゴブリンの大群。それによってライアンは殺され、自分達も危なかったが、それを救ってくれたのは砂漠に棲むと言われていた黄色い竜だった。
「にわかには信じられない話ですな」
カーマインがガレアに言う。とはいえ、カーマインもアッシュ達の話を信じていないわけではない。ただ突然の話に頭が追い付かないのだ。
「みんなは竜を見ていないのか?」
アッシュの問いにカーマインが首を横に振った。
「私達はバルドさんの怪我の治療をしていたからね、空を見ている余裕はなかったのだよ」
「そうだ、バルドさんは?」
「命に別状はないよ。ただ目をやられてしまっていてね」
蜥蜴の王が体内で熱して吐いた砂は運悪くバルドの片目を捉え、焼いた。
そこから病気が感染するのを防ぐため、皆で暴れるバルドを抑え自分が眼球を取り出したのだと、ガレアは言った。
「よう、お前達にも迷惑かけちまったな」
水場に戻るとバルドが頭に包帯を巻き、片目を覆った状態で酒を飲んでいた。
「バルドさん、それは消毒用だと言ったはずですが」
カーマインが呆れた表情で言う。
「固いこと言うなよ。俺の許可もなく目を取り出しやがったせいで頭が疼くんだ」
そう言ってバルドは大袈裟に痛がって見せた。
「ああするしかなかった」
そんなバルドにガレアは表情を崩さない。
「分かってるよ。ガレア、すまねぇ。嫌な役をさせちまったな」
それで、とバルドが立ち上がり、荷台のライアンの亡骸を見る。アッシュ達はバルドに先程カーマイン達に聞かせたのと同じ話をした。
「なんてこった」
そう言ってバルドが酒を煽る。
「まぁ殺されちまったものはどうしようもねぇ。こいつには仲間がいたよな。町に戻ったら話をして手厚く葬ってやろうや」
では、とカーマインは水場に広げていた道具を片付けるように部下達に指示をする。
「この熱でライアン君の遺体が痛まぬうちに戻ることにしよう」
「岩塩はいいのか?」
そんな場合ではないと、アッシュも分かっていたが一応聞いてみた。
「そんなものはまた次の機会でかまわんよ」
普段は商売のことばかり考えているカーマインも、こんな時に何を優先するべきかはきちんと分かっている。アッシュはそんな養父の人柄を改めて尊敬し、感謝した。
荷台に積まれた物資は来たときの半分以下で、それを引く駱駝の足は軽い。一行は夜以外休むことなくカーディフの町を目指した。




